第1053話 担当局長達との話し合い。3(エルヴィス家の発展について。)
会議の途中。
「キタミザト殿のおかげで2王家と王都の収入が増えそうですね。」
「そこに加えてエルヴィス家はキタミザト殿の発案でいろいろ収入が増えそうで少し羨ましくはありますね。」
ふと。誰かが話している。
「・・・羨ましいですか・・・」
武雄が目線を落としてボソッと呟く。
「ん?キタミザト殿。違うのですか?」
財政局長が聞いて来ると皆が武雄を見る。
「まぁ他領や中央から見たらそうなんでしょうけどね。」
武雄が何とも言えない微妙な顔つきをさせて言ってくる。
「正直な話、今回のウィリプ連合国との戦争にエルヴィス家から派兵をされなくて良かったと思います。」
「そうなのですかな?」
クラークが聞いて来る。
「ええ。
そもそもの話をすれば、自領での穀物生産高は王都の壁を除いた全地方領主中最低。
自給率・・・つまりは領内の小麦・ライ麦の生産量でどのくらいの領民が生活できるかを試算して貰ったら80%行かない程度だそうです。
こんな状態で兵士の増強を強行でもしようものならさらに自給率が悪化するのは目に見えています。
正直に言えば1000名規模の兵士の維持だってギリギリなのです。
領主としては現状の兵士数を増やすよりもまずは領内の穀倉地帯を広げる政策が急務となっているのです。
だからと言って領地の北側では小麦の穀倉地帯化は望めない。
子供を産めや増やせと言った所で、5年後に間に合う訳もなく。
そして今後の数年は西側の工房が活性化するのでドワーフの国からの通行税も下がる予想です。」
武雄が悲観する事を並べる。
「ふむ・・・確かに考えられますね。
その・・・自給率というので足らない分を賄うのは?」
総務局長が聞いて来る。
「テンプル伯爵領からの購入です。
通行税が全部そこにつぎ込まれているそうです。」
「・・・そうですか・・・買うしかないのですね。」
「ええ。
なのでエルヴィス領の文官達は常にどうやって足らない分を補うのかを考えています。
私の発案はその一端です。他領に売れる物が出始めましたが売上高的に見ればまだ微々たる物でしょうね。
何とかして補填して行かないといけないのが現状です。
それに西側で戦争が起きている間は魔王国側の関は孤立無援の状態ですしね。
どうやって10000名相当の魔物を5500名・・・いや初期で1000名か3000名で凌ぐかですかね。」
武雄が言ってくる。
「孤立無援ではないですよ。王都からも行かせられます。」
軍務局長が言ってくる。
「足手まといな増員はいりません。
それに単純に増員されたからと言って勝てるとも限りませんしね。
魔王国側が負ければ魔王国の兵士は王都までなだれ込むでしょう。
その時に戦える兵は多く残しておいた方が良い。
それに我々も膠着状態に持ち込めれば西側の戦争が終わり次第、後詰で来てくれるのはわかっていますからね。
何とか落とされない方法を考えないといけないとは思っているのですが・・・」
武雄が難しい顔をさせる。
「出来そうですか?」
オルコットが聞いて来る。
「そうですねぇ・・・あ。関への補助金ありがとうございました。」
武雄が頭を下げる。
「いや。微々たる額というのは皆もわかっているのです。
ですが、あれぐらいしか出せませんでした。」
財政局長が難しい顔をさせる。
「いや。あるのとないのとでは大違いですよ。
おかげでどれだけ兵士達の溜飲が下げられたか。」
武雄が疲れた顔をさせる。
「・・・やはり現場では不満が?」
軍務局長が聞いて来る。
「こうも西と東で国境に面しているとどうしても他方が優遇されていると見る傾向は下に行けば行くほどあると言うのはしょうがない事です。
それに今回の関の増強予算だって・・・何も知らない人が見たら魔王国方面の関だけへの補助金です。
クラーク議長。西側の貴族から文句は出なかったのですか?」
「・・・領主からの正式な抗議はないですな。」
「・・・下に付いている文官からは棘のある報告書はありましたがね。」
クラークとオルコットが目線を下げて言う。
「ま。地方は他方や王都が優遇されていると喚き、王都はそんな事ないと騒ぐのは当然でしょうけどね。」
武雄がため息を付く。
「ええ。・・・こればっかりは昔からですからね。
王都は方針決定の最上位機関で実権があるのは当然ですから。」
財政局長がため息を付く。
「地方は視野が狭く、王都は現場の苦しみをわからない。
昔から揶揄される事ですよ。」
総監局長も苦笑する。
「強ち間違ってもいないですけどね。
各領地持ち貴族はその領地を治め、対外勢力からの侵攻を食い止めるのがお仕事で、王都は全体を見ながら、各領の管理と国としての指針を打ち出し各国との外交をするのが仕事です。」
総務局長が言ってくる。
「魔法師専門学院は全土から来てくれていますから兵士の間での地方、王都の意識の違いは文官の比ではないですかね。
王立学院は貴族の男子は来ますが、女性は王家か王都に居る貴族しかきてくれませんし、民達で来てくれるのは王都の豪族や商家くらいでしょう。
本当なら地方の貴族の女性や豪商も来て欲しいとは思うのですけどね。」
人事局長が言う。
「あ。そう言えば前にキタミザト殿が言っていた、『親御さんが授業料が払えなくて入学を諦めるような者』の支援策ですが…」
クラークが武雄に言ってくる。
「本気で考えていたのですね。」
「もちろんです。
で、検討結果ですが、各地方貴族から1名の推薦で許可しようかと。
費用については王都が半額持ちます。
残りの金貨45枚は学院を卒業後、月々の返済をして頂ければと思っています。」
クラークが言ってくる。
「ふむ・・・それはいつからですか?」
「早ければ来年からです。
今人事局で各貴族に渡す資料の作成をしています。」
人事局長が言う。
「優秀な人材が育成されれば良いのですが・・・
こればかりは行く末を見ないといけないでしょう。」
オルコットがため息を付くのだった。
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