第1202話 気分一新、マイヤー達を出迎えよう。1(強迫と暗示。)
エルヴィス邸の客間。
扉がノックされたのでアリスが「どうぞ」と答えると武雄とヴィクターが入って来る。
「アリス、エリカさん散歩をしに・・・
ん?鈴音が居ますね。」
「武雄さん、おじゃましています。」
「はいはい、いらっしゃい。
顔色見ると今日も問題なさそうですね。
それで?」
「これ・・・第2皇子一家のカリスさんという方から来たんです。」
鈴音が手紙を武雄に渡す。
「失礼しますね。
・・・あ~・・・頼んだ譜面が届いたのですか。
クリナ殿下も始めたようですね。」
「タケオ様、クリナ殿下が何か?」
「ヴァイオリンをお土産で各王家に置いてきたのです。
2挺ずつですけど。
あ、鈴音に頼まれていた部品も買ってきましたよ。
取ってきますね。」
武雄が一旦客間から出て行くのだった。
・・
・
「はい、これで間違いないです。
ありがとうございます。」
鈴音が武雄から渡された部品を確認する。
「いえいえ、で、話の流れでその工房がニール殿下領に出店してくれる事になりました。
鈴音も部品を頼むならカリス経由かその店に直接注文してください。」
「スズネさん、最初はカリスを経由した方が良いと思いますよ。
いきなり注文すると驚くでしょうし。」
「はい、わかりました。
あの・・・武雄さん、ジェシーさんのパンニューキスさんからヴァイオリンをお願いされていたのですが・・・」
鈴音が恐る恐る聞いて来る。
「もちろんカリテス達全員にお土産を買っていますよ。
さっきまで居たゴドウィン伯爵に2挺持って帰って貰いました。」
「良かったぁ。」
鈴音がホッとする。
「あと・・・これがこの世界のヴァイオリンです。
10挺買ったのですが、王家に2挺ずつ送ったので残りの2挺です。」
「んー・・・微妙に違いますね。」
鈴音が持ち上げて確認している。
「スズネさんが持っている物と形は似ていませんか?」
「ええ、似ています。
ですけど・・・厚みがちょっと違いますし、脇の曲線も少し違いますね。
楽器って精密なんですよね。
形状がここまで違うと音色が変わると思うのですが・・・」
「第2皇子一家のカリスも第3皇子一家のパイディアーもすぐに調律して弾いていましたよ。
凄かったですよ。
名曲ばかりを弾いてくれました。」
「・・・そうでしょうね。
私が調律したら2時間か3時間はかかりそうです。」
鈴音が「あの楽譜を迷いなく書けるぐらいの精霊なんだから当たり前」と呆れる。
「・・・スズネ、これって私でも出来るのですか?」
エリカがヴァイオリンを見ながら聞いて来る。
「出来ますよ。
私もこっちに来るまで5年程度していましたが、それなりに出来るようになりました。
本格的にこれでご飯を食べるぐらいまでの技量となると無理ですが、楽しむ分には問題なく誰でも出来ます。」
「スズネの技量まで最低5年かぁ。」
「でももう少しかかると思います。
弾ける前にまずは音階を覚えないといけないですからね。
これをどうやって教えるのか・・・そこはそのカリスさんに聞いてみたいですね。」
「「音階?」」
アリスとエリカが同時に聞いて来る。
「はい、音楽を教わるにはまず特定の音を出せるようにしないといけません。
それが基本が8音、と低音7音があります。先ずは基本8音で奏でられる曲から始め、段階を上げて高度な技術を学んでいきます。」
「んー・・・パイディアーに教えて貰おうかなぁ。」
「あ、精霊が居るのでしたら問題なく教えてくれると思います。」
「スズネさんは教えられないのですか?」
アリスが聞いて来る。
「現状では難しいですね。
そのカリスさんやパイディアーさんに教え方をまずは私が教わらないと私からは教えられないかと思います。
とりあえず、武雄さん、私はこの譜面を見て弾けるようになれば良いんですね?」
「ええ、たまに弾いてくれると私も嬉しいですからね。」
「聞かせられるレベルになれば・・・
あ、そうだ、武雄さん、研究所っていつから行けば良いんですか?」
「・・・前に王都であったトレーシーさんが着任して、建物が出来てからで結構ですよ。
その後に研究者のトレーシーさんとパナ、鈴音と私とで研究についての話合いをして構想や試作の話になるでしょうね。」
「なるほど・・・それまでは自宅待機なんですね。」
「・・・鈴音、なんでその言葉を知っていますか?
それ社会人・・・それも会社員ぐらいしかわからない言葉ですよ。」
「え?この間仁王様が『スズネは自宅待機なんだな』って言っていました。」
「・・・仁王様・・・字面からの印象は文字の通りですが、意味合いが物凄く違います。
はぁ・・・鈴音は自宅待機ではありません。
現状では在宅勤務に近いんですよ。
それにまだ建物が出来ていませんからね。
それまでは在宅で今後の研究の検討をしておいてください。」
「んー・・・船の駆動部ですよね。
ガソリンも石炭も無いんですよね。」
「発想は無限です。
無い物を頼らない、今の身の回りにある物事で似たような構造を考えておけば良いのです。
ちなみにローチさんの幌馬車工房にテンプル伯爵推薦の船の設計士が来ますからね。
そのうち船への搭載方法の話をする事になるでしょう。」
「はい、わかりました。
いろいろ考えてみます。」
「ええ、頼みます。
・・・鈴音、本を読んでいますか?」
「あ~・・・今は槍の柄の開発が楽しくて時間が取れないんです。」
「まぁ忙しいのはわかりますけどね。
1日1冊というような事は言いませんが、1日の中で決まった時間読むような習慣をつけると良いですよ。
ルーティーンを作るのです。」
「武雄さんもしていますか?」
「今はゴタゴタしていますけど。
朝の起きてから家を出るまでのルーティーンを固定化していましたよ。
それに社会人なら誰しもが独自のルーティーンを作っている物です。」
「そういう物なのですか?」
「ええ、そういう物です。
そうする事で前日飲みすぎであろうが、寝不足であろうが同じ時間に起きれるようになりますし、刷り込み効果によって体が強制的に起きる状態まで行くので寝坊も無くなります。
そして違う行動をすると体が異様に疲れるようになります。」
「武雄さん・・・それって強迫観念なのでは?」
「自己暗示と思っていますよ。
まぁ鈴音にそこまでやれとは言いませんが、読書をする習慣はお勧めします。」
「は~い、努力します。」
「ええ、努力してください。
と、アリス、エリカさん、マイヤーさん達を出迎えに行きましょうか。」
「わかりました。」
「はい、アリス殿、決着は後程。」
「ええ、わかりました。」
「あ、じゃあ、私は部屋に戻ります。」
3人も席を立つのだった。
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