第1088話 次の目的地(試作の話。)
武雄達はキャロルのサテラ製作所に来ていた。
「へぇ・・・これが鈴音が図面を引いた足踏みミシンですか。
良く出来ていますね。」
武雄が完成品の足踏みミシンを動かしながら言う。
「はい。
スズネさんの発想の柔らかさがわかります。
彼女は良い設計者になるでしょうね。
キタミザト様。これは画期的な道具ですね。」
「・・・いろいろ作りたくなりましたか?」
武雄が目線をキャロルに向ける。
「ええ。いろいろと思いついてしまいます。
もちろんキタミザト様やスズネ様に許可を頂かないといけないのは承知しています。」
「・・・鈴音は何と言っていましたか?」
「はい。
『ミシンの売り先は厳選して貰い、この技術を他領や他国に渡す訳にはいきませんので、少し時間をください』と仰っていました。」
「うん。それで良いでしょう。
しばらくはミシンはラルフ店長の所のみでお願いします。
それとチャックについて何か聞いていますか?」
「・・・サンプルは頂いていますが・・・」
キャロルが難しい顔をする。
「そうですか。実用化はまだ先ですか。」
「いえ。
どうやって開閉しているかの構造は理解しました。
頂いたサンプルの3倍の大きさでの試作もしまして製作自体は出来たのですが・・・これを市場に出すというのが・・・」
「・・・量産方法がないと?」
「ええ。チャックの上げ下げする所の機構は上手く作れたのですが、両サイドの櫛の部分の製作費用が掛かり過ぎます。
もっと安く作れなければ採算が取れません。」
「なるほど・・・」
武雄は現状での問題点を考える。
櫛部分は鉄板からプレス加工で一気に数個取り出すような物か鋳造のように金属を金型に流し込むしかないのだろうけど・・・足踏みのような動力を使ってでも半自動的に作れる物を考えないといけないのか。
そしてそれを布に縫い付ける方法も考えないと・・・
どちらも1人で考えていてもどうしようもないくらい高いレベルの柔軟性が必要と思われた。
ただそれと同時に「解決策がわかると簡単な事なんだろうけどね」と武雄はあまり不安視はしていなかった。
そこには作られた物があるなら再現は出来るのだ。実際にキャロルは再現できると言っている。
ただ事業として採算が望めないと。
服を作るのにチャックの部分で銀貨5枚も6枚も出すのは馬鹿げている。
まぁ特注品を作るのなら問題はないが・・・一般に売り出したいならコストを安くするべきでその為にはこのミシンの機構を動力源と出来るようにするのが手早く暗に期待しているのか。
「チャックについてはわかりました。
一旦量産化は見送るべきでしょうかね。」
「はい。わかりました。
では、気晴らし程度に研究をさせます。」
「ええ。その程度で良いです。
良い考えが浮かんだら私か鈴音に言ってください。
それに特注品なら作って貰えるのですね?」
「ええ。費用は掛かりますが、ご要望には応えようかと思います。」
「わかりました。
では60㎝くらいのチャックを作る見積もりをください。」
「え?・・・はい。わかりました。
どこかに売り込むのですか?」
「まずはラルフ店長にですよ。
見積もりを見て私が何個作れるのか考えてから試作というか試供品を作って貰い向こうに渡します。
あとは向こうがどう考えるかですね。
大量に必要となるなら本格的に量産化の計画を立てましょう。
値段が高くて断念するならしばらくは特注品のみの対応としましょう。」
「どちらにしても少数の生産はするのですね?」
「ええ。私と鈴音はチャックがある便利さをしっていますから。
付ける所は厳選はしないとはいけないでしょうが・・・とりあえず作りましょう。」
「はい。わかりました。
製造についてはお任せください。」
「期待しています。
それと一応、チャックについてはキタミザト家と契約をお願いします。」
「それは私共としてはありがたい事です。
わかりました。近日中にお持ちします。」
「ええ。お願い・・・あ~・・・研究所が出来てからにしましょうか。」
「確か4月以降と聞いていますが?」
「そうなります。
うちのヴィクターに渡してください。
さて。とりあえず今はミシンの改良に力を入れるべきでしょうね。」
「はい。
スズネさんから改良をして良い許可を頂きました。」
「私も許可しましょう。
他領に向けて出荷する事になる可能性が高いですから技術を秘匿する為の何かしら細工をしてください。」
「細工ですか?」
「ええ。ブラックボックス化ですね。
内部機構を見ることができないよう密閉された機械装置であり、勝手に開けたら装置が使用不可になるような装置を併設する事が理想です。」
「ふむ・・・なるほど。
ですが、今回のミシンは構造がわかってしまえば動きとしては簡単です。
それを秘匿ですか?」
キャロルが言ってくる。
武雄は「・・・その簡単な構造が鈴音が図面を描くまでは誰も思いつかなかったのですけどね・・・」と目線を落とす。
「残念ながらいくら秘匿しても模倣品はいつかは出ます。
ですが、すぐに出されては皆の努力が無駄になります。
時間を稼ぐ為に秘匿をするべきです。」
「わかりました。
改良をする際に同様の処置を行います。」
「ええ。全部をではなく一部で構いませんからわからなくしてください。
どこにするかはお任せします。
もしくはする際は鈴音に相談してください。」
「はい。お任せください。
相談もさせて頂きます。」
キャロルが頷くのだった。
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