第1321話 武雄達は準備。(ヴァレーリの思い。)
武雄は皆との打ち合わせを終えて、町中で買い物に勤しんでいた。
一緒に行動しているのはアリスにエリカにチビッ子達。
「ん~・・・魚の干物が・・・骨が多そうですね。」
「川魚だとこうなのではないですか?
でも干物と言えば海魚ですよね。
例外は紅魚でしょうか。」
「あ~?」
「きゅ~・・・」
「ビエラ、食べたいのですか?
クゥは食べる前から嫌がらない。」
武雄以外の同行者は店先の川魚の干物が気になるようだ。
「すみません。5つください。」
武雄が5つ買いミア以外に渡し、ミアには武雄の分を2つにして渡す。
食べ歩きを再開する。
「・・・主・・・塩味ですね。」
「あ~・・・」
「きゅ・・・」
チビッ子達には不評なようだ。
「骨・・・」
「ん~・・・」
アリスとエリカも微妙なようです。
「・・・川魚のワインビネガー漬けも良かったですけどね・・・カラッと揚げた方が美味しいだろうなぁ・・・」
武雄がボソッと言う。
「「ん?」」
アリスとエリカが武雄に顔を向ける。
「この干物の調理法は考えないといけませんよね。
それより明日から必要な物を買わないといけませんね。」
武雄はアリス達を気にせずに次の店に向かうのだった。
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東町の東の村。
「・・・」
コツコツコツ・・・
ヴァレーリは一人で部屋に備え付けられている机にお茶と手紙を置き、目の前の椅子に座っていた。
ただ左肘は机に置き、左手は額に付け、右手を拳にし、軽く机を叩きながら悩んでいた。
「ダニエラ・・・」
「・・・」
タローマティが聞いても顔も上げずに考えている。
「・・・はぁ・・・キタミザト子爵は敵に回せんな。」
ヴァレーリは体を起こし椅子に預けるとともに今度は腕を組む。
「・・・どのような内容で?」
「こちらの大まかな動きはわかっている感じだな。
・・・ウィリプ連合国へ行った際に、潜入している第4軍の手の者が奴隷で売られていたのをアズパール王国の依頼で採用したそうだ・・・」
「あら・・・ファロン殿と合わせて結構筒抜けですね。」
「まぁファロンについては魔王国の事は大まかな事しか知らないだろうが・・・企みの全体像を知るのは王軍でも幹部のみだ、我々の本当の動きはわかっては・・・あ~・・・だからなのか・・・」
ヴァレーリがガックリとさせる。
「どうされましたか?」
「タローマティ、第3軍はカトランダ帝国への技術供与だったな?」
「ええ、小型アンデットの操作技術の供与でしたよね。」
「・・・キタミザト子爵はそれが我らから供与されているのを勘付いているな。」
「第4軍の者では知らないはずですが・・・」
「キタミザト子爵はカトランダ帝国にも行っていたらしい・・・知らなくても第4軍の者への聞き取りやカトランダ帝国、ウィリプ連合国での体験・・・いろいろと細い糸を繋げて行ったのだろう。
キタミザト子爵は自動人形と言っていてな、その場では稀に居る人形遣いの魔法の事かと思ったんだが・・・
この手紙を読んだ後だと、この自動人形は我らの技術だろう・・・戻り次第、第3軍に確認させろ。
我は狼等の小型だと思っていたんだが・・・」
「自動人形・・・まさか2足歩行ですか?」
「・・・あの技術は4足歩行用だ。
だから第3軍からいろいろ経由させて兵士数が心許ないカトランダ帝国に技術供与をして偵察や前線と後方との連絡用にとしたはずだぞ。
・・・まさか奴ら・・・応用させたのか?」
「やりますね。」
「全くだ。
だが、4足歩行用と2足歩行用では考え方や技術が全く違うという話だったな?」
「はい。第3軍からはそう言われています。
それにアンデットの2足歩行操作技術は魔法師1名で魔法師と同程度の大きさのみという制限があるとの話でした。 我が国の魔法師ですらそうなのです・・・人間が?」
「・・・ふむ・・・カトランダ帝国・・・知恵が回る集団を抱えているな。
短命だからか?」
「かもしれません。
そういう意味ではキタミザト子爵達も発想が良いようです。」
「・・・キタミザト子爵は料理の発想が凄いよなぁ~。
あの才覚が兵器に行ったら大変だろうな。」
「アズパール王国の国風や領内の雰囲気なのでしょう・・・ですが、その情報をこちらに教えるという事は。」
「いや・・・キタミザト子爵から戦争等への何らかの要請はない。
そういった意味では、アズパール王国と我らは敵対も協力もする事はないのだが・・・」
「だが?」
「・・・なぁタローマティ・・・4年後に大量の小麦を買って良いか聞いてきているんだが・・・」
「それは・・・シモーナ殿を通じて王都の穀物問屋の小麦を買い占めると宣言されているような物ですが?」
「そうだが、通常の買い付けを締め付けるのは魔王国として悪手だ・・・通常の商売であるなら何も規制は出来ないだろう。
だが、何もしないで王都の小麦を集められるのは物価上昇の懸念があるから今回の連絡という事なのだろう。」
「アズパール王国は我らもウィリプ連合国の思惑もわかっていて受けて立つという事ですね。」
「そうだな・・・だが、ウィリプ連合国、カトランダ帝国、アズパール王国・・・動き出しているという事か。
まぁ・・・受けて立つアズパール王国の後ろでは我らとの通常対峙か。
エルヴィス家とゴドウィン家は大変そうだな。」
「同時期に戦争をさせますか?」
「その頃には我はアズパール王国のエルヴィス領で隠遁生活だ。
その時の魔王国王が決めれば良いが・・・相手が弱った所で攻め込む事は魔王国の者はしないだろう。
個人としてはアズパール王国は残したい物だ、狙うはウィリプ連合国なのだからな。」
「陛下はやはりそこですか。」
「ああ。あの国は慢心が過ぎる。痛手を与えなくてはならない。
アズパール王国のように異種族に寛容な国を潰して、人間至上主義の国が隣国に来ては魔王国自体が戦争ばかりの殺伐とした国になりかねん、我らは安住の地を確保するのみだ。
それにああいう緩衝用の国は必要だ。
ふっ・・・どうせ我らの方が戦力があるのだ、何を焦る必要がある?」
「それはその通りでしょう。」
ヴァレーリが悪い顔をする横で楽しそうにタローマティが頷くのだった。
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