第1304話 ウスターソースを売りたい?買いたい?(シモーナの価値。)
武雄はゆっくりと皆に出したトンカツと同じ大きさの草履型のコロッケを食べていた。
まだ若干オーク肉に抵抗があるようだ。
で、ゆっくり食べながら周りを見ている。
まずまずの反応かと思いきや・・・トンカツとウスターソースの印象が強いようで米に興味を示しているのは・・・数人といった感じだった。
「ふむ・・・まぁ概ね好評のようですね。」
「キタミザト子爵殿!ウスターソースをシモーナ殿の所に輸出するのですか!?」
先程2人前をぺろりと食べたヴァレーリが武雄に聞いて来る。
「ええ、ですが・・・今は頑張っても年に20か30樽が輸出出来る限界でしょう。」
「ん~・・・それですとシモーナ殿の所で消費されて終ってしまいます!
ここは大量に作られて魔王国の王都にも卸されるべきではないでしょうか!」
「そう言って頂いたのはありがたいのですが・・・まだこの商品は出来たばかりで生産が微々たる物なのです。
現状ではエルヴィス伯爵邸がある街のみでの販売で手一杯なのですよ。
その次に考えているのは領内の各町までの生産をどうするのか、その次は村々までです。
そこまで出来てやっと隣接する貴族領やシモーナさん達への輸出でしょうか・・・
魔王国の王都になどまだまだ先の事です。」
「んんー!
口惜しいです!」
「ははは・・・そこは申し訳ありません。
ですが、そこはまずは自国領内を優先するのが施政者の務めです。
自領よりも他領を優先させる事はありませんよ。」
「確かに・・・それはわかりますが・・・」
「なので定期的にシモーナさんの所に遊びに行けば良いのではないですか?」
武雄が何気なく言う。
「「ん?」」
ヴァレーリやフレッディが素の表情で武雄を見る。
「どうしましたか?」
「あ・・・いえ・・・他領に遊びに・・・ですか?」
フレッディが不思議そうな顔をさせる。
「ええ・・・魔王国ではしないのですか?」
「はい、魔王国では私用で他領に行く事はほとんどありません。
まぁ王都に居て里帰り程度はありますが・・・」
「確かに・・・まぁアズパール王国でもしている方は少ないのかもしれません・・・
ですが、少なくともダニエラさんはあの強さですよね。
魔物に襲われても問題なく対処出来そうですし・・・休暇の際に遊びに行けば良いのでは?と思ったのですが。」
「フレッディ・・・王都からファロン子爵の所まで・・・馬で2日でしたか?」
「はい、数週間仕事を頑張れば4連休も可能でしょうか。」
「・・・強行すれば1日で行けますね。」
「ヴァ・・・ダニエラ、そこは馬を潰してはいけません。」
「・・・帰ったらじっくりと考える事にしましょう。」
「はぁ・・・了解です。」
ヴァレーリの真剣な声色にフレッディが疲れたように返事をするのだった。
「あの~・・・これが魔王国の王都に行かないという事は・・・」
ブリアーニがおずおずと聞いて来る。
「ブリアーニ王国へはかなり先になるかと。」
武雄が答える。
「あぁぁぁ・・・ここで距離が・・・」
ブリアーニがガックリとする。
カストもブリアーニを憐れむような目を向けるがその気持ちは痛いほどわかるのだった。
「まぁ実際はシモーナさんが当方から仕入れた樽をどう分配するかはわかりませんが・・・」
「「「「あ!」」」」
ヴァレーリとブリアーニ、カスト、レバントが一斉にシモーナを見る。
「あ~・・・皆さんの所にはまだ先ですよ。
こんなに素晴らしいのが来てうちの領内で食べさせないわけにはいきませんからね。」
シモーナが「無理無理」と言い放つ。
「「「輸出!輸出!」」」
ヴァレーリとブリアーニ、レバントが抗議し始める。
「しませんよ~。
それにそんなに人気な物を領内で使わずに他領に卸したりなんかしたら私が誰かに恨まれそうです。
『あいつは同族より金に走るのか』なんて言われ始めたら刺されるかもしれませんからね。
なので他領に出すにはそれ相応の量が輸入出来てからです。
皆さんが定期的に来るならご用意しますよ~。
あ、相応のお金は頂きますが。」
「むぅ・・・」
「これは月1回くらいシモーナさんの所に遊びに行くしかないか。」
「私は年2、3回かも・・・んー・・・毎回米の輸送に立ち会えないしなぁ・・・」
ヴァレーリがジト目でレバントは苦笑しながらブリアーニは真面目に考えながらシモーナの考えを肯定している。
「ちなみにですが・・・
ウスターソースをアズパール王国で作れるのは私共とあと王国の西側の1店のみです。
また魔王国側の貴族と魔王国向けの輸出はキタミザト家の協力業者のみが出来ます。
ですが、エルヴィス伯爵領で魔王国向け、つまりはシモーナさんとの取引はキタミザト家が独占的に行いますので当方の業者への買いつけは行わなくて結構です。
現状魔王国側の窓口はシモーナさんのみです。
ゴドウィン伯爵領からも入手は出来るでしょうがそれは紛い物か非正規品、転売品になります。
発覚次第その店には何かしら対処いたしますのでご連絡いただければ幸いです。」
「むぅ・・・」
「ん~・・・」
「はぁ・・・」
3人が目を瞑って考え込むのだった。
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