第1225話 その頃の寄宿舎では。8(本題に入ってね。)
「どう?」
コートニーが自慢げに聞いて来る。
「コートニーの両親が凄いというのはわかった。
うちの親父は近衛分隊長だったけど・・・ここまでじゃないのかな?」
「そんな事はないぞ。」
ラックがルークの前に座る。
「そうなのですか?」
「うん、ルーク君、君も魔法師専門学院に行ったら特別待遇だったかもしれない。
ちなみにお父さんから仕事について聞いているかい?」
「いえ・・・王都守備隊で近衛の仕事しているとしか。」
「そうか。
まぁ親が子供に仕事の事を言う事は少ないだろうね。
うちは共働きでお互いに結構な幹部だからね。
娘達に迷惑はかけてしまっているし、ちゃんと説明をしているんだ。
まぁそろそろ潮時だとはお互い話しているけどね。」
「父さん。」
「おっと、これは家の話だな。
マイヤー殿は次期王都守備隊総長の候補だったんだよ。
たぶんキタミザト殿が来なかったらそうなっていただろうね。」
「そうなのですか?」
「君のお父さんは君が思うより仕事が出来る人なんだよ。
それに輪をかけてキタミザト殿が招集した研究所の人員がえげつないんだ。
王都守備隊の隊長格1人、各分隊の副官達を満遍なく引き抜き、さらには第二情報分隊の副官候補を2名を抜いたんだ・・・
王都守備隊はガタガタです。」
「ははは。」
ラックの言葉にルークは乾いた笑いしか出来ない。
「まぁ第1騎士団と第2騎士団もいろいろな事情により古参が結構居なくなってね。
王城の主戦力が若返る見込みだ。
これは良い事と悪い事が半々だろうと言う見方が有力だね。
まぁ・・・この話は良いか。頭の片隅にでも入れておけば良い。
で、娘よ、今日はどうしたんだ?」
「うん、父さんに言われた人物に呼び出された。」
「早速か・・・わかった、話を聞くか。
おーい、娘っ子共、待望の城内情報だぞ。」
「なんだ~仕事かぁ。」
「コートニーちゃんの彼氏の話が良かったのに。」
「あ、ブルック殿から手紙が来てたんで後で隊長にも回しますね。」
「・・・うん、そういった手紙が来たらまずは俺に回そうな。」
「ははは、父さんも相変わらず大変だね。」
「まったく我が家は気ままな娘がいっぱいだ。
ほら、席に着け。」
「「は~い、お父さん。」」
皆が再びラック達の回りの席に着き、コートニーの話を聞くのだった。
・・
・
「んー・・・隊長、バンクス男爵家って新任のですよね。」
フォレットがラックに聞いて来る。
「そうだ。
息子は調査対象から外していたか?」
「第二情報でも接触出来ませんでしたから親と親類のみの調査でした。
ちなみに結果は白です。」
フォレットが即答する。
「宿舎の方に留まるか・・・厄介だな。」
「監視強化しますか?」
他の女性が聞いて来る。
「いや・・・止めよう。
現状、第1騎士団に依頼する程度で良いだろう。」
「了解です。
それは私の方から上司に掛け合っておきます。」
また違う女性が言う。
「頼む。
それと・・・グレース殿下かぁ・・・」
「キツイですね。」
「あの姫君はなぁ・・・」
大人の面々が難しい顔をさせる。
「父さん、そこまで酷い方なの?」
「酷い・・・酷くはないな。ちゃんと説明して納得すれば従うぞ。
聡明だぞ・・・聡明だが・・・世間知らずなんだよなぁ。」
「ですね。」
「ええ・・・それに先ほどの3名の生徒達もそうですが、コートニーちゃんやルーク君も心配と言えば心配ですね。」
「そうだなぁ~・・・」
女性の指摘にラックが目を瞑ってガックリとする。
「私?」
「お・・・僕が?」
「あぁルーク君、自分を呼ぶ時は改めなくて良いぞ。
隊員でもないしな。」
「いえ、僕でさせて頂きます。」
「うん、そうか。
まぁ俺達が懸念しているのは大概は向こうの子達も言った事だ。
エルヴィス殿とジーナ殿に喧嘩売るなという事なんだがな。
ルーク君は先輩達の話を聞いてこれをどう捉える?」
ラックがルークに聞く。
「エルヴィス殿は貴族と王家の後ろ盾があるし、ジーナ殿にはキタミザト家でなく王家と通じているから種族や奴隷の首輪に対して差別をするなという事かと。」
「うん、その通りだね。
その通りだが見当違いをしていると思うな。
フォレット、キタミザト殿の考えやジーナ殿の立場の説明は出来るか?」
「はっ!
まずジーナ殿ですが、先の王立学院の生徒の説明ではかなり不足していますし、隊長が言うようにコートニーやルークが見当違いの心配をしていると思われます。」
「うん、そうだな。」
「彼女は元魔王国の領主の娘で伯爵家の令嬢です。
なので『種族』とか『奴隷の首輪』等の程度の低い煽りで怒る事はないと考えていますし、キタミザト殿はその辺もわかっていますのでジーナ殿に耐えるよう指導すると言われています。
ジーナ殿が怒るとしたらキタミザト家に対する誹謗や流言となるだろうというのが今の私達の見解です。
エルヴィス家に対してなら仕事上という事でそれとなく対処するでしょう。」
「「はい?」」
コートニーとルークが真顔で聞き返す。
思っていたとは違う見解が説明されていた。
「さらにエルヴィス殿とジーナ殿は共に精霊魔法師ですし、ジーナ殿に関してはアリス殿と同じ魔眼を持っています。
今回のお付での寄宿舎派遣で実戦感覚はアリス殿と模擬戦をする事になっています。
なので、魔眼等の資質がアリス殿と同等であり、アリス殿の指導を受けた第二の鮮紅が王都に来ます。
はっきり言えばジーナ殿に武力で勝てる人材は王立学院には居ません。
これは教職員を含めての話になりますのでご留意願います。
付け加えるなら私達守備隊でも分隊程度でジーナ殿を相手しないと互角の勝負は難しいと考えています。
それにキタミザト殿と人事局や外交局の各局長、クラーク議長にオルコット宰相との間で、エルヴィス家やキタミザト家に仇為す者に対してのジーナ殿の攻撃範囲は腕2本程度で済ます事が確認されています。
鮮紅殿より武力が低いと見積もっても私達からすれば同等の者の本気の一撃を何の魔法の対処もしていない腕に受けるのですよ?
真剣でなく木剣だとしても粉砕骨折程度で済めば良いですね。
なので、王都守備隊が『ジーナ殿達に手を出すな』と言っている本当の意味合いは『君達死にたいの?』となるのですが、伝わっていないようですね。」
「「・・・」」
コートニーとルークが表情を固めたまま頷くのだった。
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