第1089話 次の目的地(鈴音との話。)
武雄達はテイラーの店に着いて、サテラ製作所での話を鈴音とテイラーに話をしていた。
「ん~・・・ブラックボックス化ですか。」
鈴音が腕を組んで悩んでいる。
「キタミザト様の言う通り時間稼ぎにしかならなそうですね。
ミシンの駆動を見ましたけどミシンの駆動部のみを囲っても意味がなさそうですし。」
テイラーが言ってくる。
「あるとすれば針の上部かボビンでしょうけど・・・
私では何とも言えません。
武雄さん。どう改造するかはキャロルさんの図面待ちでしょうか。」
「サテラ製作所の話は基本的に鈴音に任せます。
と言っても適時報告と困ったら相談をしてくれれば問題ないという程度ですけどね。
契約書云々になるならヴィクター達に相談すれば良いです。」
「良いのですか?」
「キャロルさんの信用を得ているのは私でなく鈴音です。
今後もその関係は培って行くべきでしょう。」
「・・・出来ますかね?」
「ミシンで信用を得たようにすれば良いですよ。
多少の失敗はしょうがないですが・・・キャロルさんと今日話しましたが、彼はちゃんとした人みたいですからね。
図面もしっかりと見てくれそうです。」
「武雄さん。あれしっかりじゃないですよ・・・
何度書き直させられたか。」
「検図なんてそんなものですよ。
書いてる方は完璧だと思っていますけど、考えがわからない他人からしたら言いたい事が伝わらない図面になっているなんてザラにありますよ。
だから確認が必要なんです。
あの完成品を見ると相当検討し合ったというのはわかりますけどね。
どんな感じでしたか?」
「外形図を書いたら各所の詳細図も追記しなさいと言われました。」
「うん。当然ですね。」
武雄が即頷く。
「・・・武雄さん。誰の味方ですか?」
「え?自分の味方ですよ。
結局そのやりとりがあったからあの製品が出来たのでしょう?」
「それは・・・まぁ・・・そうですけど・・・
描く枚数が多かったんです。手直しというか追加の詳細図もてんこ盛りです。」
「ははは。最初はそんな物ですよ。
鈴音の頭の中を見れないんですから事細かく書いて貰わなければ製作する方も困るでしょう。
でも1度作ってしまえば・・・いや。2、3度作れば大まかな機構と外形を制作サイドも理解出来ますからね。
ある程度簡略化出来るとは思いますが・・・キャロルさんは妥協してくれますかね?」
「してくれなそうです・・・
武雄さん。替わってください。」
「私。ウォルトウィスキーに日本酒にウスターソースに文具に幌馬車と船の外形の判断をするんですけど。
鈴音。どれと交換しますか?」
「え?・・・」
鈴音が目を右往左往させながら考える。
ウォルトウィスキーはローさん。
日本酒は・・・確か米を作る所からだろうし。
ウスターソースはベッドフォードさん。
文具はモニカさん。
幌馬車と船って確かローチさんだっけ。船なんてわからないし
・・・どれも面倒そうでわからない事だらけなんだけど・・・
これって今のキャロルさん相手の方が楽なんじゃないの?
でもな~図面の直しが厳しいんだよなぁ~・・・
「・・・」
鈴音が思案している。
「さて、テイラー店長。
ローチさんにベアリング教えましたね?」
「ええ。試作品が2個出来ています。
あれですけど。」
テイラーが店の隅っこを指さす。
「・・・荷台?・・・
何か大きい物を移動させる時に乗せる小さい荷台ですよね。」
「ええ。これの前輪に取り付けて見ました。」
「不格好ですね。」
「まぁ荷車用の軸を参考に作りましたから・・・
車輪に対して軸が太いんですよね。」
「使ってみましたか?」
「ん~・・・使う用途がなくてですね・・・
さっきキタミザト様の訓練場に行って来たんですけど・・・どうやって試験しようかと迷っています。」
「はぁ・・・今度は試験項目を作ってから試作してくださいね。」
武雄がため息をつく。
「どういった試験をしますか?」
「無荷重の時と荷重ありの時の同条件での移動距離で良いのではないですかね?
そこまで厳密に測定や規格化するのは今は必要ないでしょうし、その辺はこれからでしょうからね。」
武雄が考えながら言う。
「・・・キタミザト様。今変な事を言いませんでしたか?」
「至って普通に思案しただけですが・・・どこですか?」
「規格化すると聞こえたのですけど。」
「ええ。データの蓄積をしてそれを数値化して
想定荷重から必要とされる軸径とベアリングの種類を決めれるようにしないと製品としてはダメでしょうね。」
武雄がしれっと言ってくる。
「荷重に対しての軸径はわかります。
でも荷重に対してのベアリングとは?」
「棒ベアリングなのでしょう?
なら軸に対しての棒ベアリングの太さと個数を考え、荷重に対してどういった数が適切なのか考えないといけないでしょうね。」
「・・・すぐ必要でしょうか?」
「いえ?今は必要ありませんよ。
今は出来たばかりのベアリングがどのくらい既存の物より転がりやすいかの試験をするべきでしょうね。
規格化はその後ですよ。」
「ん~・・・わかりました。
まずは坂で同じ条件でどれだけ転がるかの試験をしないといけないという事ですね。」
「ええ。簡単で良いと思いますよ。」
「ちなみに・・・これの量産化はどこが?」
「鈴音経由でサテラ製作所でしょうね。
そしてローチさんの所に納入して幌馬車の改造をしないといけませんね。」
「幌馬車の改造・・・キタミザト様。何をする気ですか?」
「いえ・・・特には輸送のコストを下げたいだけですよ。
そして船にも乗せたいんですよね・・・」
武雄が考えながら言う。
「ん~・・・キタミザト様の頭の中はスズネさんより複雑そうです。」
テイラーが呆れる。
「私の方が単純だと思いますけどね。
出来る出来ないではなく、したいという考えでいますからね。
出来る出来ないは他の人に判断させるだけですし。
出来ないならそれはそれで良いんですけどね。」
「それは・・・皆さん一生懸命作ってしまうのではないですか?」
「そうなんですよね。
なぜか皆さんやる気になるんですよね。」
武雄が良い笑顔をテイラーに向けるのだった。
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