第1243話 午後の訓練場。(鈴音が帰った後に。)
「では、武雄さん、先に帰ります。」
鈴音がノートを終いながら言う。
「はい、お疲れ様。
気を付けて帰るんですよ。」
「わかっています。
武雄さんはもう少しここに?」
「ええ、試験小隊の人達を見ようかと。」
「では、私は帰って槍の柄の装置図面です。」
「圧力を使う実験は暴発に気を付けなさい。
安全策は2重が基本ですし、実験中は近寄らない。
わかりましたか?」
「は~い、所長!
了解です!」
鈴音が笑顔で挙手の敬礼をしてから休憩所を出て行く。
「まったく・・・鈴音はあのままで良いでしょうね。
街の生活にも不便はあっても問題はないと。
ステノ技研もサテラ製作所との関係も良好。
・・・遠心分離機かぁ・・・自分から振っておいてなんですが、どう発展するんだか。」
武雄が鉛筆を置き、誰も居ない室内を見ながら腕を組み難しい顔をさせるのだった。
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試験小隊の面々は射撃場と森との境界を作っていた。
「皆さんお疲れ様です!
お先に失礼します!」
鈴音が少し離れた所から手を振って大声で挨拶している。
「「お疲れー。」」
皆が手を挙げて挨拶している。
「はぁ・・・意外と奥側広いですね。」
「そうだな。」
「奥に1200mとは・・・明らかに所長の小銃改1の仕様だ。」
「俺らが扱う小銃って説明では400mだったか?」
「そう言っていたような気もするが・・・
これでまだ250mくらいか?まだ奥が遠いな。」
「この距離を魔法で当てるのも最初は苦労したなぁ。」
「初めて当たった時は嬉しかったが、今じゃ当てるのは当たり前で威力の調整が出来て当然とはな。」
「それにしても・・・この場も小石の地面に綺麗に高さを整えられた草・・・
一体、どなたが管理をしているんでしょうか・・・」
「ほら!手を休めるな!
まだまだ奥にあるんだからな。」
「「はーい。」」
大人達が黙々と作業を再開させるのだった。
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訓練場横の森の中。
「「・・・」」
時雨と初雪が回りに集まったスライムを手に取り吸収し、新たに生み出し放っている。
一通り吸収と生み出しを終えると時雨と初雪が手を合わせて情報の共有をする。
「・・・シグレ・・・どう?」
「ん~・・・でも人間側の関周辺の魔物は何も混乱してないっスよね。
となると。」
「魔王国側で・・・何か?」
「そうっスね・・・何か特異な魔物が領内に来たんじゃないっスか?
その余波で関の魔王国側に居る魔物達が一気に引いたと考えるのが妥当っスね。
ビエラがエルヴィス領に入った際の森の中っぽい感じがするっス。」
「なら・・・今魔王国側は・・・ドラゴンに匹敵する魔物が居る?」
「敏感な魔物が引いてそれに呼応して他の魔物も姿を隠したっスね。」
「魔王国側には送り込まない・・・関間の監視はする。
シグレ、ゴドウィン伯爵領の方のスライムは?」
「増やしているっス。
ちなみに前にも言ったっスがエルヴィス伯爵領の関の両脇の3kmずつの土塁は完成済みっス。
あとはタケオの確認待ちっスね。
ゴドウィン伯爵領の関の両脇1kmを開けて1kmの部分をこっそりとしているっス。」
「ゴドウィン伯爵の方はタケオに言ってない。
平気?」
「先行投資というヤツっスよ。
伯爵の所の関の土塁が上手く行ったのなら向こうに派遣されるっス。
なら時間短縮の為に今からやらないといけないっスよ。」
「ユウギリには報告する必要あり。」
「そうっスね。
タケオには秘密っス。」
「必要ならユウギリがタケオに説明する。」
「ユウギリに任せるっスよ。
さて・・・今度は街から南西の森の状況確認っスね。」
「あそこの狼がどう過ごしているかわかった?
コラ達も頑張ってる?」
「毎日5体の鷲が飛んで行っているっス。
狼達も交代しながら監視しているっスね。」
「あからさまに森を監視をしている・・・向こうから手を出してこない?」
「今の所ないっスね。
サイウンとシウンの感じだと森の奥に群れは移動してあっちも監視を置いているみたいっスけど・・・コラ達勝てるっスかね。」
「やらないとわからない。
私達では強さというのはわからない。
ん?・・・スズネが帰ったみたい。」
初雪が報告に来たスライムを吸収して時雨に言う。
「早いっスね。
ハツユキ、タケオに相談するっス。」
「・・・今、ユウギリにお願いすると言いました。」
「ゴドウィン伯爵の方はっスよ。
南西の森の話はして平気っス。」
「ミアも訓練場に居るみたい、だから問題ない?」
「そうっス。」
「わかった、小屋に行って着替える。」
「はいっス。」
初雪と時雨が移動を開始するのだった。
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射撃場。
「あれ?所長?」
ミルコが射撃開始地点と思われる所に武雄が居るのを気が付く。
「皆さん、お疲れ様です。」
武雄も気が付き挨拶をする。
「「はい。」」
「所長はどうしたのですか?
スズネ殿との面談は終わったのですね。」
代表してマイヤーが聞いて来る。
武雄の足元には2脚で置かれた小銃改3、手には拳銃が持たれていた。
「はい、雑談をして終わりました。
それで・・・時間もあるので慣らしで小銃改を撃とうかと思ったんですが・・・
よく考えたらビエラが居るので拳銃のみにしようかと思ってですね。
皆さんはこれからは?」
「魔法の訓練は終わりです。
これからは剣技ですね。
木剣での組手です。」
アーキンが言ってくる。
「そうですか・・・ちょっと音は出しますが、邪魔はしませんのでこっちは気になさらずに。」
「わかりました。」
試験小隊の面々が頷くのだった。
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