第3話 LIAR&FACE
ぼんやりとした意識の中最初に刺激を与えたものは授業合図のチャイムだった。
少しかすれた拍子抜けた音。
その音が終わる頃にははっきりと僕の目には白い天井が映っていて、自分が保健室にいる事を理解した。
やっぱり意識がなかったんだ……。
今何時くらいかな…?
きっと寝不足のせいもあって意識を失ってからずいぶん経つんだろう。よく寝たせいか体は軽くなっていて授業を受けずに学校をサボれたことが少しだけ嬉しかった。
ベットから体を起こして上履きに足を入れると、ようやく自分の頭にグルグルと包帯が巻かれていたのに気がついた。
…それなりに大きなケガだったんだ。
確かに結構痛いな…。
頭に手を当てながらベットの周りに引いてあったカーテンを開けると、一人の女性が体操服を着て僕に背を向けながら何かをしていた。
したに下げられた薄いクリーム色のスニーカーソックスに血が着いていたから、おそらく転んで膝でも擦りむいたんだろう。
僕はその後ろ姿に見覚えがあった。
「両堂先輩?」
ふっと振り返った女子生徒は僕の予想通りあの両堂詩羽で、彼女は僕の顔を見るなり目を真ん丸にしてしまった。
「先生その頭…、どうしたんですか?」
そしてすぐに向けられた心配そうな表情。
ほかの人から見るとそんなにひどいのかな…?
「わ、私保健の先生呼んできますねっ!」
「っんえ?いや待って先輩!
それより先輩の足の方が先でしょ?」
自分で怪我の治療をしようとしたのだろう。
先輩の手には大きな絆創膏がぐちゃぐちゃになって握られていて、消毒もしないで絆創膏を貼ろうとしていた彼女に少し呆れた…。
「僕がやってあげますよ?」
だいぶ手間取っていたのだろう。
保健の先生を呼ぼうと走り出す準備をしていた彼女は大人しく足を止めて僕の方へと戻ってきた。
「てかまず、洗ってその砂落としてください。
それから消毒もします。」
両堂詩羽はお嬢様。
という噂は前に聞いたことがある。
なんでも執事にやってもらうんだとも。
でもまさかこんなことすら出来ないとは思ってなかった。
「こんなことも出来なくて今までどうやって生きてきたんですか?」
「え?えっと…。
いつもは体育なんてしません、してもこっそり怪我なんかしない程度しか動かないんです。
でも今日は…クラスの女子に後ろから突き飛ばされて...。」
「突き飛ばされた?!
なんでですか?」
「嫌いなんですよ、みんな私のこと……。
口、悪いし……。」
「気がついてるなら治せばいいのに……。」
「無理ですよっ!
だって先生だって、今更自分が作家だなんて言えないでしょ?」
確かにそうだった。
本当の自分を隠して、今更みんなに何を言えるっていうんだ。
それもこれもその状況を招いたのは紛れもなく僕自身なのに...。
絆創膏を貼るためにぎゅっと力を入れた細い足に、少しだけ余分なちからが入る。
「今、何時間目なんですか?」
「今?6時間目ですよ?」
そんなに寝てたんだ……。
「昼休み、行けなくてすみません。」
「そんな!全然いいんですよっ!
私が勝手に言い出したんで……。」
視線をそらして僕の横へと視線を向ける彼女はやはり僕に何かを隠しているみたいだった。
それでも……。
「それで……話って何だったんですか?」
僕と彼女はよく似ている。
彼女がどんな理由でこんな状況になっているのかは僕はまだ知らないけど、やっぱりもう断れない。
断りたくない。
僕がこの氷の女王を助けてあげたい……。