第1187話 特産品祭り。6(中盤戦の子供達と部下達。)
広場の席の一角。
「あー!美味しい!」
「お肉を山のようにして食べれるなんて夢のようだー♪」
「大人の店の肉固いねー?」
「噛めば噛む程味が出ると思ったけど・・・余り味がないかな?」
「ちょっと肉が独特な匂いがするね。
なんでこれが大人だけなんだろうね?」
「『トニク』と言っていたっけ?
何の肉なんだろうね?」
「・・・」
ヒルダは周りの子供達がワイワイ食べているのを見ながら自分の前にある肉を一口食べてから凝視していた。
ヒルダは料理の勉強でいろいろな食材を食べているが、そんな中最近各種の肉を塩と数種類の簡単なハーブ系のみで焼きあっさりした味付けで食べる事で素材の味を覚える事をしていた。
で、目の前の肉なのだが・・・「エイクスの肉」なのだ。
エイクスとは、この地域での鹿の魔物である。まぁ鹿肉である。
エルヴィス伯爵領内ではあまり取れずゴドウィン伯爵領内がこの辺の産地だった。
あまり取れない肉が屋台で出ているのにもヒルダは驚いたが・・・この鹿肉、精力増強の肉として大人達の間では有名なようでヒルダは母親から『ここ一番っていう大事な時に食べる物なのよ』と教えられていた。
ヒルダもあと何年かすれば成人だし、それなりに性の事については母親から聞かされている。
なので、「ここ一番」という意味はなんとなく分かっている。
実際の効能は精力キノコ程の威力はないのだが、価格が他の肉より高いとはいえ精力キノコよりも手に入り易いので一般庶民向けの精力食材と言われている。
「大人向け」の食材・・・値段やら効能とか意味がいろいろ被っていてヒルダは反応に困るのだった。
「エイクスの肉かぁ」
ヒルダはボソッと呟く。
「ん?ヒルダ?この肉知ってるの?」
「凄ーい、ヒルダお姉ちゃん知っているんだね!?」
「あ・・・んーん。知らないよ。
なんだか知っている肉に似てる気がしてね。
気の所為だったみたい!あはは。」
「ヒルダは料理人になるんだものな。
いろいろ食べているんだから似ているのはわかるんだろうね?
俺なんて全然わからないよ。」
「実は私も全然わからない・・・オークと牛と鳥は簡単にわかるんだけど・・・」
「いや・・・それぐらいなら俺でもわかるぞ。」
「私もわかる。」
「お姉ちゃん、凄ーい!」
「・・・食べる機会があっても少しずつだから違いを覚えるのも大変だよ~。
この間なんて『希少な肉』と言われて考えながら食べたらオーク肉だった・・・抜き打ちもするんだよ、うちの親は。」
「へぇ~・・・大変だぁ。
まぁ味がわからないと料理人なんて出来ないんだろうけどね。」
「そうなんだけど・・・はぁ・・・純粋に食べ物が美味しいと言えなくなってきたんだよね・・・
これは何の野菜が入っているとか肉は何かとか無意識に考えている時があるよ。」
「・・・それ・・・大変だな。」
「まぁね~・・・でもこれは私が選んだ道だからさぁ・・・やるしかないんだわ。」
「頑張れよ。」
「うん・・・そう言えば兵士になるっていう目標はどうなっているの?」
「日々特訓中、暇な兵士さんに稽古付けて貰っているよ。」
「邪魔してるだけなんじゃ?」
「いや・・・違う!・・・と思う。
それに俺は将来騎士団に入るんだから有望なんだよ。」
「へぇ~騎士団かぁ・・・300名だっけ?」
「確か・・・エルヴィス伯爵家は1000名だったよね?
その内の300名?・・・そこまで難関じゃなさそうだね。」
「いやいやいや!3割しかなれないんだぞ!?」
「でも・・・規律厳しいって話だよ?
冒険者の方が向いてるんじゃない?」
「いーや、俺は兵士になって将来は騎士団に入るんだよ!」
「まぁ・・・出来るか見ものだね~。
私は家を手伝うからアンタが騎士団に入れるか長~い目で見守ってあげるよ。
あ。ヒルダは料理人になるのを心待ちにしているからね。」
「なんだよ。
ヒルダには優しいんだな。」
「ヒルダは、もしかしたらこの街一番の料理人になるかもしれない子。
アンタとは将来の有望度が段違いに高いんだからね!
ヒルダ。頑張りなよ♪」
「うん。わかってる。」
ヒルダ達は子供ながらに将来を考えるのだった。
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広場と一般の屋台が一望できる建物の屋根にヴィクターが座りながらメモを取っている。
「ふむ・・・開場して1時間と少し経ちましたか。
結構、人の流れというのは変わる物ですね。
私としてはもう少し固定化した流れが出来ると思っていましたが・・・若干、逸脱し始めましたか。」
ヴィクターが自身のメモと懐中時計を見ながら確認する。
「ヴィクター様、お茶と野菜炒めを持ってきました。」
メイド姿のアスセナがバスケットを持って屋根に上がって来る。
「おや?アスセナさん、ありがとうございます。
すみませんね。
上から見ていて美味しそうでしたので購入を依頼してしまって。」
「いえいえ、構いません。
で、キタミザト様からの依頼はどうですか?」
「ええ、順調です。
たぶん、文官の方もしているでしょうが、主は私に見せたいのでしょう。」
「そうなのですか?」
「ええ、人の流れを見る時は漠然と見る事が良しとされるそうですが、細かく見ると大きな流れから逸脱した者達が現れると主は予想しています。
その逸脱した者がどう動くかを気にする事が出来る人が必要なのです。
もちろん全体の流れも気にしながらですがね。」
「ヴィクター様は出来るのですか?」
「まぁ戦の際の兵士移動と一緒ですからね。
全体で動きながらも遅れる者や逸る者が出るのは集団行動では当たり前です。
それを見つけて指導するのが上の立場の者の仕事ですから。」
「凄い物ですね。」
「慣れですね。
さて、アスセナさんが買って来た物を頂きましょうか。」
「はい、わかりました。
用意は・・・コップに水筒のお茶を淹れるだけなのですね。
どうぞ。」
「ええ、ありがとうございます。」
ヴィクターとアスセナは屋根の上で日向ぼっこをしながらのんびりと仕事をするのだった。
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