第1211話 146日目 シモーナの采配。(甥っ子大丈夫か?)
早朝のファロン子爵領のシモーナの商店「銀の月」。
「皆、戻ったさね。」
店先からシモーナが入ってくる。
「奥様、おかえりなさいませ。
王都はどうでしたか?」
店員が近寄って来る。
「何とかなったさね。
詳しくは皆で話し合おうかね?」
「はい、掃除と陳列が終わったらすぐに。
今は朝食の準備もしています。奥でお待ちください。」
「うん、任せるわ。」
シモーナが奥に行くのだった。
・・
・
朝食後の従業員達との会議。
「と、いう訳で王都で堅魚の干物60㎏の入手は出来たし、米500㎏の輸入も終わったさね。」
「まずは順調ですね。
こちらとしては奥様が向かわれている間に、槍用の木材で4m、50本が明日には届くとの連絡が来ています。」
「うん、問題なさそうさね。」
「・・・あとはエルヴィス領への依頼ですね。
今年の残りが210本ですね。
今月分は昨日到着しているんですが・・・残りを一括で・・・ですか。」
「向こうには180本から252本にして貰ったからなぁ・・・無理は言い辛い所だ。
だが、王都からこれだけの要請が来るという事はある程度は定期収入になる見込みがあるという事だろう。
今後3年間は250本程度というのは仕方がないがその後の本格輸入の際に売り込めるとわかっているのなら本数を多く見繕ってくれる可能性はあるな。
一括で出来ないか確認はした方が良いと思うな。」
シモーナの旦那が考えながら言う。
「ですが、一括でしてしまうと、私達の店の名を王都で忘れ去られてしまいませんか?
ある程度期間を空けるとしても・・・先の堅魚の干物のように3か月に1回とする手もあります。」
「一括というのは普通に考えれば流通に負荷をかけます。
向こうも1年間通しての流通計画があるはずです。
流通に多少の波はあって良いでしょうが、この月は領外向けで他の月が領内向けといった極端な流通はしてはいけない事だと思います。
定期的に入手出来ないとなると消費が落ちると考えるのが普通です。
あまり無理をさせるのも頂けないと思います。」
「ですが、王都の要請に答えられるというのは他の輸出入品を扱う上でメリットにならないか?
あの店なら融通が利くという事になれば他の物も用立て依頼が来る可能性がある。」
店員達が持論を展開していく。
・・
・
「ん~・・・皆の言いたい事はわかったさね。
だが、一括にしろ年数回の分割にしろエルヴィス家の流通計画次第という所なのは皆もわかっているという事だね。」
「そうなるな。どうする?」
「ふむ・・・キタミザト家に聞いてみるしかないだろうね。
返答は・・・間に合うかわからないけどそれが向こうの限界と言うならそう伝えるしかないさね。」
「そうなるか。」
「ええ、じゃあ、皆、荷造りお願いね。
それとレバントおばさんと国王陛下の侍女、カスト伯爵様の執事、ブリアーニ王国の侍女も来るさね。
騎士組に頼んで街道の掃除をお願いしておいてね。」
「はい!すぐに!」
皆が動き出すのだった。
・・
・
「ん~・・・こんなもんさね。」
シモーナがカウンターで書いた手紙を読み返しながら伸びをしている。
「叔母さん!どういうことですか!?」
ブルーノが入店早々、カウンターを叩きながら言ってくる。
「ブルーノ、煩い。
何だって言うんさね?」
「さっきここの店員が依頼して来たんですけど!王都から要人が来るそうじゃないですか!」
「・・・陛下侍女と女王陛下の侍女と伯爵の執事さね。
エルヴィス領への視察という事を言われているよ。」
「なんで!こっちに報告に来ないんですか!?」
「・・・ただの領地視察じゃないか。
要人と言っても各要職の王軍や騎士団長とかではないんだよ?」
「侍女となれば陛下の目です!
アズパール王国への視察でも私達の街を見るじゃないですか!うちの視察も兼ねられているんです!
そんな方を一商売人の叔母さんが相手するんですか!?」
「私がしたいとは言ってないさね。
最初はレバントおばさんと2人で行く気だったんだ。
なのに、向こうでたまたまいた侍女様達に捕まって・・・
・・・ブルーノ・・・お前がしたいのかい?
喜んで変わってやるよ?」
シモーナが真面目顔で答える。
「・・・私は夏の遠征に向けての準備中です。
それに侍女や執事の方のお忍びでの隣国視察に同行してしまうとアズパール王国を刺激してしまうかもしれません・・・私が出て対応がマズいと国内の評判も悪くなる可能性があります。
叔母さん、資金等は援助します。
華美にならない程度で対応してください。」
「・・・はぁ・・・ブルーノ・・・わかったさね。
ご一行の対応は何とかする。
街道の安全は最大限確保してくれるね?」
「騎士組に任せてください。
何としてもこの領地が問題ないとわからせてください。」
「普通に街道を行くだけさね。
何もないのんびりとした旅になる予定だよ。」
「そう願っています・・・では、叔母さん!頼みましたよ!」
「はぁ・・・わかったわ。」
ブルーノが店を出て行くのをシモーナが深いため息を吐くのだった。
・・
・
「・・・どうにかなりそうか?」
旦那が奥から来る。
「なるしかないさね・・・
この文言でどう?」
シモーナが旦那にキタミザト家用の手紙を渡す。
「ふむ・・・キタミザト家宛か・・・もう少し同行者の所をぼかすか?」
旦那は「ヴィクター義兄さんが居るからもっとぼかしてもわかるだろう」と言ってくる。
「そうさね・・・どこの者達が見ているか分かった物じゃないからね・・・
・・・こうかな?」
「あぁ・・・その文言で良いんじゃないか?」
「じゃあ、これを早急に関に持って行かせようかね。」
「そうだな、向こうも検討しないといけない事があるだろうからな。
おーい、誰か関まで行ってくれるか?」
旦那が従業員に声をかけるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




