第1350話 昼過ぎのとある東町にて。2(何があるのか?)
無事に掲示板に貼り出された依頼を青年が受けられたようだ。
そして武雄達の下にやってくる。
「他の人達もいたようですね。
これは持ち回りなのですか?」
「そういうわけではないんだが・・・俺はまぁだいたい2週間毎にしているんだ。
あっちは・・・まぁ皆、この依頼が好きなんだよ。
はい、おっちゃん。」
青年が武雄に依頼内容を見せる。
「・・・?・・・これって?」
「あぁ、お使いなんだよ。」
青年が笑顔で答えるのだった。
・・
・
武雄達は先程の青年と一緒に依頼された買い物に同行していたのだが、結構な量の食糧を買い込み、とある場所に来ていた。
「ここが?」
「ああ、見ての通り孤児院だよ。」
青年がそう言うが武雄的には「保育園?幼稚園?」と平屋の建物を見ていた。
「では、食料が多かったのは・・・」
「子供達はいっぱい食べるからね。」
青年は気にせずに武雄に言ってくるが、武雄からすれば「依頼料だけでは足りない量を買ったはず」と思っている。
「俺もここ出身でね。
運営資金が足らなくなると孤児院から食料や衣服の依頼が出されるんだよ。
それを請け負って少し多めに買って渡すという訳さ。」
「寄付なら直接でも良いのでは?」
「そうなんだけど・・・
まぁ仕事として請け負った方が冒険者達のランク維持というか依頼の達成率を上げるのに良くてね。
孤児院に頼んで出して貰っているんだよ。
いつもは年末とかに多いんだけど・・・今回は入用なんだろうね。」
「まぁ言っている事はわかりますが・・・
・・・確かに町に根差した者の方がやる意味はありますかね。」
武雄が納得したようなしないような顔をさせて頷く。
「ちょっと依頼を完了してくるから。
じゃ、おっちゃん達はここで良いかな?」
「ええ、付き合ってしまってすみません。」
武雄が会釈すると青年が孤児院に入って行く。
「はぁ・・・」
武雄は訝りながら建物を見ている。
「マイヤーさん、ベイノンさん、孤児院というのは私の認識では戦争での遺児や捨て子の拠り所と思っているのですが、どうでしょうか?」
「所長、その認識で合ってます。
両親が死別等した際に身寄りがない場合、経済苦から子供を手放さなくてはならない場合の救済所です。
あとは・・・著しく親に虐待をされている子を保護した場合もここに預けられます。
そして一度入ると15歳の成人になるまではここで共同生活をするのですが・・・
ゴドウィン伯爵領では遺児が出るような戦争はなかったはずです。」
マイヤーが言い淀む。
「所長、こういった施設は街、町関わらず各地方にはあります。
それと維持には領主達が経済面の補助をしているはずです。
まぁ実際はこういった孤児院に入るか、スラム街に住み着くかどちらかなのですが・・・
施設に入ると自由がないと思われている風潮はありますね。」
ベイノンが追加説明をしてくる。
「となると、ここはゴドウィンさん達が資金援助しているのですよね?」
「そうですね。
潤沢とはいかないまでも食事については苦労しない分を用意するのが一般的だと思います。
冒険者に追加の食糧等を依頼するという事は・・・」
「資金が足らないんでしょうね。」
武雄の質問にマイヤーとベイノンが微妙な顔をさせている。
「・・・ゴドウィンさんやジェシーさんがこの手の資金を切り詰める事はしないと思うのですよね。」
「「・・・」」
武雄の呟きにマイヤーもベイノンも何も言えない。
「少なくとも資金不足はこの地域ではなさそうですし、さっきの買い出しで見てましたが、物価が著しく上がっているようには思いませんよね。」
「となると・・・部下ですかね?」
「担当者の横領ですか?・・・でもこんなわかりやすくてゴドウィンさんの評判に傷がつくようなことをするのですかね?」
武雄が腕を組んで考える。
「あと考えられるのは養う子が増えた・・・でしょうか。」
「戦争も飢饉もないのに養う子がいきなりね・・・」
「所長、聞き取りしないといけないでしょう。」
「ですね。
乗りかかったのですから事情聴取まではしておきましょう。」
武雄が頷く。
「なら・・・あの彼が用事を終えてから訪問しましょう。
少し、離れましょうか。」
「だな。」
武雄達はその場を離れるのだった。
・・
・
しばらく時間を空けてからの孤児院の玄関。
「失礼します。」
「はい・・・どちら様ですか?」
武雄が玄関をノックすると少しやつれた感のある初老の女性が出てくる。
「初めまして、私キタミザトと申します。
こちらの施設の事でお聞きしたい事があるのですが。」
「あの・・・どちらさまですか?」
女性が恐々聞いてくる。
「この地の文官とか武官ではありません。
他領の街で文官みたいな事をしている者です。
冒険者組合の掲示板で依頼をされていましたので、今後の為に実態を教えていただきたくお願いに参りました。」
「・・・申し訳ありません。
ここは孤児院でして、あまり知らない方を入れるわけには・・・」
女性が武雄達を断ろうとしてくるが。
「院長!例の男性の意識と子供達が!あ!」
奥から女性が声をかけてきて武雄達が居るのに気が付くと驚き顔と口に手をやる。
「・・・」
院長と呼ばれた女性が何も言わずに声をかけてきた女性を見ている。
「ふむ・・・我々はケアは出来ますし、条件が整えば1、2週間前の怪我なら治せますが?」
「本当ですか!?・・・ですが・・・」
女性は何か知られたくないことがあるようで目を右往左往させている。
「救える命を救えないというのは悲しいですね。
なら・・・ここで見た物を忘れるというのは出来ませんが、貴女の了承がない限り話さないというのは約束しましょう。」
「・・・今は、その言葉を信じるしかないようです・・・
こちらに。」
女性が中に武雄達を入れるのだった。
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