第1270話 さぁ関に向け出立しよう。(蟲は強いとな?)
「良し!では出立しましょうか。」
「「は~い。」」
シモーナの号令で皆が移動を始める。
・・
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「おばさん、今日はエルヴィス伯爵領の関まででしたよね?」
幌馬車の御者台に居るシモーナが隣に座るレバントに声をかける。
「そうね。
シモーナさん・・・魔物が出ないわね?」
レバントが周りを見ながら言う。
「一応、事前に甥っ子に周囲の警戒をお願いしているので問題はないと思っていますけど・・・
まぁこの辺りは比較的居ませんからね。」
「そういう物なの?」
「ええ、騎士組が余分な魔物は狩っています。」
「余分って・・・まぁ安全ならそれで良いんだけど・・・
ダニエラちゃん、不満そうね。」
「流石陛下の侍女様ですね。
戦闘狂なのでしょうね。」
「私もシモーナさんも戦闘ではからきしだろうからね。」
「まぁ、そうですね。
はぁ・・・ウォルトウィスキー、上手く行っているかなぁ~?」
「そこは祈るしかないわね。」
「はい。」
シモーナとレバントが難しい表情をするのだった。
幌馬車の後ろを着いて来る一行はというと。
「ふむ・・・この辺は少し気温が涼しいのですね。」
ヴァレーリが周囲を見回している。
「それにこれだけ森が深ければキノコも取れそうですね。
街の外れの農地もしっかりと管理されていましたし、騒乱はなさそうですね。」
カールラも周囲を見回す。
「・・・この地はやらんと言っておるだろうに。」
「ふふふ、次期陛下にお願いしなくちゃいけないのでね。」
「街道に領主への失点に繋がる物なんてある訳ないでしょう。
ねぇ?フレッディ。」
「そうでございますね。
それにいきなり領主の座を引き継いだのです。不慣れな事もあるでしょう。
多少は甘めに見ないといけないかと思われます。」
ヴァレーリに振られたフレッディが答える。
「領地替えはまだまだ検討にも上らない代物ということです。」
「毎年言わないといけない事なんですよ。
はぁ・・・ダニエラの代で替われると思ったのに・・・」
「蟲ですか・・・現状戦力で叩けないのですか?」
「それが勝てないのよ・・・相性なのかも・・・」
カールラがガックリしながら言う。
「ん~・・・フレッディ、成果は出そうですか?」
「まだ報告は上がって来ていませんが・・・
確かブリアーニ王国の森は深いという事で進撃は緩やかにならざるを得ないと考えております。
ですが派遣した者達はそうそう負けはしない面子を揃えましたので、王城に戻られる頃には報告が上がっていると思われます。」
「その結果を見て増派するか考えるしかないでしょう・・・陛下にも奏上いたします。
ただ・・・エルフも私達基準では弱いですが、普通に考えれば蟲に負けるとも思えません。
・・・新種がいるのでしょうか?」
「上位種の存在もあります。
ですが、ブリアーニ陛下、そのような事は?」
「上位種・・・悔しいですが私達では確認出来る距離まで到達していません。
追い返すのが精々ですので。」
「ふむ・・・上位種・・・ですか。」
「ダニエラ、貴女が行くのは無しですからね。」
タローマティが牽制してくる。
「・・・もうすぐ陛下の退任に伴ってお役御免なのですけどね。
あぁ良いです、そこはフレッディの派遣した小隊の報告を待つことになるでしょう。
その後の対応は報告書次第という事で。」
「はい。わかりました。」
ヴァレーリの宣言にカールラが頷く。
「ふむ・・・西側はずいぶんとのんびりとした感じなのですね。
魔物がこれだけ少ないと安心ではありますが。」
カストが街道の両脇を見ながら呟く。
「おや?カス・・・グラート殿もこの地が気になりますか?」
フレッディがカストに聞く。
「これほど少ないとなると・・・狩りをするのが一苦労な地はあまり魅力がないですね。」
「さすが狩猟種族。
畑はされないので?」
「畑はオーク達にさせていますし重要な業種なのはわかりますが、やはり空から獲物に向けて突撃する事にやりがいを感じますね。
あの爽快感は畑仕事では味わえないです。」
「戦闘本能ですかね?」
「かもしれませんが、種族を問わず男子という者は戦う事が好きな物だと思いますね。」
「一概に言い切れませんが、多いのは確かですね。
私も子供の頃は良い感じの棒を持って兵士や冒険者を真似ていた物です。」
「私なんか大人達を真似て何度、頭から地面に激突した事か。」
「そういう話を部下達に聞いてみますかね。」
「止めた方が良いと思いますね。
皆が心の中にひっそりとしまっている物を呼び起こすのは忍びないですから。」
「そういう物ですか。」
フレッディが頷くのだった。
「あ~・・・おばさん。
何もないですね。」
「あったら困るわよ。
でも、国境近くだからもう少し魔物が居ても良いような気もするわね。」
「普段はそれなりに感知出来るんですけどね。」
「あら?シモーナさん、感知が出来るの?」
「いえ、『何か居る』程度ですけど。
今日は何もいないんですよね。」
「良い事ね。
ファロン子爵家の騎士組が仕事をしたという事でしょう?」
「だと良いんですけど・・・
いくらなんでもこんなに居ないというのは初めてです。
ん~・・・甥っ子が上手くしたんでしょうか・・・出来ないような気もするんですけどね。」
「散々な評価ね。」
「ええ、甘い採点はしませんね。」
「領主というのも大変そうだわ。」
レバントがヤレヤレと手を上げながら首を振るのだった。
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