第1036話 王城見学。(そもそもの話。)
「「「ジョブローテーション?」」」
皆が武雄の説明を首を傾げながら聞いていた。
「ええ。
概要としては、対象者の能力開発を行うことを目的として、多くの業務を経験させるために一人を定期的に異動させる仕組みとなるでしょうね。」
武雄が指を立てて皆に説明する。
「つ・・・つまりは?」
エンマが聞いてくる。
「つまり?・・・良い事としては各部署を経験する事で様々な視点で仕事を行う事が出来るようになりますし、自分の適性を見極める事が出来るという所にあります。
なので、1つ目は自分がやりたい事と出来る事がわかるので自分に合った仕事が出来る。
2つ目は国の業務を大まかに理解し他部署の考えを理解した上で仕事をするので仕事の幅があり、他部署を巻き込んだ際の実現性が高い立案が出来る可能性が高い。
3つ目は他部署に知り合いが居るので仕事が円滑に出来る可能性がある。
これは幹部達・・・特に部局をまたぐ仕事をする人に取っては武器になりますね。」
「悪い事はどんな事でしょうか。」
アンダーセンが聞いて来る。
「短期間の異動を繰り返すので技能の習得が不利になります。
第1騎士団に入って王都守備隊を目指していたのに『幹部になるのに必要だから』と言われ数年ごとに警備局や軍務局で事務を教えられて・・・その間に周りの自分より下だと思っていた同期はどんどん力を付けていく。
なのに自分はまだ知識も経験も足らないので下っ端のままとなります。
これだと本人のやる気が削がれるでしょうね。
なので個人の意思の強さやジョブローテーションを通しての未来の展望が描けないとただ単に時間を浪費させるだけと本人は感じる物になってしまいます。」
武雄が難しい顔をさせながら言う。
「ええ。
それは確かに良し悪しがありますね。
それで所長。ジッロ殿にそのジョブローテーションをさせる事に同意したのはなぜですか?」
「ジッロさんは別に1流の兵士になる必要がないからですね。
警備局に入れたいと思いましたが、それはただ単に旅をする上での防犯上の事を覚えさせたいと思ったからです。
なので固執する事ではありませんでした。
それにいろいろな仕事を体験するのも先々にとっては良いでしょう。
もしかしたら意外な所にジッロさんの才能が使えるかもしれませんからね。」
「所長。先の5局ですけど・・・やる気なのですよね?」
「・・・人事局、軍務局、外交局、総監局が特にやる気でしたね。
警備局は『常に人手不足なんです!いつでも来てください!』と泣いて喜んでいましたよ。」
「・・・まぁ警備局は良いとして・・・4局は何故なのですか?
確か・・・王都守備隊に入れた3名を見ながら決めるのではなかったのですか?」
「当初は・・・でしょうね。
たぶん今回連れてきた3名が発端でしょうか。」
「あの3名がですか?」
「ええ。話の内容は長いので言いたくありませんが・・・簡単に言えば彼らが思うより経歴や性格が良かったという事でしょう。
なので先々を見据えると異種族雇用がある程度促進されるだろうとその4局は考え、自分達も採用に向けて異種族の教育体験をしておきたいと考えたというところですね。」
「教える方の体験ですか?」
「だと私は考えました。
私からすれば獣人であろうがエルフであろうが人間であろうが仕事を与えて出来るか出来ないか、出来た成果を確認し評価するだけだと思うので『何を言っているんだろう』程度にしか思いませんが。」
「それは所長だけだと思いますが・・・」
「多少外見や寿命が違うだけで思考形態とかは同じだと思うんですけどね。
何でそこまで異種族という響きに惑わされるのか・・・まぁこれは長い年月培った事だから変えようもないんでしょうけどね。」
「?・・・所長。今変な事言いませんでしたか?」
「いえ?言っていませんよ。
私は思った事を言っているだけです。
たかだか種族が違うだけで差別するというのがおかしいと言っているだけです。
出会いはこんなでしたが、気の良いベルテ一家に会えましたし、仕事もしてくれるようですし、エルフだとかあまり意味はありませんね。」
「「・・・」」
「さて。
4局が今回のジョブローテーションに乗り気なわけは私の中では2つ。
私の直属である事と青年である事です。」
「・・・わかりません。」
「1つ目は王城内のどの勢力でもないからです。
そしてジッロさんに何かあれば王家の耳にすぐに情報が入り、第二研究所が動きます。
私に喧嘩を売るという事の意味は十分に分かっている人たちです。
さて・・・どの勢力にも加担しないとなると。公正な教育が出来るのですが、これ・・・たぶん自局の教育の基礎にもするつもりでしょう。
各局は試験として十分な意味合いがあるので今回は乗り気だと考えます。」
武雄が説明する。
「まぁそもそも他種族を入れる気での教育の指針ですからね。
公平な教育が出来るでしょうね。」
ブレアが頷く。
「あ・・・だからこそということか。
所長の部下であるジッロ殿を持ち回りで教育する事を各局が認めた理由ですね。」
マイヤーが何か閃く。
「どういうことですか?」
アーキンが聞いて来るのだった。
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