第1123話 141日目 研究所の建設現場。(喫茶店の事について。)
武雄は朝食を取って料理長と研究所の建設現場に来ていた。
「・・・おかしくないですか?」
「何がだ?」
武雄の疑問に料理長が振り返って聞いて来る。
「いや、さっきまでアリスお嬢様やエリカさんと昨日のミルクレープの総評をしていて・・・
うどんを作る為に厨房に行ったら連れ出されてここに居る。
これいかに。」
「まぁ良いじゃないか。
でだ。タケオ。ここが喫茶店になる1階の部屋なんだがな?」
「・・・広いですね。
まぁ机や椅子や厨房がないからなのでしょうね。」
「そうだな。
20名程度の喫茶店だ。
喫茶店としては中規模だろう。
レストランや酒場としては小規模かもな。」
「確か・・・150名分でしたか?
客の入りを上手く捌かないと150名は大変そうですね。
ちなみに原価はどのくらいにするのですか?」
「タケオは銅貨6枚程度と言っていたがな・・・7枚か8枚の予定だ。」
「・・・結構かかるのですね。」
「まぁな・・・それでも朝と昼合わせてだからな。」
「朝?」
「ああ。タケオの言っていた通り、朝は銅貨5枚で2種類のスープと2種類パンとベーコン系の肉と卵、そしてサラダのみ用意をしておいて自分で取る形で提供する事になった。
文官達は朝も食券は使えるようにしてな。
朝は100名を見込んでいる。
補助金は1食銅貨10枚として朝昼合わせて毎日250食分。銅貨2500枚で金貨2枚と銀貨5枚分。
料理人を除く人件費として朝7時から16時までの9時間で常時5名が配膳と会計と食器洗いだな。日当銅貨80枚だな。」
「割と高めの設定なんですね。」
「・・・この喫茶店は客数が多くなるだろうからな。
昼時は慌ただしくて息つく暇もないだろう。
それに他店や他者にレシピを教えてはならないという守秘義務を結ばないといけないからな。」
「厳重な事で。」
「それをしても他店が真似するのは時間の問題だろう。
ちなみに食券の利用は朝食は8時から9時半まで昼の日替わりは11時から14時まで。
それ以外は固定メニューの軽食とスイーツの提供と仕込みの時間となった。」
「そうなんですね。」
「ん?あっさりだな。
もっと何か言ってくると思ったんだがな。」
「私は気軽に行ける喫茶店は欲しいですが、内容まで口は出しませんよ。
料理長達がやりたいようにしてみた方が面白い店が出来るのではないですか?」
「ふむ・・・面白いか・・・
タケオはどのくらいの種類があった方が良いと思う?」
「パンにメインに惣菜とスープが基本的な構成と考えると6日で1週間の5週で1か月でしたから・・・
パンは2種類、メインは7種類、スープは2種類くらいあれば回るのではないかと思いますが、本職はどう思いますか?」
「パンとスープは無難だが・・・
メインとしては焼く、炒める、パスタに絡ませるの3種類。
下地としてはトマト系、アズパールカレー系、ウスターソース系の3種類。
そこに入れる具材と干し肉やソーセージや野菜で4種類。
この組み合わせを作っていくつもりだ。」
「・・・しれっとカレーを入れましたね。」
「タケオ。あれ凄いな。なんの食材でも合ってしまう。
まぁウスターソースも将来性は抜群なのは確かだがな。
カレーは相手を選ばないという利点でウスターソースよりも可能性は大きい。」
料理長がうんうん頷く。
「・・・アズパールカレーについては本気でレシピの流出には気を付けてください。
あれは契約に縛られていますからね。
少なくとも10年以上は流出は避けなければいけません。」
「あぁ。わかっている。
それも考慮して人選中だよ。」
「やってくれそうな方がいますか?」
「あぁ。今の所、少なくともうちの妻と娘はやる気だよ。
あとは昔エルヴィス家で働いていた料理人やメイドに声をかけている。
今は主婦になっているのをな。」
「なるほど。それは考えましたね。」
武雄は感心してみせるが「ウスターソースもそうだったけど、縁故的ではあるけど、特定の主婦力を求めるのは守秘義務がしやすいからなのか?」と思っていたりする。
「顔見知りの方がやりやすいですかね。」
「それもだが・・・元メイドなら配膳も会計も出来る。
初期の教育をしなくて済むからな。」
「なるほど。確かに。」
タケオが頷くのだった。
「ん?料理長さんじゃねぇか。」
喫茶店の室内の方の出入口から男性が声をかける。
「ああ。全体を見ながら喫茶店の構想をな。
親方はどうしたんだ?」
「あぁ・・・ヴィクターさんが朝一で来てな。
キタミザト様から3階の部屋割りの変更を指示されたとかで設計陣と一緒に現物見ながら手直しだ。」
大工の親方が設計図片手に話してくる。
「・・・ほ・・・ほぉ・・・」
料理長はそう言いながら武雄を見ると武雄はニコニコしている。
「・・・で。親方。キタミザト様の要求はどうなんだ?」
「どうもこうも・・・ありゃなんだな!真っ当な意見を持ってはいるんだが部下の気持ちがわかってねぇ。
貴族で所長なんだ『一番大きな部屋にしないと』と部下が気を回して用意したんだがよ。
一目見てダメだと言うんだ。
頭は良いのかもしれないが、部下の気持ちも知っておいて貰わなな。
で、あんちゃんは誰だ?」
大工の親方が武雄に聞いて来る。
「ジョン・ドウと言います。
今はエルヴィス家内でキタミザト家の全体を見る仕事を任せて貰っています。
といっても始めたばかりなのでわからない事ばかりなのですけど。
今日は料理長に喫茶店の下見に行くと言われたので付き添いをさせて貰っています。」
武雄はしれっと偽名を使って説明する。
その様子に料理長がため息を漏らす。
「そうか。
まぁまだ建設途中だからな。
足元には気を付けてくれ。俺の現場で転んで怪我されたんじゃ誇りが許さねぇ。」
「はい。わかりました。」
「おぅ。じゃあな。」
大工の親方が去っていく。
「ああ。間取り早く決めた方が良いな。」
「わかっているよ。
工期はそうないんだ。今日中にはヴィクターさんの所に持って行くよ。」
料理長の言葉に大工の親方が背中越しに言う。
「では。また~。」
武雄が手を振りながら見送るのだった。
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