第1039話 届け物。(アンの試練と鈴音の試練。)
アウクソーが数曲弾き終わる。
パチパチパチパチ
アウクソーが軽く会釈をする。
「ふむ・・・良い音だな。」
クリフが頷く。
「音楽というのね。
で。これの工房をニールの所に。
そしてアンとクリナも手習いをさせたいと。」
ローナが頷く。
「アウクソー・・・私もするの?」
「アン。クリナがしたいと言っているのです。
王城でしてみてはいかがですか?
カリスからもエルヴィス領に居るタケオの下に譜面を送らないといけないとの事でこちらの進捗も報告した方が良いでしょう。」
「・・・私器用じゃないよ~・・・
アウクソー大丈夫かな?」
「やったことないのですからゆっくりとしていくしかないですよ。
それにお互いがどこまで出来るのかは手紙をやりとりして確認しておく必要がありますからね。
私達で何か重奏が出来るようにしておきましょう。」
「・・・わかりました。」
アンが不承不承頷くのだった。
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エルヴィス家の騎士団詰め所の横にある専用の訓練場にて。
「せいっ!」
「!!・・・せやっ!」
アリスとジーナが模擬戦をしていた。
「ふむ・・・2人とも良い感じね。」
コノハが今日はじゃがバターを食べながら観戦していた。
「きゅ。」
「ニャ。」
クゥもじゃがバターをタマはジャガイモをバターで煮込み少し砂糖を入れて貰った甘いジャガイモの煮つけを堪能しながら観戦している。
「あ。居た居た。」
と小道から鈴音がやって来る。
「ん?あ。スズネ。何しに来たの?」
コノハが顔を向けながら言う。
「頼まれていたジーナさんの体操服の追加と・・・スポーツブラの試供品。」
「あ。出来たんだ。」
コノハが聞いてくる。
「もう・・・私もこの街では新人なんだから贔屓の店なんてないのに。」
「でも出来たんでしょ?」
「ラルフさんの所の仕立て屋の女性陣にお願いしました。
向こうも『女性用の何かを作れないか』の議題はあったみたいで引き受けてくれましたよ。」
「見栄え用のは数多くあるみたいですが、運動用のブラはこの世界にはまだないみたいですね。
私もむかーし使っていましたから構造はなんとなくわかります。
いや~私も成長したんですね。」
「スズネ。」
「・・・すみません。こっちにきて初めて自分の体をマジマジと見て考えさせられました。
でも使っていたのは体育の時だけですし・・・間違ってはいませんよ?・・・
それにしてもスポーツブラは工房で働くのに便利そうなんですよね。」
「ま。動くしね。
サイズは?」
「一応ジーナさん用に3種類を作って貰いました・・・まぁ見た目でとりあえずですね。
ゆくゆくはアンダーのサイズで4種類、トップのサイズで3種類ずつまで用意するようですけど・・・サイズは合わせてから買って欲しいとも言われています。
私も試着してきましたが、着心地はまぁ悪くはなかったですね。」
「なるほど・・・とりあえずジーナに明日付けて貰いましょうかね。」
コノハが頷く。
「アリスさんは・・・」
「アリスを見て判断してみたら?」
「くっ・・・あのサイズはまだ出来ていません。」
鈴音が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「それも出来たらアリスに試着して貰う事にしましょう。」
コノハが頷く。
「で。スズネ。運動していく?」
コノハが拳の親指を立ててアリス達に向け鈴音を誘う。
「私は非戦闘員です。
武道もした事ないですよ。」
「あれ柔道は?体育でしたんじゃないの?」
「それは男子だけですよ。
私はバレーとかバスケットをしていました。
それに私は運動出来ませんもん。」
「ウンチだったのね。」
「変な略し方しないでください。
それに運動音痴でもありません。
それなりには走れますし、動けますよ。
ただ秀でた成績でなかっただけです。」
「そう・・・で?やる?」
「やりません。
私がしたら怪我どころか命の危機になってしまいますからね。」
「ならないわよ。
・・・たぶん。」
「・・・精霊がたぶんって言わないでください。
それに私はこれでも忙しいんですよ。」
「ん?
タケオから頼まれたミシンとベアリングと拳銃は終わったんでしょう?」
「今は槍の柄を研究しています。」
「??・・・スズネ。何をしているの?」
「木に黒スライムの体液を注入して焼いてみようかと。」
「・・・木材の樹脂を使っての硬化って簡単に考えても真空技術がないと出来ないんじゃ・・・」
コノハが目を見張る。
「あ。やっぱり真空ポンプが必要なんですね。
でもポンプは難しそうなので気圧が低く出来る装置の原理を考えているんですよ。」
「・・・テトが居る所で実験はしなさいよ?」
「わかっています。
これが出来ればニオが使っていた槍の柄を再現出来るかもしれませんしね。
工房の皆がやる気なんですよ。」
「そうかぁ。
スズネ。漆はあるの?」
「漆は未発見ですね。
ワニスはありますけど・・・槍に使えるかはまだ実験していないですね。」
「そぉ。気を付けてね?」
「はい。
では帰ります。」
と鈴音が帰って行く。
「・・・加圧注入技術かぁ・・・
まぁ表面から10㎜程度まで注入出来れば問題ないだろうし十分な成果は出そうだよね・・・
それよりも焼く方が大変そうだけど・・・
スズネ・・・タケオよりいろいろ作りそうね。」
コノハが鈴音の後姿を見ながら呟く。
「あれ?・・・あれはスズネ様ですか?」
「本当だ。来ているのもわからなかったですね。」
ジーナとアリスが戻って来る。
「うん。ジーナ用の下着が出来たって。」
「私用ですか?」
「うんうん。試作中らしいけどね。
ほらコートを作ってくれた所にスズネが依頼してくれたの。」
「・・・うん?これは・・・」
ジーナがスポーツブラを目の前に広げてジト目をする。
「スポーツブラよ!
動いた際も胸が動くのを抑制してくれるの!
これがあれば乳に振り回されないわ!痛くないのよ!」
コノハが力説してくる。
「コノハ。私のは?」
アリスが「良いなぁ」とジーナのスポーツブラを見ながらコノハに聞く。
「残念。開発中。」
コノハの言葉にアリスは「催促するべきなのかな?」と思うのだった。
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