第1020話 王都で報告会。5(とある娘の物語。)
武雄は一瞬エンマを見て頷くとエンマも頷いて来る。
「元々ベルテ一家はエルフの国で農業に従事していた一家になりますが・・・闘技場に行き着くまで紆余曲折があったようです。
では、少し奴隷の気持ちになってみましょうか・・・これから先はちょっとした物語になります。
皆さま。目を瞑って頂いて構いません。
想像を働かせていただきたいと思います。」
武雄が促すとアズパール王とウィリアム。他主要な局長や貴族会議側もクラーク議長以下大半が目を瞑る。
武雄は深呼吸をして語りだす。
「・・・とある日、なんの変哲もないごくありふれた夕食。
温かいスープにパン。そして今日の農作業の話と明日の農作業の話。
両親と兄と妹。裕福ではないかもしれない。でも明日の食べ物も困る程でもない。
今日も明日も明後日も・・・変わらぬ日々が続く。
その日も明日の作業の事を思い彼女は就寝します。
目を覚ますとそこは大海原。
周りを見れば土気色の顔色をさせた者達が所狭しと座らされている。
『なぜ?どうして?』混乱を極める。
隣を見れば母が・・・向かい側には妹と兄と父が着の身着のままで座っている。
妹も兄も母も父も混乱している・・・わからない。今の状況が全く分からない。
昨日まで温かいベッドで寝ていた。昨日まで温かいスープを飲んでいた。
目の前のこれは・・・なに?
彼女たちに渡されたのはドロドロの何か。何かを煮込んだだけの物。
食べなければ・・・食べなければ死ぬ。
そう言い聞かせ・・・何の味も何の食感も無い微妙な物を飲み込む。
・・・ここは奴隷船・・・状況がわかり・・・何も感じなくなっていく。
数日が立ち、海に病気をした者達が捨てられている。
・・・大きかろうが小さかろうが・・・病気が蔓延してはならない。
延々と座らされる。味の無い何かを口に運ぶ。
病気にはなれない。なってはいけない。
大海原に捨てられるわけにはいかない。
大きな街に着いた。
順々に船を降ろされる。
と少し離れた所から何者かが見ているのがわかる。
だが気にしない。気にもならない・・・
皆はうな垂れながらも一列に並ばされる・・・父と兄は別列のようだ。
小屋に入る。
何だここは・・・服を脱げと言われる。
全部・・・下着も髪飾りも何もかも・・・
そして体中の穴という穴が検査される。
検査が終わる頃には何も感情がなくなっていた。
私も妹も『一等』、母は『二等』だった。
ステージに立たされる。
特に何もない。何も言われない。ただ見られる。
服を渡された。
ただの布。・・・布1枚。
寒いね。頭から被るのだった。
首輪をされ、ある一室に連れて行かれた。
そこには父、母、兄、妹が居た。
少し感情が戻る。
『あ。皆に会えた。』
だが、父も母も顔を上げない。
泣いている。
私は何もわかってはいない。
部屋の主が居る事がわかる。
卑猥な声を卑劣な目線を投げかけられる。
これから何が起こるかわかった。
部屋の主が動く、狙いは妹のようだ。
私も兄も母も父も動けない。
後ろから違う者に押さえられている。
妹に手を出すな!やめて!
私は訴える。
部屋の主は気にもせず下劣な笑いをしながら妹に近寄って行く。
ダメだ!妹はダメだ!
私は力の限り足に力を入れ押さえている者の手から逃げ、妹の前に出る。
一瞬部屋の主は驚いたようだ。
だがあまり気にもせず私の腕を掴むと無造作にベッドに投げる。
私は力の限り抵抗するもベッドに投げられてしまう。
とその者が覆いかぶさって来る。
卑猥な言葉をかけながら、着ている布をはぎ取られる。
私は精一杯抵抗をする。離せ!離せ!やめて!
だが、力及ばず侵入してくる。
痛い!やめて!退いて!痛い!いや!
何度も何度も侵入してくる・・・喚いても敵わない、誰も助けてくれない。
何を言っても聞いてくれない何も出来ない。
彼女はベッド横の鏡を見る。
そこには泣きじゃくる人間の女性と下劣な笑いをしながら動くオークが映っていた。」
武雄が話を止め、会議場を見回す。
会議場は音を発する者は居ない。
ある者は目を見開いて武雄を凝視し、ある者は片目から涙を流し、ある者は苦悩の表情をさせ俯いていた。
「・・・オルコット宰相。
小休憩にしましょう。」
「はい・・・そうですね。
10分・・・いや15分休憩をします。
10分後にベルを鳴らします。
それまではご自由にされて構いません。」
オルコットが皆に言っている。
オルコット自身も目が赤くなっていた。
武雄は正面に向かって軽く頭を下げるとエンマ達の下へ向かう。
「・・・グスッ・・・」
エンマが泣いていた。
「エンマ。なぜに泣きますかね。」
武雄が優しく言い屈むと軽く抱擁する。
「・・・ありがとうございます。ありがとうございます。」
エンマが武雄にしがみつきながら感謝を述べている。
「・・・良く耐えましたね。ですが、まだ半分ですよ。泣かない泣かない。」
武雄がポンポンと背中を軽く叩く。
「・・・所長。」
エンマの隣から低い声が聞こえてくる。
武雄は気が付かないようにしていた。
エンマの隣に座るブルックを。
・・・ええ。本当は話の途中から気が付いていましたよ。
すっごい殺気が壇上まで来るんですもの。
これで気が付かないというならその人は神様です。
「・・・お話ですよ。」
エンマの頭を震えた手で撫でながら武雄がぎこちない笑顔をブルックに向ける。
「・・・は?何を言っているのですか?」
ブルックがキレていた。
「・・・違うのですか?」
「ええ。所長。第二情報分隊に復帰して良いですか?」
ブルックが怖い目をさせながら言ってくる。
武雄は悟る「暗殺する気だな!」と。
「・・・ダメに決まっているでしょう。
ほら。エンマさんを連れて顔を洗ってきなさい。
フォレットさ・・・」
武雄はここでフォレットを見て驚く。
殺気が駄々洩れだった・・・「いや。お前は事情がわかっている人員だろうが!」とツッコむのだった。
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