第1038話 届け物。(第1皇子一家の政策検討。)
第1皇子一家の屋敷の庭。
皇子妃と娘がのんびりとお茶をしている。
アウクソーも席に座りのんびりです。
「セリーナお母様。大丈夫なのですか?」
アンがセリーナに聞いて来る。
「至って元気ね。
まぁ少し気持ちが悪い時があるけど・・・こればっかりは妊娠中はしょうがないわね。」
セリーナが笑っている。
「子供が出来るって辛いのですね。」
「・・・辛いからこそ生まれた時の感動があるのよ。」
アンの呟きにローナがしみじみと言う。
「んー・・・わかりません。」
「今わかったら怖いわよ。」
「だね~。
とりあえずアンは勉強に料理に精を出すしかないわ。」
「はい。」
と執事数名がこちらに向かってくるのが見える。
「殿下方。失礼いたします。
第2皇子ご一家より荷物が届いております。」
「あら。珍しい。
客間に?」
「はい。
クリフ殿下とクラリッサ殿下もお呼びしております。」
「わかったわ。
セリーナ。アン。アウクソー。行きましょうか。」
「ええ。」
「「はい。」」
4人は席を立つのだった。
・・
・
「ふむ・・・向こうでは着々と新しい食材を街中に浸透中か。
こっちはやっとウスターソースの販路の確定と本格的な量産が始まる所なんだが・・・向こうの方が早いのかもしれないな。」
クリフがニールからの手紙を読んで感想を述べる。
「どこもやる事いっぱいね。」
「本当。タケオさんはありがたいわ。
新しい事なんて早々に出来ないからね。
いい刺激になるわ。」
ローナとセリーナが頷く。
「・・・で。クラリッサの方はどうなの?」
「はい!今日問屋からライ麦の最終仕入価格と仕入れ量の報告がありました。
第2皇子一家への送付分も合わせた数量と価格はこちらになっています。」
クラリッサがクリフの前に報告書を置く。
「ふむ・・・なるほど・・・
ローナ。セリーナ。」
クリフが席を立ちローナとセリーナの前に置く。
「どれどれ・・・ふむふむ・・・」
「・・・案外安くはないわね。」
ローナが持ち上げ、セリーナも横から見ている。
「はい・・・
確かに小麦よりかは安いのですが・・・
大量に買ってこの値段なのです。」
クラリッサが難しい顔をさせる。
「ふむ・・・私はこの値段でも致し方ないと思う。
うちの領地で作付けする種類でもないだろう。」
「そうね。
ライ麦に当てる畑があるなら小麦に回したいもんね。」
「ええ。
小麦の生産高を増やしたいのはどこも一緒だし。
クラリッサ。これは今後もこの値段にしてくれるの?」
「はい。
エルヴィス家のスミスが王城でしたような年数の期限は設けられませんでした。
こちら側としては良い事なのですが・・・殿下方どういたしましょうか。」
「・・・クラリッサ。増産依頼はどうした?」
「他領ですので問屋を通しての依頼はしたのですが・・・」
クラリッサが首を振る。
「そうか。」
クリフが頷く。
「まぁ・・・いきなり今まで売れなかったライ麦を増産してくれと言われてもしないわよね。」
「そうね。
想定内だけど・・・後手に回っているわね。
クラリッサの予想はどうだったかしら?」
ローナとセリーナが「しょうがない」と言ってくる。
「はい。
まず王都周辺のライ麦生産量は増えると考えています。
主な納入先は王都へとは思いますが・・・増産しても5割増しといった所と想定します。」
「妥当だろうな。
来年以降の私達の分という所だな。」
「はい。
次にエルヴィス領ですが・・・目下新種の酒の製造に入っている為、増産計画を実施中と王都から取り寄せた資料に記載がありました。
今期の税収入の予測量自体は前年同様ですが・・・生産量だけを見れば既に5割増しと思われます。
またゴドウィン伯爵家と第3皇子一家向けのライ麦を増産する運びとなるので実質今期の倍、前年に比べ3倍は増産をすると私は結論付けました。」
「・・・3倍?」
「3倍って・・・いくら生産量が少ないと言っても村を2つか3つが作る程度の量はあってしかるべきよ?」
「はい。エルヴィス家の国力は低いというのは資料から知っています。
ですが、ライ麦の領外への流通が少なくても彼らは酒の方に納入出来るので、2領地に納める最大量と酒の最大量を足した場合を想定し、この量になっていると考えました。」
「・・・なら最低だとどのくらいだと考える?」
クリフがクラリッサに聞く。
「私の中ではすべて最低だと・・・前年の2倍だと思われます。」
「それでも2倍・・・
農家が増産自体に納得すると言うなら相当エルヴィス家は力を入れているという事ね。」
「はい。
領主と領民が一体になりライ麦の生産が図られていると考えました。」
「エルヴィス領は凄い事になっているみたいだな。」
クラリッサの予想を聞いてクリフが頷く。
「羨ましいわね。
ま。その分文官達は大変そうだけど。」
「そうね。
ん?アン。何を固まっているの?」
セリーナが声をかける。
親達がライ麦の話で盛り上がっている最中アンはアウクソーと2つの箱を見て固まっていた。
「アン。開けないの?」
ローナも声をかける。
「いえ。クリナから物を貰ったの初めてなんです。」
アンはそう言いながらも手紙に目線を固定させている。
アンとクリナは1歳違い。アンは表立った時以外はクリナに「お姉様」呼びはしていなかった。
「・・・アン。開けますか?」
アウクソーが聞いて来る。
「そ・・・そうですね。
クリナからタケオさんからのお土産をこっちに送ったとあるのでそれでしょうね。」
アンが顔を上げてアウクソーを見る。
「?・・・アン。何が書かれているのですか?」
アウクソーが聞いて来る。
「いえ・・・中身がヴァイオリンとい」
「アン!中はヴァイオリンです!」
アンが言い終わる前にアウクソーが箱を開け中身を取り出す。
「アウクソー・・・行動が早いです。
えーっと・・・調整が必要だけどすぐに使え」
「すぐに調律しますね!」
アウクソーがヴァイオリンを持って部屋の隅で調律を始める。
「・・・ちょっと、アウクソーが初めて見る顔をさせているんだけど!?」
「・・・ねぇ。なにあの満面の笑みは。」
「ふふ。タケオ。またやってくれたんだな。」
ローナとセリーナが呟きクリフも楽しそうな顔をさせる。
第1皇子一家もさきの2王家と同じような楽しいお茶会が始まるのだった。
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