第1247話 その日の犠牲者。(モデルルームを作ろう。)
武雄は続けていた。
「内装に紙を使う利便性としては人間は歳を追うごとに好みも変わるという所に意味を見出します。
10歳の時と15歳の少年から成人の時期、そして25歳や30歳の仕事や家庭環境が変わる時期の好みは皆違うのです。
その時に壁の色から家具まで一気に変える提案をする。
もしくは大人になったらこんな部屋に住みたいと思わせる部屋の内装と家具を作る。
それを人々に見て貰うのです。」
「人々に見て貰う・・・家具屋ではいけないのですか?」
モニカの旦那が聞いて来る。
「見せる場所はそれで結構です。
ただし・・・例えば、8歳や9歳くらいの女の子向けの部屋、15歳の成人する男の子の部屋、25歳の仕事を熟し始めた男性の部屋、30歳前後の子育てが始まった時の夫婦の部屋、50歳代の夫婦の部屋。
この上げた例だけでも内装の壁の雰囲気から必要な家具が違ってきます。
それだけの部屋を作れる場所があるのでしょうか。」
「んー・・・なるほど、それとそういった情報はどこから仕入れれば良いのでしょうか。
私共は家具屋、注文が来たのを作って収めるという仕事しかした事がありません。」
「最低でも仕立て屋、雑貨屋、家具屋の3者で話し合う必要があるでしょう。
まぁラルフさんの所はデザインする人が居ますから問題ないでしょうし、雑貨屋は買っていく層を見ています。
年代別、男女別で良く買われる物を教えてくれるでしょう。
家具屋は私よりもハワース商会の方々の方が話をしていると思います。」
「その3店に相談に行く事が望ましいと。」
「どこに声をかけるかは私は何も言いません。
自分の部屋を見た時に何が置いてあるか。今一度探ってみると良いかもしれません。」
「はい、わかりました。」
「逆の提案というのは最初が辛いです。
今部屋を探している人達の何割かでも家具を見てから部屋を探すとなれば情勢が変わります。
建て方の親方連中が『こんな風な建物を作って欲しいと要望が来たから家具の配置を考えてくれ』と言ってくる可能性すらあります。」
「そんなまさか。」
「いいえ、まさかではありません。
今回の研究所で建物の扉についてハワース商会さんも打ち合わせに参加したと聞いています。」
「ええ、職人を派遣しましたが。
あれは特殊な例かと。
いつもは建て方の人達が家具の配置やら種類を決め、注文を受けて納入しています。」
「そこです!
ならばですよ。
建て方の人達にその一部屋丸ごとの家具を見せるのです。」
「建て方の方々に。」
「ええ、彼らは全てを作っていきます。
寝室、客間、居間、湯浴み場、食堂、玄関、トイレ等全てです。
その内の1部屋の執務室を想像させるのです。
私や伯爵が使うような重厚な執務室ですか?それとももっと気軽に家族が出入りするような大き目のソファと小テーブルがあるような書斎兼客間ですか?
その配置や家具を建て方の人達に見せ、『ハワース商会の商品を揃えるとこういう部屋が出来ますよ』とするのです。
そして建て方の人達だけでなく、一般の人達にも見せる事で『この家具の配置』の部屋なら住んでみたいと思わせられれば人々はこぞって買ってくれるでしょう。」
武雄が熱弁している。
「「「んん~・・・」」」
モニカ達が考えている。
「ま、これは理想ですけどね。
ただ、私の意見として部屋に置く家具は一式で見たかったというのが一番の感想ですね。
さらに言えば家具、仕立て屋、雑貨屋でその部屋に置く物を考えて見るのもいい刺激になるでしょうという提案です。
今すぐどうのこうのではありません、1つの見せ方の定義をしただけですよ。」
「はい、わかりました。
社内で会議して方針を出していきます。」
「うん、やりなさいとも言いませんから。
社内で却下されるのならそれも一興、価値があります。
とりあえず・・・研究所の研究部屋にはこの耐火板で仕切った部屋を作りますからそれだけは作れるようにしてください。
厚さは任せます。
一応小さいながらも火を使いますのでね、用心の為にある程度は必要です。
また、白スライムの体液だけで板が出来ない場合は中に何か入れて補強するというのが普通でしょう。
土壁の家だと下地に草や小枝、組んだ細木のように繋ぎを入れるというのがあるそうです。
なので、板にする際にそういった物が必要なら入れる事で対応する事、研究はお願いします。」
「はい、畏まりました。
大きさは先に言われたように1m×1m程度でよろしいのですね?」
「ええ、下地に木材を組んでそれに打ち付ける方法が良いでしょう。
内装の紙については出来たらで結構です。
ダメならその辺の厚手の紙や布を使ってすれば良いので。」
「畏まりました。
まずは耐火板の製作を始めたいと思います。」
「はい、お願いします。
モニカさん、何か?」
武雄がさっきから黙っているモニカに声をかける。
「キタミザト様・・・鉛筆は大丈夫ですか?」
「はい!これからジーナに送りますよ!
レイラ殿下経由で他の2王家にも紹介しますから期待していてくださいね。」
「そうですか・・・そうなんですね。
一応、青色は目途が立ちそうなのですが、緑が難しいですね。
緑は葉の色なのでそこまで難しいとは思わなかったのですが・・・色として難しいです。」
「赤と青が出来るだけでも凄い事ですよ。
それの生産はある程度目途を付けてください。」
「はい・・・畏まりました。
はぁ・・・鉛筆事業も安定した事業になるのでしょうか。」
「注文は来ていませんか?」
「いえ、王都とエルヴィス家から大量に来ています。
さらにはチョークの依頼も大量に。
ちょっと泣きそうです。」
「品質は落さないようにお願いします。
ある程度は融通を利かせてもらうしかないでしょうね。
卵の生産については順調にエルヴィス家がしています。」
「はい、それは文官の方が報告に来てくれています。
消しゴムについても同様です。」
「ええ、私も皆が頑張っているのは知っていますよ。」
「キタミザト様、今回でとりあえず打ち止めですよね?」
「ん~・・・今の所ないですね。
ハワース商会、ラルフ店長の仕立て屋、ベッドフォードさんのソース・・・ステノ技研。
はい、頼める物は全部終わっていますね。
これからはサテラ製作所とローチ工房がメインでしょうか。」
「そうですか・・・
はぁ・・・わかりました。」
モニカが諦めたように頷くのだった。
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