第1018話 王都で報告会。3(ドローレス国での3名の兵士の雇用について。)
「次はドローレス国だな。」
アズパール王が聞いて来る。
「はい。
目的としていた奴隷商組合には行きつきました。
対応してくれたのはカトランダ帝国でヴィクターとジーナを売っていた人物です。
奴隷商組合 副組合長のガエル・セスコと言います。」
「ふむ・・・どんな人物だった?」
「知己であったという所もありますが、商売人としてこちらの要求する人材の意味合いをしっかりと理解し、自分の所で揃えられないのなら仲間内に連絡をし、即時集められる統率力と交渉力はあると判断します。」
「ふむ・・・やり手か?」
「間違いなく。
ヴィクター達をカトランダ帝国に初出荷した際の総責任者もしていたようです。
初めて行く他国に仲間内を引き連れて売りに行ける人物です。
奴隷商仲間内からの信頼もある物と考えます。」
「ふむ・・・使えそうか?」
「奴隷が追加で欲しくなった際はセスコ殿宛に国からの推薦状を最低限持って行けば対応はしてくれる旨の文言は貰っています。
ですが、向こうも商売をしている関係上、毎日居るとは限りませんので、セスコ殿が居る際はセスコ殿が対応し、居ない場合は他の上位の者を付かせるという条件になっています。」
「ふむ。そうか。
では連れて来た3名の程度によって決めればよいな。」
「はい。
では3名の話をします。」
「キタミザト殿。失礼します。
お手元の資料9枚目をご覧ください。
今回の3名の概要が書かれています。」
人事局長がその場で立って資料を見るように促す。
「ほぉ。」
「何と・・・」
「・・・」
会議室が騒めく。
「ファビオ。エットレ。テーアの3名ですね。
書かれている元所属以外は特に詳しい事は聞いておりません。
他に聞いたのは奴隷になる経緯くらいでしょうか。」
武雄も資料を見ながら言う。
「キタミザト殿。
これが今日集まった最大の用件なのですが、雇用関係の説明はどうされましたか?」
人事局長が聞いて来る。
「まず3人に説明したのは私が研究所を運営し貴族になった事。
私は元魔王国の魔物を奴隷で購入し、部下として25年契約で雇用中である事。
これは早期の越境はアズパール王国に取って不利になると判断した為と説明しています。
またジーナについては、主家の御子息が寄宿舎に入るのでお付の仕事をしながら人間社会の勉強をする為に王都に来る事は伝えてあります。」
武雄が説明する。
「ヴィクターとジーナの事を先の2名に伝えないのはエルヴィス伯爵の依頼が来たのを見て通達済みだ。」
アズパール王が言う。
「はっ!ありがとうございます。」
「構わんよ。それで?」
「はい。
3名の雇用の趣旨として、異種族の雇用条件の洗い出しや部隊運用を試験的に実施し、『異種族雇用の土台を作る事』と説明しています。
またその際に3名より同族に対しての戦闘についての質問が出ましたが、『国家存亡の危機にまで至った場合はそんな事を言っている暇はない』と前置きをした上で『所属先の上司と相談するように』と言っています。
給金や待遇面についてですが、『賃金が出るのか』との質問は出ましたが、『仕事の対価を貰うのは当然』と言っています。
ですが、給金は購入費用を返却しながらなので他の兵士よりかは少ない可能性がある事も説明はしています。
人事局並びに軍務局に於かれましては、3名は奴隷や異種族といった経緯はありますが、何卒、中途採用の兵士として給料や待遇を考慮頂きたくお願い申し上げます。」
武雄が皆の前で深々と頭を下げる。
「それと彼ら3名には今後の成果によって追加で奴隷を購入するか決まる事を説明しています。
『奴隷として苦難を受けている同胞を救えるのは私達ではなく貴方達です』と言っています。
旅の最中に何回も25年間兵士として真面目に働く事と邪な考えを起こしてアズパール王国を揺るがすような事をしない事はお願いをしています。
以上が3名に対する話になります。」
武雄が頭を上げて追加の説明をする。
「ふむ。総長。」
「はっ!
王都守備隊では3名の受け入れ態勢は整えております。
給与につきましては、人事局と打ち合わせを行い、騎士相当の月金貨4枚とする所存です。
しかし、返済金等の考えはございませんでした。
キタミザト殿。その考えはヴィクター殿達にされての事でしょうか。」
「はい。
ヴィクター達からは月金貨1枚を返済金という名で徴収しています。
ですが、実質は毎月の積立金です。毎月貯めて行くと金貨300枚になります。
これを25年後に一括で支払う予定です。
これなら次の人生も何か出来るでしょう。
ヴィクター達には内緒でお願いします。
あくまで元手の回収と言っていますからね。」
「わかりました。
今日中に再考いたします。」
総長が頷いて席に座る。
「タケオ。手厚いな。」
「キタミザト家の給料低いんで福利厚生を高くしないとやっていけません。
積立金も福利厚生の一環ですよ。」
「・・・貴族報酬が低いと言うな。」
アズパール王がジト目で言ってくる。
「ま。皆が苦労している事ですからこれと言って要望はしません。
あくまで愚痴です。」
「そう願う。
福利厚生の一環として他に何かするのか?」
「格安で私考案の料理が食べれるようにします。
あ。これは第二研究所の試験小隊員も期待しているみたいですね。
ちなみにエルヴィス伯爵家の文官向けにも格安で提供しますよ。」
「くっ・・・王都より美味しい物が出るのか!」
「それはどうでしょうか。
日替わりで昼のランチメニューを提供する予定です。
そうそう王都西の街で有名なアズパールカレーも提供する予定です。」
「なに!?
くぅぅぅぅ!」
アズパール王が恨めしそうな顔をするのだった。
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