第5話 ORANGE&FRIEND
先輩がクラスに戻った後、少し時間が経ってから僕も教室に戻ることにした。今日の授業は全部終わってしまったし、どうやら僕にはもう帰るという選択肢しか残されてないみたいだった。
怪我をした頭はまだズクズクするし、明日になっても痛みがひどいのであれば病院に行くことをすすめると保健医の先生にも言われた。
あぁー、また巴衛さんに怒られるなぁ…。
巴衛弓弦。
僕のことを見つけてくれて、僕が書けなくなるその時まで僕を支えてくれると言ってくれた大切な大切な人。
たった1人の僕の担当編集者だ。
どこまでも僕を尊敬してくれていて、まあだからこそ少し異常すぎるくらいに僕のことを心配する。
僕だってひとりの高校生だ。
怪我だってするし、体調だって崩す。
それなのに彼は何かにつけて「正木さんはもっと自分を大切にすべきです。」と言ってくる。
ウザイとまでは行かないが最近はちょっと度がすぎるな〜と思い始めてる。
こないだだって寝不足で早退しただけで、やれ病院だ、精密検査だ、ととにかくしつこくいっそ会社に電話してやろうかとも思った。
それもこれも全部僕のため。
そのせいであんなにもカッコイイのに彼女もいないんだと思うけどな…。
頭の中は巴衛さんでいっぱいのまま、気がつけば保健室から3階への長い階段を登りきって教室前へとたどり着いていた。
ほかの生徒は部活に向かうか家に帰ったかどちらかの方へ動き出していて、教室からはドアを開けなくても誰もいないこと察した。
早くバック取って家で仕事しなくちゃ…。
勢いよくドアを開けると思いがけない小さな悲鳴が聞こえた。
「ひゃぁ。」
その悲鳴に僕自身も驚いて、中を覗くと小さな影が僕のことを見つめていた。
「花恋?!どうしたの?」
「けい…。」
体に合わない大きな制服。なんでも一番小さいサイズでも花恋の体には合わなかったらしい。
「花恋がこんな時間までいるの珍しいね。」
「…けいのこと、みんな心配してたんだよ?
空恋ちゃんと由宇は部活があるから……。」
花恋はさささっと僕のそばまでよってきて30cmはあるだろう、その身長差を背伸びで補おうとした。
心配そうな目が僕の瞳に写って、その手が僕の頭に触れた。
「……痛い?」
「少し、でも大丈夫だよ。
心配かけてごめんね?」
「けいが平気なら花恋も平気。」
にぱぁ、という効果音が聞こえてきそうなほどの満面の笑み。自然と僕も笑顔になった。
「送ってくよ。一緒に帰ろ?」
「うん!」
いつか3人にも僕が作家であることを打ち明けられるだろうか?
笑われないと自信を持って胸を張って、告白することができるだろうか?
今はまだ……。
大切な人だからこそ失いたくない。
オレンジの夕焼けが痛いほど昔を思い出させた。