第1249話 続旅の2組。(準備。)
宿屋の食堂。
まだ少しだけ夕食まで時間があったのでジーナが少し借りる事にしたようだ。
「ねぇ、ジーナ、これってあれだよね。
タケオ様が言っていた『物事はいきなり始まる』うんぬんの中に入るよね?」
スミスは部屋の奥の大きめの机の中央に位置する椅子に座らされており、ジーナが段取りを組んでいた。
「そうですね。
えーっと・・・アンダーセン殿ご家族、トレーシー殿ご家族、試験小隊の方2名・・・あ、部下となる3名の方が先の方が良いかもしれないのか・・・となると・・・んー・・・
マリ、スミス様の部下の方を先の配置で良いと思いますか?」
「ああ、良いと思うぞ。
キタミザト家はこの場には居ないのだし。」
「えーっと・・・なら、ここに皆さんをお連れして・・・軽く紐を置いておこうかな。」
ジーナが他の人にわからないようにマークする。
「まぁ主の衣装は移動中ですからそれで妥協しましょう。」
マリがため息をつく。
「ごめんね、礼服しか持って来てなくて。」
「私がご用意していれば・・・失敗しました。
挨拶は途中の貴族の方のみと思っておりましたから礼服で良いかと考えていました。
まさか部下になる方が来るとは・・・軍装を用意しておくべきでした。」
「ジーナ、そこは僕の責任だよ。
タケオ様の部下の方と一緒に来ると思わなかったよ。
そして同じ宿になるとはね。」
「はい、スミス様、行き当たりばったりですが、折角ですから挨拶の訓練としましょう。
夕食前ですから長話もしないでしょうし、挨拶の練習にもってこいです。
今回お連れしている騎士の中で2名程お願いして後ろに立って貰った方がよろしいかもしれませんが。」
「ジーナ、会うのは部下になる人達です。
威圧の必要はありません。
万が一の際はジーナで初期対応、すぐに騎士団の人が入って来れば良いではないですか?」
「畏まりました、スミス様。
では隣室に騎士団より3名程度に控えて頂く事にします。」
「うん。手配はお願い。
ちなみになんだけど・・・僕は立っていた方が良いんだよね?」
「皆様が入室して目の前に立つまでは出迎えという事で立っていた方が印象は良いかと。
それに次期当主と言えどまだ爵位はありません。
騎士の爵位を持っているアンダーセン殿とトレーシー殿の方が上位でしょう。」
「あ、そうか。
タケオ様の部下って半分以上騎士の爵位持ちでしたね。
・・・ん~・・・エルヴィス家は少ないですよね。」
「そうですね。
フレデリック様にお聞きしたら『騎士に相当する成果がございませんから申請しておりません』と言っていました。
エルヴィス家で騎士章をお持ちの方はアリス様、兵士長様、小隊長数名となっています。
エルヴィス家では騎士章ではないですが、独自に永年勤続という項目を作って文官と騎士団と兵士の方を表彰し、金一封を渡しているとの事です。」
「うん、永年勤続は毎年10月ぐらいにするんだよね。」
「年の終わりではないのですか?」
「小麦の刈り取りが終わって、集計も終わってからだね。
年末は何気に皆慌ただしいし。」
「そうですか。
えーっと・・・あとは問題ないでしょうか。
では、騎士団の方にお願いして皆様をお連れしますが、スミス様、よろしいですか?」
「なるようになるかな?」
「はい、そのくらいの意気込みで行きましょう。
マリは平気ですか?」
「誰が来ても遅れは取らんな。
さて、主の肩にでも座っていましょう。」
マリがスミスの肩に移動する。
「ふむ・・・ならパラスは私の肩に。」
「は~い。」
パラスがジーナの肩に移動する。
「では、スミス様、皆様をお呼びして参ります。」
ジーナが礼をして退出しようと扉に歩いて行く。
「ジーナ、受付に3名、他は部屋にいる模様。」
「わかりました。」
磯風がジーナに近寄りながら報告してくるのだった。
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「「ん~・・・」」
ケイとジーニーが受付前のロビーのソファに座りながら唸っていた。
「ケイちゃん、ジーニーちゃん、何を唸っているの?」
パメラが空いている席に座りながら2人を見ている。
「パメラ・・・次期当主様なのよ、スミス様は。」
「うん、それは聞いた。
でも私達より年下なんでしょう?」
「いやいやいや、貴族様よ!
パメラも緊張はするでしょう!?」
「うん、緊張はするし、している。
だけど、ケイちゃん達みたいに唸るほどではないよ。
名前を言って『頑張ります』で終わりでしょう?」
「まぁ、パメラの言う通りなんだけど・・・
でも無理。」
「うん、無理。」
「「ん~・・・」」
ケイとジーニーは再び唸りだす。
「私は内定書を貰った時の方が今より緊張してたんだけどなぁ。
私も実家のある領主様の息子ならこうなるのかなぁ?
でも会った事もないしな・・・」
パメラが首を傾げる。
「おーい、3人とも部屋に居ないでここに居たんだね。
エルヴィス殿の挨拶の準備は終わったよ。」
トレーシーが3人を迎えに来る。
「はい。」
「「・・・」」
3人ともすぐに席を立つが、返事が出来たのはパメラだけだった。
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