第1256話 旅行を満喫する方々。(着いた着いた。)
ファロン子爵領のシモーナの商店「銀の月」の前。
「さて・・・ここのはずだから・・・
ちょっと見て来ますね。」
レバントが荷台を降りて店に入って行く。
「いや~・・・何もない!」
ヴァレーリが馬を降りて伸びをする。
「ダニエラ・・・それだとこの街が何もないと言っているように聞こえますが?」
タローマティが呆れている。
「おっと・・・訂正、訂正。
旅で何かに襲われる事もなくのんびりとしているという事だな!ははは!
魔物でも出れば良いのにな!」
「・・・私達が居て出て来る度胸がある魔物が居るというのは逸材でしょうね。
是非、王城に雇い入れましょう。」
フレッディが頷いている。
「・・・これほど魔物の気配がない移動というのも・・・気が抜けそうですね。」
「本当・・・誰の所為だろうね。」
カストとブリアーニが苦笑している。
「皆様!お疲れ様です。
宿の手配は終わっていますが、どうしますか?」
シモーナが店から出て来る。
「ふむ・・・おば様、どうされますか?」
「ダニエラちゃん達の好きにして良いわ。
私はシモーナさんと値段の打ち合わせよ。
ちなみに・・・シモーナさん、ダニエラちゃんからの要望は?」
「昨日、先方に伝令をお送りしましたが・・・遅くとも明日にはキタミザト子爵の元に着くだろうと予想はしています。
私達が関を越えて向こうに着く頃に返答があると・・・実際は向こうでどのくらい用意出来るのかは交渉うんぬんではなく向こうの状況次第かと。」
シモーナが申し訳なさそうに言ってくる。
「ダニエラちゃん、だそうよ。」
「ふむ・・・まぁ向こうに依頼をして頂いただけでもありがたいです。
実際は向こうの在庫状況等々にも寄りますから・・・3か月分は頂けるとありがたいのですが。」
「はぁ・・・そんなにあっても1か月で終わらせそうですね。」
「陛下におねだりして買取金額を増やして、取引価格を上げてでも用意して貰うようおば様にお願いすれば良い事です。」
「ダニエラちゃん・・・それを今言われても厳しいわよ・・・」
「ご勘弁を・・・」
レバントとシモーナが汗をかきながら狼狽している。
「あ~・・・私ももう少し多く欲しいです。」
「我が方も接待用に少し送って頂けないでしょうか。
あの酒はボナ子爵が美味しそうに飲んでいたのです。
あれがあれば交渉もスムーズになるでしょう。」
ブリアーニとカストが要請してくる。
「・・・」
レバントが無言でシモーナを見る。
「・・・」
シモーナは何も言えずに口を開けている。
「おい、お客様を中に入れないのか?
ん?」
シモーナの旦那が店から出て来てシモーナの顔を確認する。
「・・・まぁ立ち話もなんですね。
皆様、中でお茶をしましょう。
おい!荷の積み替えをしろ!」
旦那が従業員に指示を出して動かし始めるのだった。
・・
・
「ははは、それは無理でしょう。」
シモーナから説明をされたシモーナの旦那が笑いながら拒否していた。
「・・・難しいですか。」
ヴァレーリが不貞腐れていた。
「ええ、ご要望をお受けしたいのは山々ですが、今回の輸出量増加をして頂いただけでも向こうに無理をさせてしまっています。
さらには数か月分を前倒しで納入出来るか要望を出したばかりです。
そこに増加に次ぐ増加の要請を出しても向こうも頷かないでしょう。
輸入業としてはお客様にそう言って頂けるのは大変ありがたいですが、今回はその件は持ち出さない方がよろしいかと。
むしろ今回は美味しかったと褒めちぎる事が来年以降の輸出量を増加させる要因になるかと思います。」
「ふむ・・・欲しいから売って欲しいというのは出来ないのですね。」
「ええ。
確かに元々が少なかったというのはあるでしょう。
それは向こうの誤算です。
まさかこんなにも需要があるとは考えてもいなかったという事ですから。
私達もそういった意味では見誤ったのかもしれませんね。
まさか陛下にそこまで気に入って頂けるとは考えてもいませんでした。
ちなみに陛下はどの飲み方を?」
「ロックで!」
「なるほど、ブリアーニ王国ではいかがでしょうか?」
「私達は柑橘系のフルーツと割って飲んでいます。
とても相性が良いみたいで・・・皆飲みすぎてしまっています。」
ブリアーニがにこやかに言う。
「カスト伯爵領ではいかがでしょうか?」
「私達は酒は接待用となっています。
隣接するボナ子爵とベッリ男爵は酒を大量に飲みます。
その交渉の席に水割りを出そうかと考えています。」
カストが説明する。
「なるほど・・・
エルヴィス領の酒は使えそうなのですね。」
シモーナの旦那が頷く。
「あれほど美味しいとは・・・製造方法は秘匿なのでしょうね。」
ブリアーニがため息を漏らす。
「でしょうね。
今年から出回ったのですから新たな物で作ったのでしょう。
ウォルトウィスキー・・・銘柄だけでは何の酒かわかりません。
一応、麦から作ったと言われてはいますが・・・製造方法はわかりかねます。
今はそこから考察していくしかないでしょう。」
「ん~・・・製造方法かぁ・・・」
ヴァレーリが考えている。
「国を挙げての酒造りは許可されませんからね?」
フレッディが小言を言う。
「しないですよ。
どうせ陛下の任期はあと1年、今から作っても間に合わないでしょう。
むしろ・・・退任されてから私達は流浪の身になる。
ふ・・・移住だな。」
ヴァレーリが良い顔をさせる。
「はぁ・・・そう簡単に行くと思いますか?」
「行くはずだ。」
タローマティがため息交じりに言うが、ヴァレーリは胸を躍らせているようだった。
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