第6話 TEARS&PAST
慧悟の過去の話となります(*^O^*)♪
新しいキャラも登場!!!!
僕が作家になるきっかけを作ったのは、もともと物語を創るのが好きだったのに加えもう一つ理由がある。
それは小学校の頃に仲が良かった女の子。
式部翠乃の存在。
僕の初恋の相手で、僕に小説を書くことの意味を与えてくれた人だ。
彼女が喜ぶから僕は物語を創り出し、どこまででも自分の世界を広げることができた。自信を持って夢を語ることが出来た。
それこそ花恋や空恋、由宇よりも仲が良かったし大切に思っていた。
僕の中で翠乃は世界の中心で、何よりも大切で翠乃も僕のことをそう思ってくれているんだと思っていた。思い込んでいた。
でもそれは大間違い。
小さかった僕に降り掛かった小さな闇。
夕方の小学校、僕らのクラスだった6年2組。
綺麗な夕日が窓から差し込んで教室をオレンジ色に染めていた。
僕と翠乃はいつものように2人っきりで物語のことについて話していて、きっと学校にも先生以外ほとんどの生徒が残っていなかった。
きっかけは些細な一言。
どちらが言ったかすらももう良く覚えていないようなくらい、くだらない子供の戯言。
僕と翠乃は始めて言い合いをした。
『そうやって人に話ばっかりきかせて私の話はなんにも聞いてくれないじゃないっ!』
大きくて高い翠乃の声。
『聞いてるじゃん!
翠乃だって僕の話なんてまじめに聞いてないんでしょ?
バカにしてるんでしょ?』
不意に今まで心の中にたしかにあった信じるという気持ちが抜け落ちてしまったかのように、二人の思い出が、記憶が偽物であったかのように感じてしまった。
『話してるだけじゃ物語って言わない。
慧悟のそれは小説にはならないっ!
ただの妄想だよッ』
誰よりも僕のことをわかっていてくれたと思っていた。
だから恥ずかしかったけど胸を張ってまっすぐと自分の思いを伝えることが出来た。
でも……、一瞬にして僕ら二人の関係は崩れ、そして崩れてしまえばもう元の形に戻ることは無かった。
僕は翠乃へのあてつけのように今まで創ってきた物語を全て文字に表し、形として残していった。
それに特に意味はなかったけど翠乃に言われたたった一言だけが、まるで取り憑かれたかのように頭の中をループして僕のことを動かしていた。
書かなくちゃいけない、またバカにされる。
翠乃に僕の物語は妄想なんかじゃないって見せつけてやるんだっ!
今思えばそれも翠乃が喧嘩の流れで思ってもないことを口走ったとしか考えられなかったけど、その時はただ何もかもが信じられなくて、僕のすべてが否定されていると解釈することしかできなかった。
翠乃との喧嘩から1年が過ぎて、僕はある新人賞に自分の傑作だと思える作品を投稿した。
相変わらず翠乃とは一言も喋ってなかったけど、その賞をとればなんとか翠乃にも認めてもらえるだろうと子供っぽいことを思っていた。
そんなことなんにもならない。
翠乃は何もわかってなんかくれない……。
そんな思いも同時に抱えながら……。
そこからまた半年が過ぎて僕らは中学二年生の秋を迎えていた。
体育祭も終わり冬への準備、定期考査の時期にも入っていた。
少し冷えたある日の夜。
僕は自宅のパソコンの前で涙を流していた。
『○△文庫新人賞 審査員特別賞
臼杵陸翔「Primula」』
翠乃をヒロインにして書いた僕の最高の手札。
そして彼女がつけてくれた僕のペンネームで。
あんなにも敵意丸出しにして、憎んですらいると思っていけど、それでもこのことを誰よりも早く翠乃に聞かせたかった。
翠乃のおかげで残せた結果を、本当の思いを翠乃に伝えたかった。
何度も何度も通った翠乃の家までの道を自転車で全力疾走して、冷たい風が痛かったけど心はそれに反して踊っていた。
『翠乃っ!翠乃!
僕、やったよ!新人賞ッ!
新人賞取ったんだよっ!』
嬉しさのあまり家の下で翠乃の部屋に向かって叫んで、ぴょんぴょんとはねていた。
『翠乃?!ねえ聞いてる?』
だけどおかしかった。
何分待っても何十分待っても翠乃は出てこなくて、僕はそのまま朝になるまで翠乃の家の玄関の前で膝を抱えて座っていた。
不安だったけど、どうしても翠乃に伝えたかったから……。
翠乃がトボトボと道を歩いて家に帰ってきたのは朝の6時頃。
何時間も待ってやっと見れたその顔はやっぱり何よりも好きだった。
『慧悟……?』
『翠乃……翠乃っ!
やっと、やっと会えた』
『は?なに?どうしたの?』
『僕やったよ!新人賞……取れたんだよっ!』
気がつけばまた目から涙が溢れていて彼女の肩を掴みながら、わんわんと小さな子供みたいに泣いていた。
『翠乃の……おかげ……
翠乃に誰よりも早く伝えたかった』
『そう……そっか
良かったね……』
そして翠乃も優しく微笑み僕と一緒に涙をこぼしてくれた。
それがどういう意味の涙かも知らずに……。
『慧悟?』
『ん?』
『肩、離して?お願い……』
ずっと下げていた顔を上げて翠乃の顔を見ると涙でぐちゃぐちゃで、そんな顔ですら可愛かった。
『私ね引っ越すの……夜逃げするの』
『え?』
唐突に彼女から出た言葉はとんでもなく悲惨な話。
だってそんなの……
『な……ど、どうし……』
『慧悟は幸せでいいね。私が苦しい時にいつも幸せそうにしてる』
『……』
『バイバイ、慧悟
大好きだよ』
そのまま家の中へと入って行ってしまった翠乃。
僕は何もすることができないまま呆然と朝焼けの空を見ていた。
涙は乾いて両頬がヒリヒリと痛んだ。
次の日も、その次の日も翠乃は学校にこなかった。
しばらくしてもう一度彼女の家へと言ってみると、そこにあったはずの見慣れた家は跡形もなく崩されてしまっていた。
気が付かなかった。
彼女とは疎遠になっていたから、そう言ってしまえば終わってしまう。
でも彼女が残した最後の言葉がまた、僕の中でループした。
それは呪い。
小説を書く僕を大好きだと言った彼女の呪い。
何があっても、苦しくても書き続けなければいけないという暗示となって僕を縛り付けた。
だから僕は小説を書く。
正直もう彼女への恋心はないし、あの頃ほど大切だとも思わなくなった。
それでも僕は書き続けている。
それが僕の使命で、僕のやるべき事だから。
詩羽先輩はどことなく雰囲気が翠乃に似ている。それは僕の思い込みかもしれないし、錯覚かもしれない。
でももう二度と僕の創り出す物語で人を傷つけたくない。
花恋も空恋も由宇も詩羽先輩も。
僕は誰にも過去を明かさない。
小説を書く理由を言わない。
これは翠乃と離ればなれになった僕の最後の足掻きなのかもしれない。