第998話 126日目 アーキン達王都に到着。1(今日の宿泊地。)
もうすぐ日が暮れるという時間。
「「つ・・・着いた・・・」」
休憩になったミルコとアニータが王都の城門が見えるのを確認して心の底から呟いていた。
「・・・アーキン。ここからなら初雪殿を乗せても平気かな?」
「あぁ。そうだな。
城門の横でするわけにはいかないからな。
この距離ならそこまで速度は出さないだろう。」
アーキンが懐中時計と日の傾きを確認しながら言う。
「アニータ。手伝って。」
「はいー!」
ブルックの言葉にアニータが駆け足で近寄って来る。
・・
・
「はい。どうぞ。」
「お邪魔します。」
ブルックに手を引かれて初雪がブルックの前に座る。
初雪は他の面々と同じ試験小隊の制服を着ていた。
「うん。
じゃあ。出立。」
アーキン達が先ほどまでより少しゆっくりな速度で王都に向かうのだった。
・・
・
「ご苦労様です!」
城門の兵士が身分を確認してアーキン達に礼をする。
「ええ。ありがとう。」
「「ご苦労様です。」」
ブルックとアニータとミルコも挨拶をして通る。
「・・・」
初雪は何も言わずに会釈のみで通る。
「さてと。俺らの宿はどうするか。」
「ん~・・・前回来た時に予約はしたよ。」
「え?してたのか?
予定もあまりわからなかったのに良く部屋を取ってくれたな。
価格はヴィクター殿達に請求だから高くないと良いんだが・・・どの宿だ?」
「第八宿舎。」
ブルックが平然と古巣を使う気満々だった。
「そ・・・そうか。
じゃあ。一応第八兵舎に行くか。」
「??
アーキン何をビビっているの?
あそこは部屋の空きがあるんだから今回だけ使わせて貰うだけよ。
次からちゃんとした宿に泊まれば良いのよ。」
ブルックが笑みを浮かべながら言ってくるが、アーキンは「良いのかなぁ?」と思いながら進むのだった。
・・
・
ブルックの言うようにアーキン達にすんなりと部屋が貸し出されていた。
「・・・本当だった。」
半ば断られると思っていたアーキンが驚いている。
「・・・アーキン。確かに私達は別部署に移ったから本来は使えないけどさ。
今回は使えるのよ。
というよりも私達が使わないと総長泣いちゃうわよ?」
ブルックがため息交じりに言う。
「そういう物か?」
「そうよ。
うちの所長が一体誰の為にウィリプ連合国なんぞに行ったのか。
本来なら・・・いや少なくとも王都側は金銭以外でも協力したという形を残したい。
依頼元が外交局とかなら宿を用意する事なんだけど王都守備隊でしょう?
他の局がしない形で、それも他の局に見える形で協力したというのをわからせるのなら、王都内では兵舎を貸し出す事となる。
そうする事で総長は『うちは人と宿舎を貸している』と胸を張って買って来た人員を貰い受けるという所でしょうね。
だけど外聞的に貴族の所長がここに泊まる訳にはいかないでしょう?
だから私達は第八兵舎が使いたいと言った場合、総長達は協力をしたという形が残せるから積極的に貸してくれるわ。」
「・・・そこまで考える事か?
普通に一般の宿に泊まってキタミザト家から王都に請求でも良いだろうに・・・
はぁ・・・まぁ経費が浮いたのは良い事だな。」
「そうね。
さてと。借りるなら・・・誰に報告するべきかな?」
「どこの隊・・・いや。もうこうなったら総長に会いに行くか。」
「そうね。
一応挨拶に行ったという形は残しておくか。
アニータ。ミルコ。初雪殿。
荷物をベッドに置いたらここの一番上の偉い人に会いに行きましょうか。」
「「「はい。」」」
アニータ達が返事をするのだった。
・・
・
王都守備隊総長の執務室。
中では総長のベレスフォードが募集要項の書類を見ていた。
「ん~・・・
今年の採用は最大10名かぁ・・・これは二研殿に取られた不足分なんだが・・・
はぁ・・・やっぱり若返りしたと見れば良いかな。
今年は第2騎士団が大量に居なくなったしなぁ・・・
どこも人手不足だから出してくれないかもしれないが、確保したいなぁ。
採用基準を下げる訳にも行かないし・・・ん~・・・困ったなぁ。」
と扉がノックされる。総長が許可を出すと秘書官が入って来る。
「失礼します。
ただいま王立研究所 第二研究所 試験小隊員 フィル・アーキン殿以下5名が参りました。
本日より数日間の滞在に関して、まずは到着した旨の挨拶をしたいとの事です。」
「そうか。
通してくれ。」
「はっ!」
総長が許可を出すと秘書官が退出する。
するとすぐに扉がノックされる。
「失礼します。
王立研究所 第二研究所 試験小隊員 フィル・アーキン殿以下5名をお連れしました。」
「「「「「失礼します。」」」」」
アーキン達が入って来る。
そして執務机前に並ぶ。
「失礼します。
王立研究所 第二研究所 試験小隊員 フィル・アーキン以下5名。
本日より第八兵舎の一室をお借りいたします。」
「うむ。
二研殿の部下だ。好きなだけ使ってくれて構わない。」
「はっ!ありがとうございます!」
形式的な挨拶をする。
「うむ。
では、こちらで話そうか。」
総長が席を立ち応接セットに招く。
と、アーキンとブルックが席に着き
アニータとミルコと初雪が応接セットの横に立つ。
「エルヴィス領からの移動ご苦労だったな。
それにしてもなかなかに疲れている顔をしているな。」
総長がアニータとミルコの顔を見て言う。
「ええ。
今回は強行軍の練習を兼ねて馬で6日かかる所を2日半で参りました。」
「実施時期が若干早いな・・・だが・・・そうだな。今時期ならやりやすいか。
なら早めに話を切り上げないとな。
と。こちらの子は試験小隊か?」
「いえ。こちらは初雪殿と言います。
キタミザト家の特殊メイドです。
クゥ殿やタマ殿等の魔物相手のメイドをしています。
今回王都を見てみたいとの事で同行しています。」
「そうか。
初雪殿、私はベレスフォードと言う。王都守備隊で総長をしている。」
「総長様。
主であるキタミザトがご迷惑をおかけしています。
以後主をよろしくお願いいたします。」
初雪が綺麗な礼をする。
「こちらこそよろしく頼む。」
ベレスフォードが頭を下げるのだった。
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