第1065話 133日目 いろいろ始まっているらしい。(キャロルとローチ。)
と店内に入って来る一団があった。
「おや?皆さんお揃いで。」
サテラ製作所のキャロル達が入って来る。
「キャロルとローチ?
珍しい組み合わせですね。」
ラルフが言う。
「2人か?こっちこいよ。」
ベッドフォードが誘う。
「はは。ベッドフォードさんには敵いませんね。
ローチさん。平気ですか?」
「ええ。問題はありません。
というよりも皆さんにも聞きたいですし。」
キャロルとローチが隣の机をくっ付けて席に座る。
「あ!店員さん!こっち!
赤ワイン1本と肉煮込みとサラダとグラス2個で!」
テイラーが店員に大声で言っている。遠くで「は~い」と返事が返って来る。
「さて。このメンバーも凄い事ですね。」
キャロルが席の人達を見回す。
「ん~・・・ローの爺さんは酒屋組合の組合長。ラルフは仕立て屋組合副組合長。キャロルは鍛冶屋組合の組合長。モニカはハワース商会頭取。ローチは幌馬車製作工房の主人。テイラーは魔法具商店の店長。スズネは王立研究所の研究員でステノ工房の一員。俺は青果屋の主人だな。」
ベッドフォードも皆を見ながら言う。
「いやいや。ベッドフォードさんもウスターソースが順調のようですね。
本業よりも。」
「・・・言わないでくれ。」
再びベッドフォードがうな垂れる。
「ほほほ。キタミザト様が関わるとこうなるでしょうね。
キャロルさんの方はどうなのですか?
息子さんに後を継がせて新しく工房を作っているのでしょう?」
「ええ。
今後研究所で創造され、ステノ技研で試作された物を量産化する工房ですね。
キタミザト様にそう言われています。
ですが、その辺の研究所関係は2年後とかでしょうね。
今はスズネさんのミシンの製作ですね。」
「その節はお世話になりました。」
鈴音が頭を下げる。
「いえいえ。ああいった物は初めてですが、あの足踏みで動く機構。なかなかに面白い。
今後色んな物を作っていこうという意欲が湧きますね。
おっと。もちろんあの機構を使うならスズネさんには相談しますからね。」
「はい。たぶん私と武雄さんの2名の承認が必要です。
あと売り先は厳選して貰います。
まだこの技術を他領や他国に渡す訳にはいきませんので、少し時間をください。」
鈴音が真面目顔で言ってくる。
「承知しております。工房の作業員達もその覚悟でやっておりますのでご安心ください。
と。ラルフさん。ミシンはどうですか?」
「皆が慣れる為の慣熟作業中です。
いや。凄い物ですね。
2台を入れましたが、今の段階でもトレンチコートの生産力が上がりましたよ。
資金があればもう10個は買いたいですが、売り上げがもう少し出てからの購入ですかね。」
「なるほど。わかりました。材料の手配はしておきます。
とスズネさん。ミシンの改良は着手して良いのでしょうか?」
「はい。私にもどう改造したか教えて頂ければ問題無いです。
あ。改造と言えば私もミシンでしたい事があるのです。」
「ほぉ。どんな事でしょうか?」
キャロルの目が細まり工房の主人の物になる。
「ラルフさんの作業を見ていて思ったのですけど、今は直線しか縫えないのです。
これをジグザグで縫えないでしょうか。」
「ほぉ。」
ラルフがその言葉を聞いて目を細める。
「ふむ。ジグザグですか・・・
ラルフさん。どうでしょうか?」
キャロルがラルフに聞いて来る。
「いや・・・ジグザグは良い考えですね。
縫製の際の強度が増します。
手縫いだと時間がかかる為、箇所を限定している方法ですね。
それをミシンに組み込んで短時間で出来るならかなり魅力的です。」
ラルフが頷く。
「ふむ・・・
ならこちらの方の手直しと同時にジグザグと直線の2種類が出来る方法を考えますか。
スズネさん。考えはありますか?」
「ぼやーっとした物しか。」
キャロルに聞かれて鈴音は苦笑している。
「ふむ・・・一度その辺はメモ書きで良いので持ってきてください。
こちらで考えましょう。」
「はい!ありがとうございます!」
鈴音が頭を下げる。
「ふふ。楽しみですね。」
ラルフが楽しそうに頷くのだった。
「いや~。あっちはミシンで楽しそうね。
で。ローチの方はどうしたの?」
「王都でキタミザト様とスミス様がいらして馬車の改造と船を作る事になったんだ。」
「また唐突に始まってる。」
ローチの言葉にモニカが苦笑する。
「で、皆はどういった事をやっているのかと思って・・・
何か準備する物はあるのかとか。」
「あ。ローチさん。ベアリングは出来ています。
いつでも取付して良いのですけど。」
テイラーが言ってくる。
「え?もう出来ているの?」
「はい。試作は終わっています。
一応まだ2個なので前輪か後輪のどちらかに荷台と取り付けてから軸に入れて様子を見る形になると思います。」
「そ・・・そうか。もうそちらの準備は出来ているのか・・・」
ローチが悩む。
「あとはキタミザト様が戻ってから概要を打ち合わせしてからの実施なのでもう少し待ってください。」
「では・・・廃棄される物を用意しておきます。」
「はい。試験なので壊れても良い物をお願いします。」
テイラーが楽しそうに頷くのだった。
「あぁ・・・どの工房も大変そうだなぁ。」
「ほほほ。今の一番はベッドフォードですね。」
「そうだなぁ・・・」
「不安があるなら総監部の方にも相談するしかないでしょう。ほほほ。」
「あぁ。相談ばかりだ。」
「それはしょうがないですよ。」
ベッドフォードとローがチビチビ飲みながら仲間を見守るのだった。
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