第1336話 アリスとクゥの散策。(アルバイト再び。)
アリス達はジェシーに連れられて表通りの商店の裏口から入店した。
護衛の一人が先導していく。
「あの・・・お姉様・・・ここは?」
「散策のついでよ。
ここは本屋よ。」
「へぇ~・・・
・・・ジェシーお姉様、私、王都でレイラお姉様に同じように本屋の裏口から入れられましたよ。」
「そう・・・ここね。」
とジェシーを先頭に室内に入る。
「いらっしゃいませ、ジェシー様、アリス様。」
店長と思しき男性が深々と頭を下げて出迎える。
「ええ、申し合わせの通りかしら?」
「は、準備は出来ております。
ささっこちらに。」
店長が皆を先導する。
・・
・
「またかぁ・・・」
アリスは椅子に座って目の前の本の山を見ながら呟く。
そして机の後ろには「祝!アリス様ご成婚!ジェシー様ご懐妊!記念 鮮紅の冒険 第2弾増版記念イベント」と横断幕があった。
「レイラから『王都では盛況でしたので、ゴドウィン領《お姉様》の所にアリスが来たらしてみてはいかがでしょうか?』って提案があったから、乗ってみたのよ。」
「・・・姉妹で何をしているのですか・・・
それにそういったイベントはエルヴィス領《私》には来ていませんが?」
「まぁ・・・エルヴィス領では・・・アリス嫌がるかもしれないし・・・したい?」
「いくらレイラお姉様が書いたとはいえ、他者が書いた自分の伝記を自分で売るのですか?
・・・えぇぇぇ・・・それってどうなんでしょうか・・・」
アリスが嫌そうな顔をさせる。
「うん、だからレイラはアリスに依頼しないんじゃない?」
「ジェシーお姉様はレイラお姉様の要請を受けたのですね。」
「まぁね、レイラのお小遣いになるという話だしね。
それにお小遣い欲しかったし。」
「ん?」
アリスが首を傾げる。
「え?手伝うんだから報酬は貰えるでしょう?」
「んん?」
さらに傾げる。
「・・・私はレイラの方に入る小遣いから少し分けて貰う事で合意済みよ。」
「私・・・報酬貰っていませんが・・・」
「・・・ん~・・・レイラはその辺は見落とさないとは思うんだけど・・・
あ、物納しなかった?」
「物納?・・・あ、イベント後に好きな物を食べて良いと言われました。」
「それね。
じゃあ、今回もそれで良いかな?
この後のお昼は食べたいだけ食べて良いわよ。
費用はレイラに請求しましょうか。」
「その辺はお任せします。
クゥちゃんは・・・」
そう言ってアリスがクゥの方を見ると。
「クゥ様、こちらでございます。」
「きゅ。」
クゥが頷き、ポンとインク台に手を置いてからに店員が出した紙に自らの手印を押す。
「きゅ?」
「はい!流石でございます!
ちなみにですが、クゥ様王都ではどちらの手でされましたか?」
「きゅ?・・・きゅ!」
クゥが両手を見てから押していた方の手を挙げる。
「はい、こちらですか。
なら今回は逆側の手を使いましょうか?」
「きゅ?・・・」
クゥが首を傾げる。
「はい、王都では初めて本にドラゴンの手印が押されるという貴重な物でした。
ここで王都とは違う事をする事で同じ特別感が出て来るのです。
それだけで王都の者達との違いが出せて、ある種の優越感が持てるのです。
クゥ様の手印だけで今日の完売は確約されたと言っても過言ではございません!
クゥ様!何卒、よろしくお願いします!」
クゥに店員が深々と頭を下げる。
「きゅ~。」
クゥが「任せて~」と頷く。
「・・・お姉様・・・店員さんの販売意欲凄いですね。」
「そうね・・・私もここまでとは思わなかったわ・・・」
アリスとジェシーが少し呆れていた。
「ははは、アリス様が来て頂けるのはこれが最初で最後になるかもしれません。
この機を逃してはならないというのが私達の意気込みです。」
「こういったイベントは初めてよね。
私もレイラからの手紙を見て『こんな売り方があったのか』と驚いたわ。」
「はい、ジェシー様、私共も提案を頂いた際に驚きました。
ですが、アリス様の圧倒的な国民への知名度、この地の領主の奥様の出席、クゥ様という稀少種の手印・・・これは売れる可能性が高いと思います。
いや!ここまでご用意されて売れないのは商人ではございません。」
店長が説明する。
「ちなみに今日は先着何名?」
「王都では先着200名限定で第1弾と第2弾同時購入特典として実施したとお伺いしました。
私共も同時購入で先着・・・250名です。」
「に・・・250?」
アリスが驚く。
「王都でさえ200名なのに?」
ジェシーが聞き返す。
「いや・・・私共では未だに予約が入る本になります。
王都で先着200名と伺った際は、『どれほど希少性を持たせるのか』と少なさに驚きました。
ですが、ジェシー様やレイラ殿下、アリス様の拘束時間を考えると200名から250名がギリギリなのだという事が我々の試算で出て来まして王都でも苦渋の部数だったというのがわかりました。
我々は限界である250部の販売をさせて頂きたいと思います。
何卒、よろしくお願いします!」
店長が深々と頭を下げる。
「アリス、やるしかないわよ。」
「はぁ・・・ですねぇ・・・」
アリスが手首のストレッチをしながら言うのだった。
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