第1022話 王都で報告会。7(ドローレス国の娘。)
「ドローレス国の領主の娘か。」
「はい。
実際の交渉内容は特にこれと言ってありません。
無難な金額を提示され購入しました。」
「ふむ。
それ以外で問題はあったか?」
「カファロについては・・・はっきり言って所詮は街の裏稼業。
交渉が上手いとは言えませんが、闘技場の運営にも関わっているようでベルテ一家の見せ方を演出していたと豪語していました。
つまりは演出家という才覚はあるのでしょうね。
気に食いませんが・・・闘技場が盛況なのでその辺の運営手腕はあります。」
「確かに気に食わないな。」
「ええ。
ま。裏稼業の者は変わりはいくらでも居そうではあります。
あの程度で済んでいるならまだ良いのではないでしょうか?
毎日虐殺の嵐とかだとどうかと思います。」
「・・・それもそうだな。
だが、気に食わないな。」
「はい。
そしてエマ・ドローレスですが・・・
同行した第二研究所の総監は彼女は気楽さを装っていると評価しています。
私としてはカファロと金額折衝をさせないようにいろいろな話題を振り、時間稼ぎをされていた感じがします。」
「ふむ・・・誰と似ている?」
「レイラ殿下でしょう。」
武雄が即答する。
「あっけらかんとしていても芯がブレていません。
交渉というのは相手の気分を上げて有利にさせる物と考えている節があります。
また楽しそうに話す姿はレイラ殿下の特徴に似ています。
ですが・・・レイラ殿下でもエマ・ドローレスには敵わないでしょうね。」
「そうなのか?」
「下手したらアズパール王国の皇子妃達では勝てませんよ。」
「・・・何をするんだ。」
「閨外交です。」
「閨か。」
アズパール王が難しい顔をさせる。
皆が「マジかよ」という顔をさせる。
「タケオ。何と言われた?」
「過分な評価を貰いましたよ。
今の旦那と別れて私を金貨5000枚で買いたいそうです。」
「金貨5000枚!?」
「冗談でしょうけどね。
全く・・・エルヴィス領で死刑執行の危機でした。
同行した第二研究所の総監は『王国が壊滅する寸前だった』と肝を冷やしていましたよ。」
「同感だ。」
アズパール王他皆が頷く。
「さて。まぁそんなこんなでベルテ一家を買ったのですが、パナが私の精霊で良かったです。」
「ふむ。治したのだな?」
「はい。
では・・・えーっと・・・買った直後のベルテ一家の状態ですね。
パナの診察の結果です。
まず全員が栄養が足りていませんでした。
父親が両膝の靭帯が伸びていました。このまま戦闘をした場合は断裂していたとの事です。
母親は内臓が問題でボロボロで血尿も頻発していたようです。
兄は左上腕の骨にヒビと軽い肉離れで腕の不随がありました。
妹が左太腿の軽い肉離れと左手首の骨にヒビですね。
エンマが腰椎損傷による下半身の不随と無痛覚、左肩の神経の損傷による腕の不随という診断でしたが・・・」
武雄がそこで悩む。
「どうした?タケオ。」
アズパール王が聞いて来る。
「・・・エンマ。言いますからね。」
武雄がエンマを見る。
「はい!私は平気です。」
エンマが頷く。
「エンマと妹には付随した怪我がありました。
それは性的暴行によると思われる女性性器損傷、裂肛の痕跡。
また両名とも妊娠はしておらず、薬物投与もされた形跡はなかったとの事。
同箇所からの2次的な感染症も確認出来なかったとの診察をパナが行いました。」
「ん!・・・そういう事か!」
アズパール王が眉間に皺を寄せる。
他の面々も難しい顔をさせている。
「はい。
ですが、今回私に同行した全員がパナの最大ケアの恩恵を受けています。
ベルテ一家については奴隷船に乗る前後の状態に戻してあります。」
「そうか。
エンマがまずは立てて良かったな。」
「はい。
万が一、パナでも回復させられなかった時の事は考えていましたが・・・」
「ほぉ。何をさせる気だった?」
「キタミザト家の会計のお仕事をさせる気でしたよ。
利き腕は動きましたので書類作成と捺印の仕事は出来ますからね。
多少は苦労したでしょうが、仕事は用意出来ます。
寝たきりとか家に引きこもりなんてしなくてもある程度介助があれば良いぐらいにはしてあげられたでしょうね。
ま。杞憂で済んだので問題ないという事で。」
「そうか。上手く行ったな。」
「はい。
とりあえず人物等の報告は以上になります。
各人物との話した内容や同行した試験小隊との打ち合わせ内容は後日王都守備隊に提出をいたします。
関係各位はその際に内容を吟味ください。
また外交局長、軍務局長、人事局長におかれましては今回の発表以外で戦略に使える話を向こうの要人に話しています。
その辺は活用の程をお願いします。」
武雄が皆に頭を下げる。
「タケオ。それはこの場で言わないのか?」
アズパール王が聞いて来る。
「事細かく私の話した事を考察していたら明日の朝日を皆で見る羽目になります。
その辺はどちらにしても事後報告でしかありません。
報告は回しますので後は使える物は使ってくださいと言っておきます。
今は明日連れて来る人材の話が最優先という事ですのでその辺は割愛です。」
武雄が資料をトントンと揃えながら言う。
「ふむ・・・本心はどうなんだ?」
「いやぁ・・・相当ぶっ飛んだ内容を向こうで言っているんですよね。
外交戦略の見直しをお願いします!」
武雄が外交局長に頭を下げる。
「ははは。
それも見込んでキタミザト殿に依頼しているのです。
何とか修正をかけますから早々に報告書を回してください。」
「はい。
部下に書かせます。」
武雄が笑いながら言うのだった。
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