第1114話 その後。(夕霧からの報告と武雄の武術練習。)
執事は湯浴みの用意をしに先に屋敷に戻り、ヴィクターに資料のまとめとアリス達が屋敷に戻るのに同行する旨を指示し、武雄は夕霧とステノ技研を目指していた。
「そうですか。
マイヤーさん達が出立を。」
「ん、さっき王都に残していたスライムから連絡が来た。
それと寄宿舎から通路までの道は順調に開通。
今は何本か予備の通路を作るように指示を出しました。」
「夕霧も優秀です。」
「ん、これしか出来ないから。
で、タケオ、私達は役に立っている?」
夕霧が聞いて来る。
「ええ、十分に・・・いや予想以上に役に立っています。
ですが、無理はいけませんし、強引にするのも今はしてはいけません。
強引な改革は齟齬を産みます。
早くする所は早くしなくてはいけませんが、そうでもない所は徐々にしていくのが望ましいですね。」
「ん、でもタケオ、私達はその曖昧な指示がわからない。
もっと明確な指示が欲しい。」
「なるほど。」
武雄が頷く。
夕霧の指摘に武雄が改めて考えさせられる。
報連相という日本社会の社会人が最初に習うこれは会社が部下側に必要とする能力となる。
では、上司の方はというと部下へは明確な指示が良いとされる。
明確な指示とは目的、納期、必要とされる結果を部下に示さないといけない。
もちろん上司は部下に必要とする結果を言うが、上司の方は部下が失敗した事を想定した対応策を事前に用意し、部下の進捗の確認と適切で迅速な指示が良いとされる。
まぁ所詮は『される』なのだが。
現実はと言えば、部下が報告を怠ったり、相談がなく勝手に判断したり・・・そして報告と相談がされる時は問題が大問題になっている時だ。
武雄は『どうせ怒られるなら早々に相談して怒られてから、皆で対応策を話し合う時間を長く設けた方が良い』と思うのだが・・・怒られるのが好きな人間はいる訳もなく。
それに問題が発覚した時は規模の小ささからその場のノリと流れで部下が勝手に判断するという事が多々起きる。
部下の方は初めの頃はしていた報連相も慣れという常態化からだんだん少なくなり『似たような事は前にもあった』と判断をする。
上司の方は『何回も同じような仕事を渡しているんだから』とあいまいな目標と結果を部下に指示し、それを部下が忖度していく。
個人においての慣れは作業の効率化につながるが、組織において慣れは怠慢と言われる。
だが、往々にして組織の慣れは許容され、問題が発覚すれば上下の関係だろうが左右の関係であろうがお構いなしに『やったやらない、送った送らない論』が巻き起こる。
私はエルヴィス家の良い部下だろうか?そして夕霧達や研究所の人員達の良い上司だろうか?・・・考えさせられるのだった。
「そうですね。
夕霧達とはちゃんと話しておかないといけないですね。」
「ん、タケオ。
確か・・・明瞭な指示を請う・・・だったでしょうか。」
「夕霧?それ誰かに言われましたか?」
「ん、昔、焼ける前の村で人間が言っていた。
今なら意味が解ります。」
「それは今夜でも話しますか。」
「ん。」
武雄と夕霧はステノ技研にもう少しの所に来るのだった。
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テイラーの店にて。
「ふむ・・・我に柔道を?」
ニオがカウンターで武雄達と話していた。
「ええ。今回の模擬戦でアリスお嬢様達に有効だとわかりましたからね。
週に1、2回したいのです。」
「・・・毎日ではないのか?」
ニオが聞いて来る。
「すみませんが、選手になる気はありません。
手習い程度で・・・戦闘中に思い出せれば良い程度なんですけど。」
「はぁ・・・タケオ、そんなに柔道は楽ではないぞ?」
「他にしたい事もありますし、仕事もしたいですし。」
「それはわかるがな
・・・まぁ、良かろう。空いている時間に相手をしよう。
どのレベルが良い?」
ニオが聞いて来る。
「・・・高校生程度で。」
「タケオ、志が低いな。」
ニオがジト目で見る。
「ちなみに仁王様、高校生と言われてどんな高校生にするつもりですか?」
「総体優勝者。」
「中学生程度ではダメでしょうか?」
武雄が頭を下げてお願いしてくる。
「全中優勝者か?・・・タケオ、それは低すぎだろう。」
「中学生でも日本一が相手では私の練習になるのかすら危ういレベルです。」
「だがなぁ・・・」
武雄とニオが話し合っている。
その様子を鈴音はクスクス笑って見ている。
テイラーは「柔道って何?」と首を傾げている。
「スズネさんはわかるのですか?」
「ええ、総体なんて久しぶりに聞きました。
国中から同年代の人達が集まって競い合う大会をしていたのです。
タケオさんとニオが言っているのは剣を使わない武術の競技会ですね。」
「武術の競技会ですか。
アズパール王国では王都で民間の大会を御前仕合、第1騎士団、第2騎士団、兵士の大会を御前競技会と言っていますね。
あれと同じようなものでしょうか。」
テイラーが頷く。
「御前仕合と御前競技会?」
鈴音がテイラーに聞く。
「ええ。
民間部門では普通に戦うのですけどね、兵士達の方は結構ルールが厳しいのです。
特に魔法の使用については、ある程度、平均性が求められますので。
まぁ技の大会でしょう。」
「そうなんですね。」
鈴音が頷くのだった。
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