第1228話 146日目 夕食後のエルヴィス邸にて。(ゆっくりとだが確実に進もう。)
夕食も終わり、食後のティータイムはいつもの通り客間です。
「タケオ、昨日の今日で野菜炒めじゃったの。」
「どうでしたか?」
「いや、美味しかったの。
アリスはどうじゃ?」
「あそこまで苦みのある野菜というのもあるのですね。
驚きましたが美味しかったですよ。
エリカさんはどうですか?」
「あの苦みは驚きました。
ですが、あのくらいの量なら食べられますね。
あの苦い野菜のみだとちょっと私は食べれなそうです。」
「ふむふむ。なるほど。
あの苦いのはピーマンという野菜だそうで、最近この地でも栽培が始まったと聞きましたよ。」
「へぇ、新しい野菜ですか。
いろいろと工夫しているのですね。」
アリスが頷く。
「元々はどこなのですか?」
エリカが聞いて来る。
「テンプル伯爵領だそうですよ。」
「・・・ウィリアム領でも出来ますね。」
「出来ますよ。
ちょっとした苦みや辛みを入れるのも料理としては良いという事が今回わかりましたね。
アリスもエリカさんももう少し付き合ってくださいね。」
「「次を期待します。」」
皆が武雄の料理に満足するのだった。
と武雄は説明しているが、今回武雄が作ろうとしたのは回鍋肉。
なのだが、豆板醤がないので、ウスターソースにトウガラシ、砂糖、少量の白ワインを使い、水分を飛ばして濃い目のソースを作って代用していた。
調理している様子を見ていたコノハが「味噌・・・欲しいね」と呟いていたのはご愛敬か。
「あ、明日はポクポク肉だそうですよ。
トンカツです。」
「「やったー♪」」
アリスとエリカが喜んでいる。
「前に言っていたやつじゃの。
アリス、そこまで美味しいのかの?」
「はい、お爺さま、あれこそ至高です。
お肉も柔らかくて油が甘くて・・・はぁ♪」
「殿下達に頼んで、第2皇子一家領から取り寄せられるか検討しているんですよね。
あれが食べれるなんて夢のよう♪」
「ですよね。エリカさん。」
「はぁ早く明日にならないかなぁ?」
アリスとエリカは夕食後だというのにもう明日の夕食で盛り上がる。
「ほぉ、それほどまでなのか。
明日の夕食が楽しみじゃの。」
エルヴィス爺さんも楽しそうな顔をさせる。
「タケオ様、本日はどうでしたか?」
フレデリックが聞いて来る。
「試験小隊の面々は現地の視察で終わりましたね。
制服や街を見ると思いますが、特に何も指示はしていません。」
「そうですか。
明日からアスセナ様をお預かりし教育をします。」
「はい、ヴィクターからもそう言われています。
今日は総監部と軍務局に持って行きました。
あとの関係している局には明日持って行きます。
部下をよろしくお願いします。」
「ご配慮ありがとうございます。
こちらも教育が継続的に出来れば良い教材が出来ていきますのでありがたい限りです。
それにアスセナ様は元販売員と伺っています。
その辺のノウハウも私共に教えていただきたいですね。」
「・・・販売員のですか?」
「ええ、元商家なら経験はあるのですが、ほとんどの者はした事がありません。
ある程度の年齢もしくは役職に就いた際に擬似的でも販売員の経験をさせるのも良いかもと思いまして。」
「ふむ・・・販売員ですか・・・
必要なのは交渉術、心理学、忍耐、陳列時の美的感覚ですかね・・・」
「ほぉ、タケオ様はそれほどまで使ってるのですね?
心理学は前に『心の動きとか習慣とかを学問にした物』と言われていましたか。
確か・・・カクテル・・・パーティ効果でしたか、飲み屋の女性方が使う手法という説明だったかと。
今回もそのような?」
「はい、商店の陳列方法は早く言えば経験の蓄積です。
その陳列方法が買われやすいとわかっているのです。」
「ほぉ、確かにどの店も陳列の方法は似ているというのはありますね。」
「ええ、それに商品も同系統の品物は3つか4つに絞っているはずです。」
「そうなのですか?・・・あぁ確かに多くはないですね。」
フレデリックが考えながら言う。
「あれは・・・例えば・・・うん、フレデリックさんが家を買いたいと考えていたとして不動産業者を尋ねたら20軒ほどの資料を目の前に並べられたとしましょう。
どう思いますか?」
「ほぉ、家ですか。
それにしても20軒は見るのが疲れますね。
もっと少なくして欲しいと思いますね。」
「ええ、普通商売で20個も選択肢を用意する人は居ません。
ですが、まったく関係のない人もしくは素人さんは多くを用意した方が選択の幅があると考えるのです。
ですが、提示された本人からすると多すぎて選べない状態という変な事になっています。
これは決定回避の法則と言って、まぁ多くを提示されると選べないとされているんです。」
「ふむ、なるほど。
ならタケオ様は何個を提示する方がよろしいと思っているのですか?」
「先ほども言った3つないし4つです。
さらに、値段も手頃だが何かしらデメリットがある物件が1つ、お勧め物件1つか2つ、仕様は良いが割り高な物件を1つ用意します。
本当はそこまで差がわからないよう少しずつしか変えませんが。」
「ほぉ、仕様に差をつける理由は?」
「極端の回避性を人は持っています。
これは3つもしくは4つの選択肢を与えると人は真ん中あたりを選ぶからです。
要は低仕様も高仕様も人は選びたくないのです。
なので、人に物を買わせるもしくは選択させるには中間を狙わせた方が良いという事です。
極稀に両端を狙う者はいますが、それは本当に稀だと思います。」
「ふむ・・・
やはりその辺の知識はしっかりと総監部で共有した方が良いと思われます。
アスセナ様は知っているでしょうか?」
「・・・名前は別として、体感していると思います。
それに売り方というのもいろいろありますしね。」
「そうなのですか?」
「ええ、アスセナさんがどういった売り方をしていたのか。
それを聞いてみるのも良いかもしれません。」
「わかりました。」
フレデリックが頷くのだった。
「あ、それと料理長と話をしたのですが、領民に料理を教える段取りを付けたと聞いています。」
「はい、その通りです。
料理長だけでなく、関係各局にも聞き取りをして決めています。
今は品目については徐々にという所です。
養鶏場が安定すれば、街中から各村まで皆に教えるのですが。」
フレデリックが残念がる。
「それは始めたばかりだからという事ですよね。」
「ええ、まずは原材料の調達をしないといけないというのが難しい所ですね。
それに・・・材料を用意している間にタケオ様が違う物を生み出しそうで怖いというのもあります。」
「いや・・・私はそこまでは。」
「はは、怖いというのは冗談でございます。
ですが、タケオ様の発想を押し留めている可能性を私は心配しております。
普及という所は私共がしますので、タケオ様はご存分に色々と作って頂けるとありがたいですね。」
「・・・今と変わりませんね。」
「はい、今のままで結構でございます。」
「タケオ、フレデリックが良いと言っても限度はあるからの。」
「わかっています。
美味しい物なら良いのですよね?」
「まぁ否定はせんがの。」
タケオの言い草にエルヴィス爺さんが苦笑するのだった。
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