第1184話 特産品祭り。3(始まり。)
エルヴィス家の屋台。
「・・・もうすぐですね。」
武雄が時計を見ながら言っている。
「た・・・ただいま、戻りました・・・」
「「・・・・」」
テントの後ろからジーナとエンマ、フローラが大荷物を持って入って来る。
3人とも疲れた顔をさせていた。
「はい、お疲れ様です。
どうでしたか?」
「何だか最終的には私達も含めて4貴族で買い漁っていた気がします。
ゴドウィン伯爵方一行が5個ずつ買っていきましたし、私達が3個ずつ、スミス様は1個ずつでテンプル伯爵は食べたい物を10店程買われていました。」
「・・・お酒の販売は無かったですよね。
そんなに買うとお酒が欲しくなりそうですけど
皆さんで食べるにしても平気なんでしょうか。」
「飲み物は途中にロー様の酒屋組合がブドウとオレンジのジュースの販売をしておりました。
結構、買うのに時間がかかって、喉が渇いたので助かりました。」
「ローさん・・・良く見ているなぁ。
んー・・・まぁ良いか向こうは向こうでやるでしょうしね。
さてと、エンマさんとフローラさん、大丈夫ですか?」
「「大丈夫です!」」
「ならアリスの隣にフローラ、私の隣にエンマでお金のやり取りをしてください。」
「「はい。」」
「良し!では時間です。始めましょうか。」
と6時課の鐘が鳴る。
「開場し・・・おや?真っ先に来る子達が・・・」
アリスが入り口を見ながら呆れている。
「キタミザト様!アリス様!僕達は3個ください!」
「アリス様!キタミザト様!僕は1個!」
「私は1個!」
子供達が走り込んでくる。
「はいはい、お金は?」
「「「ここ!」」」
「こっちのお姉さんに渡してくださいね。」
「はーい!」
「3個と1個と1個と・・・丁度ですね。」
フローラが数える。
「はい、出来ましたよ。」
その言葉を聞いてアリスが子供達に渡す。
「「「ありがとうございます!」」」
「良し次だ!行くぞ!」
「「「おおー!」」」
子供達が走って行く。
「・・・うん、元気ですね。」
アリスが呆気に取られる。
「アリス様、結婚おめでとうございます。私は1個で。」
「あ!はい!ありがとうございます。」
と隣を見ると武雄も応対している。
既にちょっと列が出来始めている。
アリスは内心「ヤバいかも」と思うのだった。
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こっちは北町。
皆お揃いの上着を着ている。
「・・・子供達がエルヴィス家の屋台に行きましたね。」
「釣られて後ろの人達も行ったな。」
「はぁ・・・場所的に端っこになったが・・・・どうなるか・・・」
「何・・・今日はこの位置という事だ。
次回があればもっと内側にして貰う。
それに端の方が楽ではあるな。」
「そうでしょうか?」
「あぁ!楽だ。
何しろうちを目当てに来る客しか居ないんだからな!
ゆっくりとお相手が出来るという物だ。」
局長がそう皆の前で余裕を醸し出すが心の中では「あぁ・・・東町も良い位置にいるし、うちは白菜やキュウリにトウガラシを入れて塩漬けにしただけ・・・人が来ない可能性もあるなぁ」と不安に思うのだった。
「あの~・・・」
一人の男性がやって来る。
「あ!はい!いらっしゃいませ。」
北町の文官が応対する。
「ロー様にお聞きしたのですが、こちらがウォルトウィスキーを擁している北町の屋台なのですよね?」
「ええ、ウォルトさんのワイナリーは私共の町で商いをしておいでですが・・・ロー様というのは?」
「はい、酒屋組合の組合長です。
ウォルトウィスキーの仕入れと各店や酒場等に分配をされています。
ロー様が北町はウォルトウィスキーに合う物を出してくるだろうから見てこいとのお達しなんです。
ちなみに私は組合員の者です。小さな酒場をさせて頂いております。
で・・・何をお作りになられているのですか?」
「あ・・・私達は・・・」
と文官が言い淀みながら局長を見る、目には「局長!助けて!」と言っている。
「あはは、では私がご説明いたします。
私共の町では今、辛口の野菜の塩漬けを作り始めたのです。」
すぐに局長が前に出て来る。
「か・・・辛口の塩漬けですか?」
「ええ、まずは白菜とキュウリですが、一口いかがでしょう。」
「はい!頂きます。
あ、お代はこちらですね。
頂きます・・・ふむ・・・最初はあっさりとした感じがありましたが後味がピリッと来ますね。」
「ええ、そこにウォルトウィスキーのお湯割りがお勧めと思います。」
「お・・・お湯割りですか?」
「はい、水割りというのは今回ウォルトウィスキーを広めるにあたって一緒にご紹介された物ですが、実は・・・少し熱めのお湯を用意して水割りと同じ分量で割る、『お湯割り』というやり方があると私達は考えています。」
「ふむふむ・・・お湯で割る・・・斬新ですね。
確か、北町はこの街よりも若干気温が低いのですよね。」
「ええ、だからというわけではないのですが、とある酒場で水ではなくお湯で割ったら人気になりましてね。
まぁウォルトウィスキーの飲み方自体が奇抜なのですが。」
「はい、まさか何種類も飲み方があるとは知らなかったですね。
特に水割りの概念が素晴らしいと思っていたのです。
そうですか。お湯割りですか。
で、この塩漬けとの関係は?」
「ええ、この後味のピリ辛ですが、実は飲みたいという欲求に繋がるようなのです。」
「ほぉ・・・つまり、辛い物を食べた後は飲みたくなると。」
「それもワインやブランデーよりもウォルトウィスキーが好まれるようなのです。」
「ふむ・・・ウォルトウィスキーを広めるに当たっての参考になるかもしれませんね。」
「ええ、ただ・・・」
「ただ?」
「実は辛すぎてもダメ、塩の分量も濃すぎてもいけないという事みたいなのです。
今では計量してから仕込みますので味の統一感は出せるようにしたのですが、ここまで来るのに苦労しました。」
「・・・なるほど・・・ちなみに仕込んで何日程必要ですか?」
「浅く漬ける方は1日ですが、今お食べ頂いているのはこの街に卸せるように2日もしくは3日で食べれるようにしています。」
「・・・仕込んで発送をされると?」
「ええ、到着する頃に食べ頃になっていると考えています。
ですが、仕込みは樽毎になるのですよね・・・」
「味の均一・・・食べ頃の把握・・・わかりました。
では、1樽買わせて頂けますか?」
「おぉ!ありがとうございます。
ささっ、奥で担当がおりますのでどうぞ。」
「ええ、失礼します。」
男性が奥に行く。
「局長、ありがとうございました。」
最初に声をかけられた文官がこっそりと言ってくる。
「しっかりしてくれ・・・私は後ろで見ているだけのつもりだったんだぞ・・・」
「売り子なんてした事ないですよ。」
「私だってない。
だが、しないといけないのが今だ。
恥をかこうが気後れしようが私達の後ろには町の・・・いや村々の農家の方々の仕事に繋がるのだ。
しっかりと臨まねばならないんだ。」
「はい・・・そうですね。
やります。」
「ああ、だが、強引にはしてはいけないんだ。
それとなくな?それとなくだぞ?」
各々が初めての接客を体験するのだった。
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