第1083話 ベルテ一家の家。5(アリス達の話。)
喫茶店の中は女子会さながらの様相を呈していた。
「まったく・・・こうもタケオ様がのんびり帰って来るとは・・・」
アリスがため息をついていた。
「いや、アリス殿。タケオさんは結構キツキツで各局を回っていたのよ。
むしろ息抜きをいつしているのかわからないくらい。
もう1日くらいのんびりしていても良いのでは?というくらいね。
タケオさん、貴族なのに王都の貴族に全く挨拶に行ってないで王家のみ1、2回挨拶したくらいかな?
他の王都勤めの貴族に挨拶しなくて平気だったのかしら?」
「・・・そう言われるとタケオ様は出来る限り早く帰って来たのですね。」
「そうよ。アリス殿をタケオさんがどれだけ怖が・・・愛しているかという現れね。」
「・・・昨日はあんなに泣き言言っていたのに。」
「うっ・・・だって王家の相談役ってやっぱ不安なんですよ。
かなり本気で参っています。」
エリカが疲れた顔をしながら言う。
「あの~・・・アリス様。エリカ様。
キタミザト様はエルヴィス家の相談役で・・・エリカ様は王家の相談役。
エリカ様はキタミザト様と似たような立場なのですよね?」
フローラが聞いて来る。
「ええ。立場上は貴族の相談役よ。」
「あの・・・キタミザト様のあの喜々とした行動はエリカ様は真似しないのですか?」
「・・・あれを見習うかぁ・・・」
エリカが腕を組んで考える。
昨日の夜に知識以外を真似てみようと今日から観察に付いてきているが、初っ端からこれだものね・・・
何だろう。結構突き放している感があるように見える。
そう言えば前に「最初と経過と出来上がった物を見るだけ」と言っていたか・・・あれ?あの時も私はタケオさんに弱音を吐いていたような・・・
「それは無理ですね。」
アリスが否定する。
「ちょっと、アリス殿!?私が考えているのに、私の結論を取らないで。」
エリカが苦笑する。
「いや、あの行動力って結構付いて行くのも大変ですよ。
現地の事がわかっているエルヴィス家の文官達だから付いて行けているけど・・・まだ現地に根付いてもいない文官をエリカさんの発想の下で指揮するのはね・・・
文官達も領地内の事は資料でしか知らないのですから判断も出来ないでしょうし、動きようもないと思いますよ。」
アリスが人差し指を立てて説明する。
「・・・キタミザト様ってこの地の事を知っていて指揮をしているのですか?」
エンマが考えながら言ってくる。
「・・・それは・・・知らないんじゃないかなぁ?
タケオ様。色々本は読んでいるみたいですが、基本は『自分がこれがしたいから皆を動かしてしまえ』という感じですし・・・」
アリスが苦笑する。
「アリス様。それって良いのですか?」
アスセナが聞いてくる。
「んー・・・本当はいけないんでしょうけど・・・
エルヴィス領は革新的な事をしないと領民が飢えてしまいますから・・・
お爺さまも新しい知識が手に入るならとタケオ様を採用しましたからね。
この動きはエルヴィス家にとっては歓迎する事であって忌避する事ではありません。
それは武官達も文官達もわかってくれています。
だから新しい事に参加してくれているのです。
あ、そうだ。エリカさん、帝国での郷土料理は何か知っていますか?」
「え?・・・母国の料理かぁ・・・
ジャガイモ料理・・・特にスープが多かったかなぁ。
タケオさんの料理を食べてしまったから向こうの料理は食べれなくなったかも・・・
とにかく味がイマイチなんですよね。
不味いという訳でなく・・・味が足らないんです。」
「・・・足らない・・・ふむ・・・ここと同じような海なし地方なのですよね?」
「そうね。
だから塩が効いた物はあまりなかったかなぁ?
干物やベーコンの塩気を使って調節している感じになるかな?」
「ふむ・・・
エンマさん達は?」
「よ・・呼び捨てで構いません。」
「・・・エンマやフローラはどういった郷土料理が?」
「エルフの国だと・・・ハーブ系を良く使っていました。
ワインに漬けた肉とジャガイモや野菜とハーブを多めに入れて大きい葉で包んで蒸し焼きにするんです。
肉の臭みが取れて肉汁とワインがジャガイモに染み込んで美味しいですよ。」
「へぇ~・・・ワイン漬けのハーブ焼きという感じなんですね。」
「アリス殿。料理を聞いてどうしたの?」
「特産品祭り・・・エルヴィス伯爵領内の4町が各々で特産品を持ち寄ってここで皆に振る舞い、
認知度を上げるという祭りなのですけどね。」
「キタミザト様がやる気になりそうですね。」
フローラが言ってくる。
「そうね。
この企画がそもそもタケオ様の発想から来ているのですけどね。」
アリスが苦笑する。
エンマとフローラが「あ。奇抜なのはキタミザト様が原因なんだ」と苦笑を返す。
「で・・・どうも来場する人数が多くなりそうで各町の屋台。エルヴィス家の屋台では足りなくて。
街の酒場やレストランに声をかけたら出店要望がかなりの数が来ているのです。」
「良い事ですね。
それで?」
「どの店も料理が似ているのです。
なので数軒に新たな料理を教えられないかと模索しているのです。」
「タケオさんの料理を・・・ごめん。アリス殿睨まないで。」
エリカが「タケオさんの料理を教えれば良いじゃない?」と言う前にアリスが睨んでいた。
「コホンっ・・・タケオ様の料理は私達の政策と共に教える事になっています。
まだその時ではありません。」
アリスが言う。
「・・・そうよね。あの料理を一店舗に教えるとその店を贔屓にしたと言われるか。
教えるなら一気に教えるしかないというのも当然か。」
エリカが汗をかきながら頷いている。
「あの~・・・私達も食べに行って良いですか?」
エンマが聞いてくる。フローラも期待した目をアリスに向ける。
「・・・2人とも食べに参加ではなく、エルヴィス家の売り子さんをしませんか?
お小遣いは出しますよ?」
アリスが考えながら言ってくる。
「「え?」」
エンマとフローラが固まるのだった。
エリカは「お。これは何も言わないでこの流れに任せないとこっちにもくる話だね。」とだんまりを決め込む。
何も言わずに聞いているアスセナは「口出さなくて良かった」と思っている。
「おじちゃん。スープおかわり!」
「とても美味しいです。もう1つください。」
「うんうん。いっぱい食べるんですよ。」
「「はい!」」
ジルダとニルデは我関せず老夫婦のスープを堪能してるのだった。
ちなみにカサンドラは皆の話の輪には敢えて入らず。窓の外を見ながら「平和だ」とお茶を飲んでいるのだった。
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