第1216話 旦那達が居ない間に。(アリスとエリカの散策。)
マイヤー達が仕立て屋で制服を作っている時。
妻達は表通りに面した喫茶店のテラスでお茶をしながら通りを観察していた。
「お母さん、この街・・・なんだか凄いね。
人がいっぱい行き来していて王都みたい。」
「そうねぇ。」
「王都の周辺の街より活気がありますね。」
「エルヴィス家と今最大級の影響力を持っているキタミザト家の混在都市だからね。
この活気もあり得るのかもね。」
「まぁ話を聞く限りはキタミザト様の知恵で発展しているという事なんだけど・・・
この活気は一部の者が知恵を独占しているだけではなく、住民皆が享受している感じなのかなぁ?」
「となると奇抜だけど皆が受け入れやすい事を発案しているという事ですね。」
「受け入れやすいだけで人は動かないんじゃない?
領民はもっと強かよ。
どんなに良い話でも自分に利益がなければ動かないわ。」
「ん~・・・キタミザト様は何かしらの利益を皆に与えたという事ですか。」
「でも、金銭的な事を言っただけでこの活気になるんですかね?」
「わからないわ・・・でも実際には皆が良い顔をしながら忙しなく働いているという事はわかるわね。」
「そうですね。
強制されてという感じではなさそうですね。」
妻達は何とも言えない顔をしながら議論している。
「はい!野菜炒めセットお待ちどうさまです。
それと特産品祭りの復刻肉串オンリーです。」
「はい!野菜炒めこっちとあっちです。」
「肉串はこっちで。」
「はい、わかりました。
えーっと、肉盛り盛りのサンドイッチセットは。」
「はい!」
「はい、どうぞ。
野菜たっぷりのサンドイッチセットはどちらに?」
「こっちです。」
店員が持って来た物が配膳される。
・・
・
「美味しい。」
「ウスターソースって言ったかしら?
旦那達も話していたけど・・・これ程までに味が今までと違うなんて・・・
あの人この味を毎日食べながら出張に行ってたの?
ズルいわ。」
「王都には全てがあると思っていたけど、傲りだったみたい・・・
地方都市・・・凄いのかも。」
「この味をもたらしたら人気にもなるのも頷けるかも・・・」
「このウスターソース・・・確か一般にも売っていると言っていたわよね。
あとで行ってみましょうか。」
「「絶対に買わなきゃ!」」
妻達が頷く。
「それにしても・・・鮮紅殿は普通でしたね。」
「そうね・・・普通の綺麗な貴族令嬢でしたね。」
「子供達は挨拶の時はガチガチに固まっていたけど。
寝る前に子供の部屋から変な笑い声が聞こえたぐらいだから嬉しかったんだろうね。」
「・・・うん、まぁうちの子もそんな感じだった。
英雄だからね。」
「あれが噂の鮮紅なのでしょうか・・・想像していたのと違い過ぎます。
もっと筋肉質かと思っていました。」
「うん、わかる。」
「確かにね!あの英雄譚をするには相当な猛者を想像したわ。」
「本からの印象とは全く違ったわ。
最初、キタミザト様が鮮紅殿を娶ったと聞いた時は『猛者が居る』と思ったし、『押し付けられた』んだと同情したわよ。」
「だよね~。
でも普通に気の良さそうな方で安心した。」
「本当。
キタミザト様も普通だし・・・率いている部下が異常だけど。
なんであんなに集結するんだろう?」
「私達の歓迎という事でしょうか?」
「狼の大軍はビビった・・・一瞬どうしようかと思ったぐらい。」
「道中のドラゴンも驚いたけど、あの数の鷲と狼と・・・ラジコチカは卑怯だよね。
どの魔物も1、2匹を相手にすると想定しているのに数十居るなんて・・・ドラゴンも居るし・・・」
「あれじゃあ王都もキタミザト様を蔑ろにはしないわ。」
「キタミザト様が行くと各局長が出迎えるんだって?
凄いよね。」
「うちの旦那曰く出迎えるというより待ち受けられてキタミザト様は会議に引っ張られるらしいよ。
キタミザト様は『のんびりしたい』とか言っているみたいだけど。」
「発想が柔軟であの部下達を従えて、妻は鮮紅で主家はエルヴィス家、後援が各王家・・・近年で最強の貴族家が発足したよね。」
「まぁそこに所属する旦那達は誰もが認める王都守備隊出身の元エリート。
まさか地方都市でのんびりと過ごせるとは思わなかったなぁ。」
「そうね。
それにさっきの雑貨屋も品揃えと言う点では王都には及ばないけど価格が安くて品質は良い。
表通りだけだけど店先は綺麗にしているし、犯罪も少なそう。
エルヴィス家の施政は堅実ね。」
「もしかして私達良い地に赴任出来たのかもね!」
妻たちがいろいろと評価をするのだった。
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表通りをアリスとエリカとカサンドラが散歩をしていた。
「ん?・・・あそこに居るのは・・・」
「アリス殿、どうしましたか?」
カサンドラが聞いてくる。
「いえ、昨日会った試験小隊の奥さんたちのような・・・」
「へぇ~、まぁ楽しそうだからまだ疲れは出ていなさそうですね。」
エリカもテラスを見ながら言う。
「ふむ・・・さすがエリート兵士の奥さん達ですね。
雰囲気が街中の夫人達とは違いますね。」
「トップの兵士の奥さんですもの、元兵士とかも居ると思いますよ。」
「あぁなるほど。
で、アリス殿、昨日のエリカ様との賭けがご破算になったのは聞きましたが、どうするのですか?」
「まさか今日の夕食が野菜炒めだとは・・・」
「タケオさんが作ると聞いて私達2人とも即刻要求を取り下げましたよね。」
「ええ、そうですね。
んー・・・エリカさん、今日の勝負は何にしますか?」
「スイーツでどうでしょう?
確か今日の夕食後のスイーツはバターサンドと言っていました。」
「バターサンドなら最低2つは出ますからね。
お互いの1つを賭けますか!」
「望むところです!」
「バターサンドが3つ・・・良し!帰りにベルテ一家の所によってタンポポ茶を仕入れましょう!
あの味には濃い目のタンポポ茶が合います!」
「ふふん♪アリス殿、私が勝つかもしれませんよ?」
「えへへ♪スイーツが景品なのです。
そう易々とエリカさんに渡しはしませんよ?」
「はぁ・・・好きですね。」
そんな2人を見ながらカサンドラが呆れている。
「「楽しいんだもん!」」
アリスとエリカは同時に答えるのだった。
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