第1269話 149日目 東町に向け出立。(それぞれの場合。)
早朝、エルヴィス邸の玄関。
武雄達出立組がエルヴィス爺さんやフレデリック、アーキン達に見送られていた。
「では、エルヴィスさん、行ってきます。」
「うむ。タケオ、気を付けての。
アリスもエリカ殿も無理はしないように。」
「はい。」
「お心遣いありがとうございます。」
「皆も気を付けての。」
「「はっ!」」
試験小隊の面々が返事をする。
「総員騎乗!」
マイヤーが号令すると皆が一斉に動く。
「うむ、行ってくるのじゃ。」
「はい、マイヤーさん。」
「はい、出立!」
マイヤーの号令で幌馬車一台と馬6頭が移動し始めるのだった。
・・
・
「行きましたね。」
「うむ、居残りの者達も帰ったの。
さて・・・寝るかの。」
「折角早起きしたのです。
これから執務という手もありますが?」
「寝るのじゃ。
孫たちが全員居なくなったのじゃ、たまにはグダグダしても良いじゃろう?」
「ダメに決まっています。」
「いや!今日ぐらいは良いはずじゃ。
ん?夕霧どうしたのじゃ?」
「ん、各スライム達から連絡がありました。」
「そうかの。
では、客間に行ってお茶をしながら聞こうかの。」
「そう致しましょう。」
「ん。」
エルヴィス爺さんとフレデリックと夕霧が移動するのだった。
・・
・
「ジーナとスミスは順調に移動中。
出立して今日で5日目、クゥが居た場所で野宿の予定。」
「ふむ、順調じゃの。」
エルヴィス爺さんが頷く。
「アンダーセン達研究所の後続と若者の馬車は隣の村にいる模様。
今日の夕方到着予定。
ちなみに2日前にジーナ達と面会した模様、特に何もなかったようです。
これはイソカゼよりの報告です。」
「そうですか、ジーナと上手くやっているようですね。
到着については後程、アーキン様達にお伝えしましょう。」
フレデリックがメモを取る。
「関の方では未だ動きなしです。」
「ふむ・・・向こうはまだ到着しておらんということか。
フレデリック、1日早くタケオは着く算段じゃの?」
「はい、一応、昨日の時点で東町の局長宛に会議室を借りる手はずは付けました。
あとは・・・どういった交渉の場を作るのかでしょう。」
「・・・とはいっても向こうは米と堅魚節、こちらはウォルトウィスキーとウスターソースじゃの。」
「・・・昨日の時点ではなかったのですが、いつの間に用意をしたのでしょうか。
タケオ様は樽を見て驚きもしていませんでしたが・・・」
「さて・・・じゃが、まだあれはアズパール王国外に出さないのではなかったのかの?
領外に出してもフレッドとロバートの所だけだと思っておったのじゃが。」
「タケオ様が何か考えているのでしょう。」
「そうじゃの。
動き出してしまったのじゃ、後は良い結果が来ることを願おうかの。」
「そうですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷くのだった。
------------------------
武雄達一行。
城門を出てそれなりの速度で移動している。
「で・・・誰がウスターソースを積んだんですか?」
タケオが隣のマイヤーに聞いていた。
「朝の集合の時にお店の方が来て樽を置いて行きましたよ?
所長ではないのですか?」
「私ではありません。
ウスターソースは来年くらいに魔王国に出荷予定なんですよ?
今見せてどうするのですか。」
「私ですよ。」
武雄の後ろを走るアリスが言ってくる。
「ふむ・・・アリスが魔王国関係で私に何も言わないでするとは思えませんね。
意図は何でしょうか。」
「いえ普通に向こうで会議室とか借りるのですよね?
なら局長達にも迷惑をかけるのでウスターソースを持って行って労おうかと思ったんです。」
「なるほど、確かにそこは思いつかなかったですね。
では、あれは魔王国向けではなく、文官達の慰労目的という事で使用して良いのですね?」
「はい、私はそのつもりで買いましたけど。」
「なら向こうに着いて昼ぐらいに焼きパスタでも作りますか。」
「あ、良いですね。
焼きパスタ!」
アリスが嬉しそうな顔をさせる。
アリスの横にいるエリカは小さく拳を握る。
他の面々は「絶対、労いじゃないな」と思うのだった。
------------------------
一方のヴァレーリ達はというと。
「んん~!
タローマティ、たまの野宿は良いものですね!」
ヴァレーリが寝起きで背伸びをしていた。
「普通ならベッドで寝たいと駄々を捏ねる者もいるでしょうに・・・ダニエラ、そういう鈍感さは流石です。
ちなみにシモーナ様を手伝わないと朝食にありつけませんよ。」
「そうですね。
昨日、切り倒した細木も薪に出来るくらい水気は抜けたでしょうか?」
「軽く火を当ててはいますが・・・使えてもまだ煙が多そうですね。」
「では、それは帰りに使うしかありませんね。
シモーナ殿、何をすれば良いですか?」
ヴァレーリが近寄りシモーナに話しかける。
「いえいえ、簡単なスープとパンですので座ってお待ちください。」
「そうですか・・・感謝します。」
ヴァレーリが素直に座って待っている。
「ダ・・・ダニエラが他人の言う事を聞いている。
成長したわね!」
カールラがワナワナさせながら目を見開いて驚いている。
ちなみにカストとフレッディは周辺を見回っている。
「・・・おぃ。私をどう見ているんだ?」
ヴァレーリが小声で抗議する。
「ん~?・・・癇癪持ちの子供?まだまだ若いし。」
「はぁ・・・年齢を言わないでいただきたい。
私はまだ95歳、カールラは652歳だったですか?」
「そうね。
ダニエラはこの中では一番の若輩かもね。」
「・・・はぁ、私もですが。
国の行く末を若輩者に託すという事をする魔王国も存外、行き詰っているという事でしょうか。」
「先代は未来を見ていたという事でしょう。
今代の陛下も現状維持されていました。
これからは次期陛下がどうされるかということです。」
「はぁ・・・陛下もそれは気にされていますが・・・見守るしかないでしょう。」
ヴァレーリがため息交じりに焚き火を見るのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




