第1111話 実感。1(スミスの事はそっちのけで魔眼を考える。)
「・・・」
スミスはマリに教えられたタイ捨流の独特の構えをしてハロルドを見ている。
前回は余裕を見せていたハロルドが今はしっかりと構えている。
それだけでも自身が成長したと感じられるものだった。
だが・・・なんだろう・・・不思議な感じ。
あの時はただがむしゃらにハロルドに剣を振っていたのに今では間合いという物を意識している。
焦ってもいないし・・・心内は静かだった。
この状態の事はタケオ様に聞けばわかるのかな?とも思うが今は模擬戦中。
さてと・・・ハロルドとの間合いを詰めないといけないか。
スミスも思案するのだった。
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「主、スミス様はあの歳で戦士の顔をされるのですね。」
ヴィクターが武雄に言ってくる。
「戦士の顔・・・前にハロルドが言っていましたか。
それにしても・・・あの顔を私の時にもさせて欲しかったですけどね。」
「・・・スミス様は負けを覚悟されておりましたね。」
「初めから負ける気で模擬戦をされてもね・・・
覚悟があれば結果が出るわけではありませんけど、心持ちは大事ですよね。」
「主、あの方は・・・確かハロルド騎士団長ですね。」
「もう覚えたのですね。」
「顔と名前を覚えるのも仕事ですので。
主、スミス様は勝てるでしょうか。」
「無理でしょうね。」
ヴィクターの問いかけに武雄が即答する。
「そうですか。
やはり剣術を学んだだけでは勝てませんか。」
「剣術を学んだだけで騎士団長に勝てるのなら誰もが学びますよ。
剣術は言ってしまえば所詮は型です。
それを状況により使い分け、時には型通りに、時には型を崩して対応して自分に勝利を引き寄せるのが使いこなすという事ではないでしょうか。
スミス坊ちゃんは型を学んだだけです。
どう使うかは・・・習う事ではなく経験する事でしょうけどね。」
「はい、その通りかと。」
ヴィクターが頷く。
武雄とヴィクターが話している最中にスミスがハロルドににじり寄り始める。
「・・・主。
先ほどの戦いでお聞きしたい事があるのですが。」
「なんですか?
ジーナに恥をかかせたことですか?」
「いえ、ジーナでは主に勝てないのはわかっております。
むしろ良く耐えたと考えております。」
「ヴィクター・・・私はそこまで出来ていません。
が、まぁ怒っていないなら良いです。あとでお土産渡しますからね。
で?」
「畏まりました。ジーナの奮闘に対する褒美と受け取らせて頂きます。
さて・・・先の戦闘ですが、前に旅路でオーガの相手をした際に斬り付けると同時にエレクを発動させるという方法を取っていたと思います。
今回も抑え込んでいる際には首元に出来たのではないでしょうか。」
「・・・戦いとは一撃で完結させるもの。
ハロルドはスミス坊ちゃんにそう教えていると前に伺っています。
そしてマリのタイ捨流はその考えを突き詰めた一つの到達点です。
私も戦闘中ならそう思います。
その考えから言えば、組み伏した相手から即座に戦闘能力を奪うか意識を無くさせる方法を取るのは当然でしょうね。」
「はい。
しなかったのは模擬戦だからですか?」
「ええ、模擬戦だからですよ。
戦場なら即座に何かしらの方法を取って無力化するのが望ましいです。
それに戦場で1対1の状況は稀です。周りには常に味方か敵が居ます。
味方が居れば横から斬り付けて終わらせ、敵が居るなら即その場で対応してもう一方の相手をしないといけないでしょう。」
「はい。」
「ですが、模擬戦でそこまでする意義はないでしょう。
負ける瞬間に意識がなければ経験にはなりません。
経験がなければ成長はありません。」
「今回の模擬戦ではどういった意味合いが?」
「魔眼あるからと傲るなかれ。」
「なるほど。
ちなみにジーナもアリス様も魔眼持ちです。
主が必死に抑えていても体を起こす可能性があったのではないでしょうか。」
「・・・ヴィクター。魔眼の性能をどう見ますか?」
「身体強化による速度と攻撃力の向上が主かと。
あとは魔眼の特性により目が合った者に影響が出ると考えております。
それと魔法の発動が出来ません。」
「・・・そもそも・・・それがおかしいと思っていたんですよね。」
武雄がヴィクターに目線を送る。
「おかしいですか?」
「ええ、おかしいです。
魔眼の特性は、というかヴィクター達もそうですが・・・少なくとも魔眼持ちと獣人は魔法が発動出来ない・・・と言われていますし、本人達もそう言っています。
ですが、今思ってみると発動出来ないというわけではないのです。
現に指輪にケアを入り切りさせられるようにしたら出来たでしょう?」
「・・・そうですね。
出来ています。」
ヴィクターが指輪をしている自分の手を見る。
「魔眼持ちと獣人の特性は強制的に身体強化と武器と衣服の強化をする。
これ発動出来ていますよね。
そして指輪という外からの装備品に反応も示しているし、そもそも測定が出来ている。
ここから言える事。
両者は対外的な魔法は使えないが自身の強化の魔法は使えるという真実です。」
「・・攻撃的な魔法・・・いや他人に向けては使えないが、自身に対してのみの魔法は使える・・・という事ですね。」
ヴィクターが心底驚いている。
自分達は魔法の特性は持っていない。
狼時の身体強化のみだと言い伝えられていたし、実際に本気での戦闘は狼になって戦っていた。
魔法の事は気にもかけていなかったのだ。
だが、目の前の主の目には違うように映ったようだ。
「ええ。
目の前に3名居れば仮説という概念ではなく、実証という話になるでしょうね。
・・・ヴィクター、ゆくゆくはヴィクターの母国にケアが出来る魔法の指輪でも売りますか。」
「よ・・・よろしいのですか?」
「ふふふ。『エルヴィス領からの魔法の指輪なら』という刷り込みをさせるのも良いかもしれないですよね。
向こうの戦力増強に一役買ってしまいますが・・・そう言えば甥っ子さん。人間嫌いなのでしたっけ?」
武雄はヴィクターに笑顔を向ける。
ヴィクターは目を見開くが直ぐに真面目な顔をする。
「畏まりました。
輸出用の指輪の件は私が一括で管理させて貰います。売る相手はシモーナが信用する者に限定させます。」
「25年後の種蒔きの計画については今から思案するべきでしょう。
早いに越した事はありませんしね。」
「はっ!」
ヴィクターが恭しく頭を下げるのだった。
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