第1291話 擦り合わせ。(3手目、関係者一同。)
武雄達が去った酒場にて。
「・・・シモーナさん・・・で構いませんか?」
「はい、構いません。」
「タケオ様の代わりに現状の事をお話しします。」
「あ・・・そういう事ですか。」
シモーナがアリス達の気遣いに気が付く。
「タケオ様が皆を連れて行きましたので・・・たぶん大丈夫でしょう。
ヴィクター。」
「失礼いたします。」
部屋の奥の扉が開きヴィクターが入って来る。
「兄さん。」
シモーナが立ち上がる。
「この扉は裏口と繋がっているのです。」
「正確には物置を挟んで裏口と繋がってるのですけどね。」
アリスとエリカが言う。
「さて・・・シモーナさん、ヴィクターを殴って良いですよ。」
アリスが言う。
「え!?殴る?」
シモーナが驚く。
「だっていきなり居なくなって、何も音沙汰もないのに唐突に生きてると手紙を送って来て物を売ってくれ・・・怒らない方がおかしいです。
ちょっとぐらい怒った方が良いですよ。」
「うんうん。
まぁヴィクター殿の経緯も知っていますからアリス殿の言い分はちょっと過激ですが。
シモーナさんから見たら関係ないですしね。」
アリスとエリカが「鬱憤晴らしちゃえ」と言っている。
「あ~・・・何だか毒気が抜けました。
確かに会ったら殴ろうかと思ったのですが・・・お二人の発言で何だかその気がなくなりました。
・・・はい、良いです。」
「そうですか?
殴りたくなったら2発まで許可しますから。」
「右左の1発ずつかぁ・・・私なら5発くらい殴らないと気が済まないかも。」
「アリス様、エリカ様・・・話を進めませんか?」
ヴィクターが身の危険を感じ始め進行を促す。
「はぁ・・・そうですね。
では、タケオ様が時間を稼いでいる内に話をしましょう。
ヴィクター、今までの経緯を簡単にシモーナさんに説明しましょう。」
「はい。
シモーナ、手紙で概要は送ったが、私達家族が目が覚めたのは船の上だったのだよ。」
「うん、何言ってんさね?」
「水をささずに聞きなさい。」
ヴィクターがシモーナに説明を始めるのだった。
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東町の門外にて。
「・・・割りに合いませんね。」
武雄が空を見ながら呟く。
「所長・・・頑張ってください。」
「あ~・・・」
マイヤーが励ましをビエラが優しい目を向けている。
「・・・ビエラ・・・その憐れむ目を止めなさい。
と、ビエラ、ヴァレーリ陛下はどの程度なのですか?」
「ん~・・・魔眼のアリス!」
ビエラが答える。
「本当に?・・・ここに来て魔眼と同等かぁ。
マイヤーさん、ヴィクターの話では吸血鬼でしたね。」
「私は直接は聞いていませんが、陛下からはそうらしいと聞いています。
確か・・・ヴィクター殿達を最初に王城にお連れした日の寝る前にだったでしょうか。」
「あぁ、その前でアランさんにヴィクターは説明しています。」
「そうでしたか。
所長・・・死なないでくださいね。」
「パナ。」
「一応、私の名前は向こうには伝わっていません。
私は姿を消して全力でタケオのサポートに回ります。
一時的にですが、アリスやヴィクター、ジーナがしているケアの常時発動状態になりますので大きな怪我はないと思いますが、油断はしないようにしてください。」
「はい、了解。
ビエラ。」
「あ~。タケオ、がんばっれ。」
「主、万が一は一番にビエラが割り込むそうです。
私はマイヤー様と居ます。」
「はい、お願いします。」
「さて・・・時間稼ぎをしますか。」
武雄がヴァレーリの方を向くのだった。
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「陛下!くれぐれも!くれぐれも!
キタミザト子爵を殺したり後遺症が残る怪我をさせてはなりませんからね!」
フレッディがヴァレーリに言い聞かせていた。
「わかっている、わかっている。」
ヴァレーリが適当に聞き流している。
「陛下・・・何割でしますか?」
カストが聞いて来る。
「そうだなぁ・・・噂の鮮紅殿なら~・・・7割と踏んでいた。
鮮紅殿の推薦だが『恋は盲目』と言うからな、キタミザト子爵は5割が良いとこだろう。
まぁ人間種で我の5割でも英雄だと思うがな?」
「それは確かに。」
「ヴァレーリ殿、ちなみに来る際に第2軍と組手をされたと言っていましたが、あの時はどのくらいですか?」
ブリアーニが聞いて来る。
「・・・7・・・8割程度か。
良い汗をかいた。」
「汗などかいておりませんでしたが・・・王軍の軍団相手に8割ですか。」
フレッディが呆れる。
「なーに言ってる。
カストもフレッディも1対1で戦うなら8割は出さないと倒せないと我は踏んでいるんだぞ。
お前らも相当強いだろう?」
「それは喜んで良いのでしょうか?」
「まぁ軍団相手と個人相手では勝手が違うでしょう。
同じ8割でも同じではないと。」
「そうですね。
はぁ・・・キタミザト子爵に怪我だけはさせてはいけませんからね?」
カストが心配している。
「ある程度は致し方あるまい。
それに向こうの連れている部下も手練れのようだ。
ケアぐらいはするだろう。
だがまぁ・・・人間種が我の5割で耐えられるか・・・見ものだな。」
ヴァレーリが目を細める。
「・・・主、我の補助は?」
「いらん、いらん。
お前やダハーカを使えば国が滅びかねん。
これは余興だ。
おばさまの安全を守っていろ。」
「・・・わかりました。」
タローマティが頷くのだった。
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