第1062話 131日目 出立。3(しばしの別れ。)
早朝の城門前。
「タケオさん。お待たせしました。」
「お久しぶりです。キタミザト殿。」
エリカとカサンドラが城門にやって来る。
会った時と同じ旅の格好で1頭ずつ馬を引いていた。
2人とも小さなリュックをしょっていた。
「・・・ドレスはどうしましたか?」
武雄が身軽すぎる2人を見て聞いて来る。
「あ。『大袋 Ver.1002』を買ったので問題ないですよ。」
「大袋・・・一般で買うと金貨2000枚くらいするという?」
「ええ。
1000番台以降は既存の大袋より見た目の底を浅くし間口を狭くした結果、材料費と人件費等々が少なくなったらしいのです。
なので市場価格は金貨1500枚になるそうです。
ですが私は王家割引をして貰って2個で金貨1000枚です。
これにドレスも洋服もいろいろ詰めてきました♪」
「・・・そうですか。」
エリカの思いっきり良い笑顔を見て武雄は微妙な顔をさせる。
武雄は「金持ちだなぁ」というのと「王家経由で買ってみようかな?」と思っていたりする。
「さて。これで揃いましたね。
所長。お気をつけて。」
マイヤーが言ってくる。
「私達よりもマイヤーさん達の家族の引っ越しの方が私は心配ですけどね。」
「はは。確かに。
今引っ越しの段取りをしています。
まぁどちらにしても2回に分けて向かう予定になっています。」
「その辺は任せます。
ジッロさんの事よろしく。」
「ええ。お任せください。」
マイヤーが頷く。
「所長。私の家族とケードとコーエンは卒業式後に2組目と一緒に移動の予定です。」
トレーシーが言ってくる。
「ええ。2人の部屋はアーキンさん達にお願いして確保しています。
身一つで来させなさい。
あと。トレーシーさんも久しぶりの長旅になるでしょうから気を付けてください。」
「はい。
・・・あと・・・所長。美味しい物はありますか?」
「着いたら何か食べたいですか?
何だったら立食形式で何か準備しておきますか?」
「ええ。妻に美味しい物があると言ってしまっていまして・・・」
「ふむ。ご家族の満足度を高めたいと・・・研究所の1階の喫茶店で懇親会をしてみますか。
その時は私の婚約者から妻になった者もいますけど・・・平気ですか?」
「ご無礼の無いように教育しておきます!」
「ふふ。平気ですよ。
わかりました。懇親会は企画しておきます。
食べられない物はありますか?」
「何でも食べられます。」
「わかりました。
各ご家族には懇親会がある事を言っておいてください。」
「はい。畏まりました。」
トレーシーが頭を下げる。
「所長。こちらを。」
アンダーセンが一冊のノートを出してくる。
「これは?」
「今回の出張で何も抜けが無い報告書になります。
元の資料はマイヤー殿に返却しましたので資料も副本もありません。
綺麗な状態になっています。」
「わかりました。
アンダーセンさん達も気を付けて。」
「はっ!一家を連れて向かわせて貰います。」
「・・・いろいろ企画書が滞っていますからね。
旅をしながら皆で考えてください。」
「はは・・・わかりました。」
アンダーセンが苦笑する。
「では。所長。出立します。」
アーキンが武雄に言ってくる。
「わかりました。」
武雄が騎乗する。
「・・・出立します!」
ブルックの号令で武雄達は王都からエルヴィス領に向かうのだった。
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王都の城壁上でと兵士に護衛された一団が見送っていた。
「まぁた何も言わずに行っちゃったわ。」
「次に会う時はタケオさんが王都に報告に来た時よね。」
「そうだね。
で?アルマ。レイラ。僕に内緒で何かしているでしょう。」
ウィリアムがアルマとレイラを見る。
「・・・どれ?」
「え?何個もあるの?」
レイラが少し考えて聞き返すのでウィリアムが驚く。
「ウィリアム。エリカさんの事?」
「あぁ。何かしているでしょ?」
「当然しているわよ。
ま。あとはエリカさんが決めることだけど。」
「ふむ・・・まぁ良いか。」
ウィリアムが諦める。
「ん?ウィリアム。諦めが早いわね。」
アルマが言ってくる。
「そうかな?
何があるかはわからないけど、エリカさんが満足すれば良いよ。」
「・・・ちなみに今回はウィリアムからエリカさんを遠ざける意味合いもあるからね!」
「ここでエリカさんに手を出そう物なら心労で流産しそうだしね!」
「うん・・・わかっています。
そこまで女性関係は信用ないの?」
「「ない!」」
アルマとレイラの即答にウィリアムがガックリする。
「真面目な話の方だと3伯爵に対しての話をして来て貰う予定ね。」
「僕抜きで?」
「その前段階ね~。」
「子供が産まれるけど、そのお祝いの方法だとか献上品の品物の話や移動前に会合をする事になるだろうけどその場所とか。
大まかに打ち合わせをお願いしたの。」
アルマとレイラが楽しそうに言う。
「確かに3伯爵が集まるからなぁ。
貴族同士で話さないといけない事もあるか。」
ウィリアムが腕を組んで考える。
「文官同士ならそれはそれで話が進むだろうけど、領主達が直接話せる機会を逃す訳にはいかないと思うんだよね。」
「そ。だから私達の名代のエリカさんなら何とか話せると思うんだよね。
それにこっちの事情を知るエルヴィス伯爵やタケオさんが居れば特に問題にはしないだろうし。
ウィリアムの仕事はその報告確認と最終的に指示をする事ね。」
「そこはわかった。
他に何をさせるの?」
「タケオさんの行動監視かな?」
「まぁ言い方は悪いけどそうだね。」
「タケオさん?」
「うん・・・いろいろこっちに政策を投げてくれるからありがたくはあるんだけど・・・
どうもタケオさん私達に黙っている事がある気がするんだよね。」
レイラが考えながら言ってくる。
「レイラの勘かい?」
「うん。タケオさんが考えている事全てを私達に言わないのはしょうがないのだけど・・・
エルヴィス領が今後どうなるのか。
たぶんタケオさんが何かし始めているだろうからそれの確認かな。
それを見聞きして私達も準備はしておかないといけないと思ってね。」
「そうだよね。
今の所、第3皇子一家には街の概要と卸売市場とかの大枠の相談をさせて貰っただけだもんね。
エルヴィス領では作物関係とか工房関係とか生産力に直結しそうな事を始めるし、その中で私達の所にも出来ることは真似たいと思うんだよね。」
「はぁ・・・アルマ。レイラ。僕達はまずあの地域の街や村の人々が一定の生活が出来るように穀物の生産高を安定させる事や各工房が根付くようにしないといけないと思うよ?
将来の事も大事だけど今は僕達の領民が安定して過ごせる場を作る事こそが最優先事項じゃないかな?」
「「それはわかっているんだけどね~。」」
アルマとレイラが「隣の発展具合が気になって」と苦笑するのだった。
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