第1085話 次の目的地(家具等の話。)
武雄達はローの店を出て次の目的地に向かっている。
「ご主人様。
先ほどの話ですが・・・」
ジーナが聞いて来る。
「どうしましたか?」
「いえ・・・次の酒の製造は早いのではないのですか?
まだウォルトウィスキーも販売が開始されたばかりです。」
「販売が始まったという事は商品が完成したのです。
原料の仕入れと製造と販売がしっかりすればあとは作って売るだけです。
研究部門は次に販売する物を探さなくてはなりません。」
「それがさっき言ったビールですか?」
「製造は既存の設備で出来るとしても『市場が求める味』を決めるのに数年かかると思いますね。
私はこれは食品加工関係の事業の抱える悩みだと思うのです。」
「味ですか。」
「ええ。
作物を作ってくれている農業の方々は実際の味までは決められません。
鮮度や1つの種から実がどれだけ付くかとか実の中が詰まっているとか・・・
味とは違う事を求めていますし、そこまで『市場が求める味』という物は気にしていません。
むしろ端的に言えば『野菜等は作った。後はどう加工しようが知らない』という事ですね。」
「・・・そうなのでしょうか?」
ジーナが首を傾げる。
「ええ。
でも農家はそれで良いのです。一生懸命作物を作ってくれる。それだけで十分です。
で。この先が問題です。
ワインも肉も野菜も・・・これが美味しく頂けるように加工をさせないと市場で生き残れませんよ。
ジーナも美味しいマドレーヌと美味しくないマドレーヌが目の前にあったら美味しいのを食べたいでしょう?」
「はい!美味しいのが良いです!」
ジーナが頷く。
「美味しいという事がすなわち『市場が求める味』ですね。
同じ材料を使って同じように調理して・・・不味いマドレーヌしか出来なかったとして『同じ材料で同じように作ったんだから向こうの評判の良い店と同じ料金で食べて下さい』といわれてジーナはお金を払いたいですか?」
「払いたくありません。二度とその店には行きません。
同じお金を払うなら美味しい物が食べたいです。」
「ええ。私もそうですよ。
会社として味を決めるのは苦労するのです。
製作側が美味しいと思っているのではなくあくまで買い手の事を考えての味の選定ですからね。
特に飲み物系は一旦味を決めるとワイン瓶で数百本分は変更出来ませんからね。」
「なるほど・・・ご主人様。なら味決めの時間も考えて今からした方が良いという事ですね?」
「そうです。
今から少しずつやって行った方が良いと思いますね。」
武雄とジーナが主従として話しているのだった。
その後ろでは。
「アリス殿。タケオさんはこれが本気なのね?」
「ええ。凄いでしょう?
あのローさんも酒屋組合長なんですよ・・・この街では相当上の人なんですけどね。」
「え・・・タケオさん。知っているんですかね?」
「たぶん知っているとは・・・あれ?言わなかったですかね?」
アリスが首を傾げる。
「知っていてあの対応なんですか。
しれっと脅していたように思うのですが・・・」
「いつもああですかねぇ?」
「大変なんですね。」
アリスとエリカが苦笑するのだった。
・・
・
さて。次の店です。
「キ・・・キタミザト様?」
モニカが店先で武雄を発見する。
「どうも。」
武雄がにこやかに言う。
「ななななん・・・なん・・・どうされましたか?」
モニカが狼狽えている。
「・・・何を挙動不審に・・・何かあるのですか?」
「いえ・・・そうではないのですけど・・・
とりあえず、応接室にお願いします。」
モニカがうな垂れながら武雄達を案内する。
・・
・
「で。事業はどうですか?」
「とうとう・・・とうとう文具と玩具の部署を立ち上げました。」
「注文足りてます?
足らないなら」
「現状いっぱい!いっぱいです!
追加は今はいりません!
と言うより各王家と王都の貴族と王都の各局と騎士団と・・・なんでこんなに来るんですか!?」
「あれ?」
「『あれ?』じゃないです!
キタミザト様!何をしたんですか?」
「各王家にお土産で渡して、同期の貴族に教えて・・・以上ですが?」
「どこがどうなってあんなに注文がくるのですか・・・
はぁ・・・アリス様はわかるのですが、こちらの女性は?」
モニカがエリカを見る。
「第3皇子一家の相談役ですよ。
エリカさんと言います。」
「エリカ・キロスです。
よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。
えーっと・・・うちは家具の製造をしていますので何かご注文いただけるのなら頑張ります。」
「わかりました。
引っ越しがあるので王都で検討いたします。」
エリカが会釈する。
「家具・・・研究所のは」
「ヴィクター様に渡しています!早く決めてください!」
モニカが真面目顔で言ってくる。
「・・・んー?」
武雄が「その報告あったっけ?」という顔をする。
「ご主人様。結構押しているみたいです。」
ジーナがコソッと言ってくる。
「キタミザト様!小隊の方々の方も決めてください!」
「あれはブルックさん達に任せたと思っていたんですが・・・」
「ご主人様。承認が終わっていないんです。」
「書類は?」
「総監部の一室をお借りしているのですが、そこに。」
「・・・モニカさん。帰ったら見ます。」
「早くお願いします!」
モニカが鬼気迫る顔を武雄に向ける。
「はい。
あ。布製の棚はどうなりましたか?」
「うっ・・・それですか・・・」
「まぁいきなりは売れないとは」
「それなりに注文が来ていますよ。」
「なぜ?」
武雄が首を傾げる。
「なぜと言われても・・・前に話した時に言っていた歓楽街の女性陣に見て貰ったのですけど、とりあえず買ってみるという事になりました。
彼女達は部屋があまり大きくないようで、当初の予定より小さめの棚が欲しいという事でしたので、要望に合わせて売る際のサイズは4種類程作る予定です。」
「順調ですね。」
「家具屋なのに布を切ったり縫ったりする日が来るとは思いませんでした。
ですけど・・・結構面白いのですよね。
何事も木で作らないといけないと思っていたのですが・・・職人達には良い刺激になっているようです。」
「そうですか・・・では。今日はこの辺で。」
「お帰りですか?」
「ええ。進捗や顔色を見に来ただけですからね。
モニカさん達が落ち着いたらまた来ます。
新しく作って欲しい物がありますし。」
「・・・新しい物ですか?」
モニカが恐る恐る聞き返す。
「ええ。
と言っても赤鉛筆ですけどね。」
「赤・・・鉛筆?
今は芯が黒ですよね。それを赤に?」
「はい。赤い鉛筆を作れないかという話をしようとしたんですけど・・・急いでいないので気が向いた時にでものんびり考えてください。」
「ええ。話はしてみます。」
モニカがゆっくりと頷くのだった。
「はい。では。お邪魔しました。」
「お邪魔しました。」
武雄達が去っていく。
・・
・
「赤い鉛筆・・・これは結構難題なのかも・・・」
モニカが一人考えるのだった。
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