第1006話 寝よっか。(ベルテ一家の農業案と酒事業。)
皆が部屋に戻って行ったが武雄とマイヤーは食堂に残っていた。
「所長。ベルテ一家に脅しをかけましたね。」
「脅してはいませんけどね。
ベルテ一家の役割は1つに米の作付けを行う。
2つに今回買った種を栽培しエルヴィス領で使える物があるのかの確認を行う。
3つに先ほど言った既存の農作物の品種改良を行うとします。」
「その3つとした理由は?」
「たぶんベルテ一家は米だけでは生計が立てられないでしょう。
かと言って既存の他の農家のように作物を作っても流通経路を持たないのですから卸値で不利になる。
伯爵家で買って貰っても良いですが、それでは街の組合が黙っていないと思います。
なら付加価値を付けないと皆に受け入れらない。
先ほども言いましたが、甘いジャガイモの種イモ、出荷の子ジャガイモを多く作る種イモ等、作物の種を扱って貰うというのが皆に受け入れやすいと思います。
ベルテ一家には普通の農家というよりも種苗農家をしてほしいのです。
売り先は一般の家庭ではなく、農家相手に売るのです。
なので常に品質を維持し、安定供給させる努力が必要です。」
「・・・難しい事を考えましたね。」
「・・・正直な所、他種族の作った作物を食べたいと思う人間は少ない・・・そのくらいの偏見はあるだろうと思っています。」
武雄が目線を下げてボソッと言う。
「・・・確かにあってもおかしくはないですね。
なら種イモを作り、自分達の価値を見出し、一般家庭向けの作物の作付は他の農家にさせるのですね。」
「ええ。
消費者の手に渡るまでの間に1つ入れるだけで人は見方を変える物ですからね。
それに私も農家を見るときに種の出所より育てた人を生産者というものです。
・・・ですけど、このやり方も結構難しいと思うのは確かです。
もしある年にベルテ一家が納品した種イモだけが風土病にやられ不作だった場合、たぶん一家というよりもエルフという種族に対しての偏見が暴発する可能性があります。
なので販売するまでに何が良くて何が悪い種なのかを確認し、正確に農家に伝えてから出荷させなくてはいけません。
たぶん1つの品種で数年はかかるでしょう。
それに私が最初から指示するのも違うような気がするんですよね。
私は専門家を雇ったのですから、とりあえず何を品種改良するか・・・何が出来るのかぐらいは考えて貰わないといけません。」
「なるほど。
そして今の段階で言ったのは、少しでも長く考えさせるのですね。」
「向こうに着いたら早々に畑を作り始めるとなるとゆっくりと考えられるのは今ぐらいです。
畑作りが始まってからでは想像は出来ないでしょう。」
「そうかもしれませんね。」
マイヤーが頷く。
「それとこんな物を作ってみました。」
武雄が机にノートを広げる。
「これは組織図ですか?」
「はい。
試験小隊と研究者達のとりまとめをマイヤーさんが、ベルテ一家とニルデとジルダとアスセナさんをヴィクターに管理させます。
ステノ技研、ハワース商会等はあくまで私の協力業者扱いですね。
これもヴィクター管轄ですが、金銭のやり取り等のみでしょう。」
「それにしても・・・農業が直轄なのですね。
所長も先ほど言っていましたが、採算は取れないのですよね?」
「・・・農業関連の人員はうちからの給金で基本は働いて貰います。
基本給は・・・まぁたぶん低いので足らない分は作物の売上から出しますかね。
米や新種の野菜、品種改良した作物についてはアスセナさんに店を持たせて売らせてみましょう。
米とか種とかが定期的に買われるようになれば・・・まぁ。売上は当分はないでしょうからね。
精々喫茶店向けの野菜の売上でしょうか。
とりあえずうちの喫茶店で人気が出れば作付けする農家も増えそうですしね。」
「そう言えばアスセナ殿は販売員でしたね。
ですが他業種でしたよね・・・出来るでしょうか。」
「他業種の販売員ですが慣れるのは何も知らない者よりかは早いと思います。
どちらにしても創意工夫が必要ですね。
農家相手が基本ですからね・・・大変そうだなぁ。
とりあえず当分はベルテ一家と土いじりで農家を体験して貰う事にしますかね。」
「なるほど。
農家を体験させてから農家相手に売ると。」
「基本相手の事を知らなければ物は売れませんよ。
それと米についても最初は喫茶店と伯爵邸向けでしょうね。
輸入した物についてもエルヴィス伯爵家に頼んでうちで捌かせて貰いましょうかね。
どうせ米の半数は趣味に使いますし。」
「趣味・・・上手く行きますか?」
「コノハがやるんですよ?
失敗しても普通の失敗はしないでしょう。
不味いお酒が出来るだけです。」
「・・・ん~・・・不味い酒ですか。」
「エルヴィス領に帰ったら北の町のウォルトウィスキーを作っているウォルト社長にお願いして職人を2名くらい借りないといけないでしょうかね。」
「そうなのですか?」
「ええ。
契約上私が思い立った酒は北の町でのみ製造が出来ます。
今回はコノハが頭に立ってくれますが知識のみ説明でしょう。
なので実際に動く人を借りないといけません。
アリスお嬢様に毎日行かせるわけにもいきませんからね。
どこかに蔵でも借りて酒造りをして貰います。」
「それも借りるのですか・・・資金がありますかね?」
「・・・王都で出資者にお願いしようかな。」
武雄がボソッと言う。
「王家を焚き付けますか。」
「別に王家とは限りませんよ?
ただ一番最初に声をかけるのが王家と言うだけで・・・
ま。あの人たちが私とコノハが新しい酒を造ると言った時に無視するとは思いませんけどね。」
「所長。悪い顔していますよ。」
「おおっと。
という訳で資金についてはあまり心配はしていませんし、ダメならダメでエルヴィス伯爵領で皆で考えながらしていけば良いので問題はありません。」
「とりあえず。やる事がどの部門でも多くあるという事がわかりました。」
マイヤーが半ば呆れながら頷くのだった。
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