第1074話 エルヴィス邸に帰還。5(エリカの悩み。)
「そしてエリカ殿とカサンドラ殿じゃの。」
「お初にお目にかかります。
第3皇子一家の相談役をしているエリカ・キロスと申します。
こちらは護衛のカサンドラです。」
「カサンドラ・ハートと申します。」
エリカとカサンドラが会釈をする。
「うむ。ようこそお出で下さった。
タケオとアリスからいろいろ聞いてはいるが今はウィリアム殿下の下で働いていると伺っている。
新しい街造りは大変じゃろうの。」
「はい。
私が考えていたよりも新たに見聞きする事が多く。
試行錯誤する毎日です。」
「うむ。
わし達は5万人都市じゃが、殿下は王家の慣わしで3万人都市じゃったかの。」
「あの・・・実は・・・今は3万人都市なのですが、どうも領地の政策等で試算を重ねるたびに必要な人口と予測人口増加率が増えて行きまして・・・
最終的には上手く行った場合、5万人都市になるのではないかという結果になっております・・・」
エリカが申し訳なさそうに言ってくる。
「・・・それは・・・大丈夫かの?
・・・3万人都市の規模でも最初は難しいのじゃが・・・」
「はい。
ウィリアム殿下もアルマ殿下もレイラ殿下もそして各局長も『全部が上手く行くなんてあり得ないから大丈夫』と3万人都市でいろいろな計画をしているのですが・・・
上手く行った場合と最低限の成長の場合の開きが大きくなってきているのを危惧をしています。
本来はここで言うべきではないのですが、どうしても吐露したかったのです。
不安にさせて申し訳ありませんでした。」
エリカが頭を下げる。
「「・・・」」
エルヴィス爺さんとフレデリックが武雄を見ている。
一様に「何とかしてね」と訴えている。
武雄が「え?ここで私なの?エルヴィスさんがしてください」と反対意見を目線で語るが「あとよろしく」とエルヴィス爺さんが目線を逸らす。
「・・・ちなみですけど。
エルヴィス家は15年後に人口を8~9万人にする気で皆が動いています。」
武雄が顔色を変えずに言ってくる。
「え?・・・今は5万ですから・・・1.5倍に?」
エリカが驚き武雄を見る。
「ええ。服もソースも酒も米もその為の布石です。
これ失敗したら大変な事になるんですけど・・・私達は上手く行くと思って動いています。
ですけどだからといって今8万人規模の街に増築しようとは思っていませんよ。
必要になった時に増築させれば良いのです。
なので、とりあえず今のまま3万人都市計画で良いのではないですか?
5万人になったらなったで拡張すれば良いのでしょう?」
「タケオさん。そんな簡単に。」
「施政者が難しく考えることなんて今の構想段階ではありませんよ。
実施して問題があるなら修正をすれば良いのではないですか?
想定が5万人になったから5万人の街にする必要は決してありません。」
「そういう物なのでしょうか。」
「エリカさんは将来を考え過ぎです。
全く考えないのもいただけませんが、現状で3万人がいるわけではないでしょう?」
「はい。まだ1万とちょっとだと。」
「5万になるのは何年後ですか?
人が足らないなら必然的にどこかから人が集まりますよ。
今は目の前の人口3万人にする方法を考えるだけで良いんです。」
「そうなのでしょうか。」
「ええ。私はそう思います。
今は地固めの時期です。
試算で多く出ようが気にしてはダメですよ。
所詮は試算は試算。街の大きさなんて人が住み始めて、足らなくなったら要請が来ますからその時にすれば良い話です。」
「そうですか・・・」
エリカが考える。
「ちなみにエリカさん。想定が3万人から5万人になった原因はなんですか?」
アリスが聞いてくる。
「・・・それが皆わからないのです。
各々他の街や領地のこれまでの蓄積された政策を取り込んで上手く行くようにはしているのですが、各部署の試算を合計すると3万人都市計画が5万人規模になってしまうのです。
何度も試算を繰り返したのですが・・・想定の入荷量も出荷量も作物の出来高も実績を元に作った基準値に則っています。
わからないのです。」
エリカが疲れた顔をさせる。
「ん~・・・なんで3万人の都市試算で5万人都市の結果になるんでしょうか?」
アリスも考える。
「・・・エリカさん。
ウィリアム殿下の所の街は川辺に商業地区と行政地区、そして農業地区と工業地区がありましたよね?」
「はい。そうです。
今までにない奇抜な街です。」
「・・・それって確か街2つ分じゃなかったですか?」
「え?・・・街2つ分?・・・確かに縦長でしたが・・・」
エリカが眉間に皺を寄せて考え始める。
「どう試算したかわかりませんけど。
もしかして双方で3万人の試算していませんか?」
「タケオ様。どういう事ですか?」
スミスが聞いて来る。
「いえ。川辺に面した街の記録と、農地中心の街の記録。
どちらも3万人都市としての記録があった場合にそれを元に試算するとしますよね?」
「はい。試算とは過去の実績を元にした計算です。
当然だと思いますけど。」
「・・・別々に試算したら多くなるのでは?
いやそもそもなんで3万人の都市の試算をするのに2か所の3万人の街の実績を使えるのですか?
1万人を3万人にかさ上げしての試算はまぁ良いとして、6万人を3万人に下げて試算して大丈夫ですか?
物の単価も違うでしょうし、街の規模で物や人の流入量も違うはずですし・・・」
武雄が考えている。
「あ。3万人の川辺の街と3万人の農地中心の街。
扱う品が違うのなら来る商人の数も出て行く商人の数も違いそうですね。」
アリスが閃く。
「ええ。片や毎週商人が来るのと片や季節毎に大きく変わるのと・・・
それをそれぞれに当てはめて・・・上手く行くのでしょうか?
・・・実質的な流入量の計算としてはそれでも良いのかな?・・・でもそれって一定数が常に来ている所に季節ごとに増減されるという見方なのかな?
あれ?専売局の実績はクリフ殿下とニール殿下の所しかないのでは?
となると立地条件や取り扱う品も今度変わるからそもそもその実績をまるまる使って良いのか?
ということは・・・」
武雄が考え始める。
「タケオさん・・・つまりは元にしている実績が問題だと?」
「ええ。
私としては問題だと捉えるでしょうね。
確か・・・王都でウィリアム殿下の所とニール殿下の所で作る物は今後変わるような事を言っていましたよね。
となると販売品目が変わるのならそもそも専売局の方の大枠の実績は当てにならない。
もっと細分化した実績を用いないといけないのではないでしょうか?
そして街としての実績も小さい町を元にして考えた方が良いのではないですか?
いや。そもそもその実績を自分達で想像した方が早いのではないでしょうか。」
「・・・わかりました。
すぐに殿下達にその旨をお知らせします。」
エリカが頷く。
「ええ。そうですね。
もう一度根本を見直した方が良いでしょうね。」
「はい。そうお伝えします。」
エリカが頷くのだった。
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