第1284話 ヴィクターはちょっと憂鬱。(ヴァレーリが何か気が付く。)
「主、私は同席してもよろしいのでしょうか。」
ヴィクターが恐る恐る聞いて来る。
「・・・シモーナさんとは今回の受け取りで会わせようとは思っていましたが・・・
同行者が増えているのが気がかりですね。
ヴィクターを知る者が居るかで変わるでしょうね。」
「それは見てみないとわかりません。」
「でしょうね。
なので、明日の昼過ぎまで私とヴィクターとマイヤーさんは街道沿いから少し入った所辺りで監視作業です。」
「スコープですね?」
「ええ、ヴィクターが見て知っている顔が居たら会談には出ないでシモーナさんとは夕食後にでも会えば良いでしょう。
兄一家と昨日まで普通に話していたのに次の日には居なくて、やきもきしていたらいきなり手紙が来て隣国で奴隷の執事です。
・・・絶対言いたい事ありますよね。」
「主、その際は同席してください。」
「いやです。
家族の事に首は突っ込みませんよ。
1、2・・・4、5発殴られて来なさい。
すぐに治して上げますよ。」
「それで済めば良いのですが・・・はぁあいつは戦闘はからきしのくせに力強いんです・・・」
ヴィクターがガックリとしている。
「しょうがないですよ。
突然だったのですしね。
・・・任期中は頼みましたよ。」
「はい、主、私達父娘を拾って頂いたご恩をお返しする為、精一杯働かせていただきます。」
「ヴィクター、気負わなくて大丈夫です。
ヴィクターの仕事への姿勢で十分満足しています。
要望と言うわけではありませんが、仕事以外でもヴィクターは楽しまないといけませんね。」
武雄が笑顔で答えるが「というより、ここまで完璧だともう元が取れていそうなんですけど」と思うのだった。
「仕事以外・・・ですか?」
「ええ、まぁこういった遠出の際はなかなか出来ないでしょうが、仕事以外の時間は自分の為に使いなさい。
もちろん、犯罪はダメですよ。」
「わかっております・・・ですが、前の時もあまり自分の時間というのはなかった物で、些か何かしていないと落ち着かないのです。」
「それは仕事病ですね。
雇用側からすれば喜ばしい事かもしれませんが、折角自由な時間があるのです、仕事をする時は精一杯する、それ以外は自分の趣味に没頭する。
そんな生活をしてみるというのも良いと思うのですけどね。」
「主の趣味は何でしょうか?
まぁ聞かなくてもわかりますが。」
「・・・現状では趣味が仕事になっていますね。
まぁ今の忙しさも一段落すれば半日は読書に没頭してあとの半日は散策しながら皆の様子でも見に行きますかね。」
「のんびりですね。」
「私は忙しくしてはいけないようなのですよね。
あれもこれもとやってはいけないとジーナに釘を刺されています。」
「はい、主はそのくらいで十分でしょう。」
「・・・まぁ次まで考察をしておけばいいという事でしょうね。」
「それはそれで怖いですね。」
ヴィクターが難しい顔をさせながら首を傾げる。
「タケオ、サイウンから定時連絡。
一行と思われる集団が関を越え順調に移動中、距離や時間的に今日は想定通りに村に泊まる模様。
ユウギリとシグレから連絡、特に何もなし。
強いて言うと伯爵がフレデリックに見つからないように息抜きをしていたが、見つかり執務室に連行された。
皆が居ないので掃除が捗るとの事。
シグレの方からは南西の森については動きなし。
2人にこっちの状況を送った。」
初雪が武雄に報告してくる。
「はい、ご苦労様です。
初雪、関の状態は?」
「あの一行は変。
周囲の魔物が街道付近から奥に行ってしまった。」
「・・・ヴィクター、これはどう見ますか?」
「・・・周辺の魔物が奥に退くというのは無意識下で脅威と認識したという事でしょう。
高位の者が来たと推測出来ます。
陛下や女王の侍女ですのでそれも多少は致し方ないかと。」
「・・・ふむ・・・やはり明日の昼前から監視が必要ですね。」
「そのようです。」
武雄とヴィクターが頷くのだった。
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シモーナ一行。
「えーっと・・・今日は村ですね。
もうすぐです。」
「昼を少し過ぎたけど・・・まぁこんな物か。
シモーナさん、順調なのよね?」
「はい、今日の昼過ぎに村で明日の昼過ぎにエルヴィス領の東町です。」
「積み荷にも何もないし、魔物の襲撃もない。
良かったわね。」
「はい。
村に着いたらのんびりお茶ですかね。」
「アズパール王国のお菓子とかあれば良いわね。」
幌馬車の御者台にいるシモーナとレバントが話をしている。
後ろのヴァレーリ一行。
「・・・」
ヴァレーリが器用に上を見ながら馬に乗っている。
「・・・器用な事を。」
横のタローマティが呆れている。
「・・・陛・・・ダニエラ殿、いかがしましたか?」
「フレッディ、たぶん監視されていると思います。」
「・・・あの上の鳥ですか?
確かに我らの上空をグルグルと旋回していますが。」
「ええ、それにあの鳥・・・普通の猛禽類より少し高く飛んでいるようですが、今日の朝からこれで3度目になります。」
「人間が鳥を使うと・・・偶然では?」
「だと良いですね。」
ヴァレーリがそう言って顔を正面に向ける。
「ダニエラ、どうします?」
ブリアーニが聞いてくる。
「どうもこうも・・・我わ・・・私達は客人です。
慌てず騒がず怪しまれず過ごすしかありません。
良い方で考えれば周辺警戒をしてくれているのでしょう。
タローマティ、周囲に何か居ますか?」
ヴァレーリが目線を隣のタローマティに向ける。
「・・・周囲に居るのはスライムばかりですね。
多少多いのは他の魔物が周囲から居なくなったからでしょう。」
「スライムですか・・・
周囲に兵士を配置しないのは向こうが警戒していないと捉えるべきでしょうね。」
ヴァレーリがすまし顔で言う。
「敵国からの入国に対し些か不用心では・・・こちらの人員がわかっているのでは?」
フレッディが訝しがる。
「フレッディ、それは同行者が私達だからです。
ですが、商隊とはそういう物なのかもしれません。
領主が商隊に一々護衛の兵士を割くことはしないでしょうから。
商隊に護衛を付けるのなら商隊が連れて来るべきなのですからね。」
「はっ。
ですが、用心はします。」
「そこは当たり前です。
気を抜き過ぎたら私が皆さんを指導させて貰います。」
ヴァレーリは「気を抜くなよ?」と威圧するのだった。
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