第1080話 ベルテ一家の家。2(中の確認。)
老夫婦が去ってから家の中を皆で確認していく。
「・・・貴方。これ。」
「農具がしっかりと手入れされていて綺麗な状態だな。放置されていた農地という訳ではないという事か。
うん。すぐにでも使えそうだ。
新しいのは今すぐに買わなくて良いかもしれないな。」
「そうね。」
ドナートとボーナが納屋の確認をしている。
「ボーナ!各部屋のベッドが新品同様だった!」
フローラが駆け込んでくる。
「あらあら。
それは良いわね。
エンマは?」
「ニルデとジルダとアスセナさんの部屋を見ている!
私は報告に来たの!どの部屋も問題ないよ!」
「ふむ・・・至れり尽くせりだな。」
「・・・キタミザト様と伯爵様の威光って凄いのね。」
「あ。食料を見に行かないと。」
「そうだな。次は台所や薪等々の生活品を確認しに行くか。」
「私は部屋の探索に行くから!」
ドナートとボーナを置いてフローラが走って戻って行く。
「・・・あの子新しい家にすぐに慣れそうね。」
「強くなったな。」
ドナートとボーナが連れ立って納屋を出て行くのだった。
「・・・この農地全てなのですか?」
武雄は総監部の文官と農地を見ていた。
100m×100mくらいある。見た感じが小学校の校庭程度の大きさだった。
武雄が想像していたよりも相当広かった。
「はい。
キタミザト家より年間金貨45枚でとなっています。」
「・・・年間金貨45枚か・・・
収入にすれば生活費を見て大体金貨100枚程度は売上げないと採算は取れなそうですね。」
「そうなりますね・・・
この地からの収入は毎年金貨110枚程度だったようです。」
「・・・エルヴィス家には迷惑をかけてしまいますね。
この金額にして頂いただけでもありがたいですが、ギリギリですかね・・・」
武雄が文官を見ずに呟く。
「総監部としては15年後に引き渡しの予定で契約書を作成しています。
明日にでもキタミザト様の手元に行く予定になっています。」
「そうですか・・・15年。
ここだけでなくベッドフォードさんの方も無理を言っていますからね。」
武雄は「文句を言うつもりはありません」と頷く。
「すみません。総監部も頑張ってはいるのですが。
15年で何とか諸々の採算が取れそうなのです。」
「いえ。ありがとうございます。
あとはこちらの収入を増やすだけです。
まずは米を研究所の喫茶店とエルヴィス家に売って身入りを少し改善させて、作物の改良も成果が出てくれば収支が少しは安定しますかね。」
「作物の改良は数年から数十年はかかると言われています。
経済局が改良を担当していますが、なかなか結果が出て来ないとの事です。」
「・・・農業は日々努力しないといけないですからね。
雨の日も風の日も暑い日も寒い日も絶え間なく面倒を見ないといけないのが農業です。
私は我慢強さがないですからね。
毎日の世話は出来ないでしょう。」
「キタミザト様なら卒なく熟しそうですが。」
「買い被りですよ。
農家は堕落は出来ません。
日々が戦いでしょう。
数年、数十年に渡って天候不順はないと言われていますが、それは年間で見た場合です。
実際は全く同じ気候であるはずがありません。
雨が多い年もあれば晴天が続いた年もあるはずです。
その都度によって水やりの頻度や肥料の量を変えて対応しているのが農家です。
ある意味農業はノウハウを蓄積していく業種なのかもしれませんね。」
「ノウハウの蓄積ですか・・・考えてもいませんでした。
どちらかと言えば経験を要する職業かと。」
「同じですよ。
例えば肥料を与える量とかで農家の方々が経験で行っている事を数字として書き起こして置くのです。
最初の数年は意味をなさないでしょうが、数十年と溜めて行けばその中に規則性が見出せるはずです。
もちろん数字の規則性だけでは農業は出来ません。
農家の人達の経験則と過去の規則性から次に必要な物をある程度用意が出来るというものです。」
「なるほど・・・我々の方の準備に使うのですね?」
「例えば今の気象環境から半年後の気象条件の規則性を割り出せれば、肥料をどのくらい用意しておけば良いのかの大まかな目安が出来るでしょう。
それによって極度に足らなくなったり、極度に余ったりする事がなく無駄がなくなるという物だと思います。」
「確かに。そうですね。
経済局と環境局にその辺の話をしておきます。」
「ええ。長期の目線が必要です。」
「はい。
ちなみに肥料の量の調整をするというのは資源管理部管轄の話に繋がるのではないですか?」
総監部の文官が聞いて来る。
「街の人口は増えていないのに事業が追加されましたからね。
これからある程度資源管理部の方に回さないといけないでしょう。
となると肥料の方から拝借するしかありません。」
「そうですね・・・何と言うか畑を増やそうとすれば資源管理部で扱う量が減り、資源管理部で扱う量を増やすと畑への肥料が減る・・・どちらも推し進めたいと思っている私達には難しい判断になります。」
「そうですね。
どちらもしたいですよね・・・とりあえず今の所は限りある物をしっかりと管理して行くしかないでしょう。
むしろ肥料を余分に作っても結果として過度に余らないという状況は良い事ですよ。」
「そうですね。
しっかりとした枠組みが必要ですね。
ますます各局が大変そうです。」
「・・・そこは頑張ってと他人事のように言っておきます。
すみませんと謝っても動き出してしまいましたしね。」
「はい。
あとは私達文官の仕事になります。
総監部としてはベッドフォードさんの方に注力でしょうか。
ベルテ一家の方は経済局辺りが担当すると思います。」
「それもどこかで話し合わないといけませんね。
・・・もっと簡単に事が運ぶと思っていましたよ。」
「世の中早々楽は出来ないという事でしょうか。
打ち合わせがあった際はよろしくお願いします。」
武雄の呟きに総監部の文官が苦笑しながら答えるのだった。
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