第1081話 ベルテ一家の家。3(さてどうやって理解させるか。)
武雄と総監部の文官はのんびりと離れの喫茶店で軽食を取っていた。
ベルテ一家やアリス達は足らない洋服やら日用品やらを買いに行っている。
「野菜たっぷりのスープも良いですね。」
「塩気の効いたゴロ肉のワイン煮も良い味ですね。
しっかりと肉感はあって、でも噛むとじわりと肉汁が出てきて、でも軟らかいのでとろっと崩れる。
素晴らしい出来です。」
武雄と文官はウンウン頷きながら「こういった喫茶店もありだね」と堪能している。
一方の老夫婦はにこやかには出来ていなかった。
まぁ原因は武雄にあるのだが・・・
武雄はベルテ一家、ニルデとジルダ、アスセナのここにいる経緯を話していた。
「キタミザト様。先ほど聞いた話ですが・・・
本当ですか?」
「本当ですよ。
嘘をつくような内容ではないでしょう。
彼らは何か罪を犯した訳ではなく、気が付いたら奴隷になっていた。
特にエルフの娘2人は強姦されているんです。親の目の前でね。」
「そんな事が・・・まかり通るのですか?」
「・・・エルフという希少種であの美貌ですよ?
大枚を叩いても買いたいという輩が居てもおかしくないでしょうね。
そしてそんな考えを持つのは主に裏稼業の者が多いでしょう。
それに奴隷をあの国は推奨していますからね。」
「・・・そして子供2人がスラム街の孤児・・・
親も知らず捨てられていたとは・・・
何という国家なのですか。」
「そういう国家なのですよ。我が国の隣人は。
彼らを連れて来れたのはたまたま私が欲しがったから。
お互いに縁があっただけです。
この何十・・・何百倍もあの国では似たような事が起こって容認されています。」
「酷い・・・酷過ぎる・・・」
「うぅっ・・・」
老夫婦が嘆く。
「残念な事に事実です。
そして我々の隣には人間種が居ない国家があります。
そんな国家に負ければ我々・・・少なくとも幹部連中は全員この階層に行く事になるでしょうね。
領民達には今の数倍の重税ですかね。」
「・・・勝てるのでしょうか・・・」
「状況を正確に分析すれば現状では勝てるとは断言できません。
兵も将も知力と体力を尽くして引き分けに持ち込める程度でしょう。」
「そんな状況なのですね。」
「ええ。上層部は楽観はしていません。
どうやって引き分けにするか。
今は知力勝負ですよ。」
「ゆくゆくは兵士の徴用はするのですか?」
「残念ですが、したとして意味はないですね。
兵はただ揃えれば良いという物ではありません。
それに徴用するという事は領内の生産力が下がります。
なので何とか現状の人数で運用しないといけないとなっているのですよ。
ま。今は本格侵攻を向こうは考えていないようです。
今のうちに防御能力は高める手はずになっていますけどね。」
「上手く行っていただきたいです。」
「ええ。皆がそう思って努力しています。
と。防衛は我々の話ですから気になさらずに。
あの一家達の話です。」
「しっかりと見守らせて頂きます。
周囲の農家の方々にもそれとなく言っておいてください。」
「そうですね・・・上手く言葉は選ばないといけませんが・・・奴隷については現在も私と奴隷契約中です。
こればっかりは何か言われるかもしれませんね。」
「・・・解除をされないのですか?」
「契約上25年で解除する事になっています。
それにあの一家は問題ないとは思いますけど・・・今越境されると問題でしてね。
向こうに戦争の大義名分を与える可能性があるのです。
・・・誘拐したとね。」
「・・・誘拐?でも彼らはウィリプ連合国から・・・」
「それは私達が言っているだけで向こうからすれば事実アズパール王国に居るのです。
どうとでも歪曲する可能性があります。
なので、少なくとも引き分けに出来る対策が終わるまで越境させられません。
その為の首輪です。
その準備が終われば解除しても良いんですけど・・・もうあと何年かはして貰わないといけないでしょうね。」
「わかりました。
奴隷についても彼らの経緯についても周囲の農家連中に話してみます。」
「詳しくでなくそれとなくで良いですよ。
それに・・・私的には特にエンマとフローラが心配なんですよね。」
「はい・・・そうですね。
人間全てがそんな事をする者達だと認識させる訳にはいきません。
ですが・・・その・・・皆が皆私共と同じ考えになるのかと言われると・・・」
「・・・口さがない者は出るでしょうね。」
武雄と老夫婦が悩む。
「キタミザト様。圧力をかけますか?」
総監部の文官が聞いて来る。
「噂話に?それは無意味ですよ。
むしろ我々が圧力をかければ噂話はもっと過激になるでしょうね。
ある事ない事尾ひれが付くだけでなく、手足まで生えそうです。」
「新たな魔物ですね。」
「全くです。
噂話という魔物は厄介ですね。
本人が本当の事を言っても結局は自分達に都合の良い事しか耳に入らないという特殊な魔物でしたかね。
その癖に自分で情報の良し悪しを判断せずにあいつが言ったからと責任を取ったりしない・・・最悪の魔物です。
さて・・・どうするべきか・・・」
「一番は地域交流でしょうか?」
「結局はそこですね。
早々に集まりを招集して貰い、ベルテ一家の事を知ってもらうしかないですか・・・
『無害だよ』『一生懸命するんだよ』『貴方達の仕事を奪う訳ではないよ』・・・その辺の説明でしょうかね?」
「私も立ち会った方が良いでしょうか?」
「そうですね。
万が一は助けてくれて良いですが・・・居るだけで攻撃は回避出来るかもしれませんね。」
「わかりました。
ご夫婦。私も参加しますので予定がわかり次第教えてください。」
「はい。畏まりました。
キタミザト様。基本はエルヴィス家は出ないという事で話をして良いのですね?」
「ええ。余程の事がない限り・・・法に触れたら罰しますけどね。」
「わかりました。
私達が議論の主導をします。」
「ええ。お任せください。」
老夫婦が頷くのだった。
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