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迷惑な僕の女王様  作者: 楓 那夏
第1章 青春SENSATION!!!!
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第19話 雪

 サクっ、サクっと地面に足をつく度に聞きなれない音がする。


 墓地には10cmほど雪が積もっていて、真っ暗の中にも純白が視認できる。


 はぁ〜と吐く息は白くなって、マフラーから出てる顔がとても痛かった。


「寒いね〜」


「怖いですし(笑)」


「でも……いつも翠乃ちゃんはここにいるんだよね……」


 詩羽先輩の背中を追いかけながら、夜でより一層寂しい墓地が僕の心を覆う。


 寂しいよ……


 苦しいよ……


 助けて……


 翠乃はいつもこんな声を聞きながら眠りにつくんだね



「ほ〜ら、また暗い顔になってますよ?

 今日は笑顔でいるって決めたんでしょ?」


「……そうでしたね」


 奥に進むと階段があってその奥にもまたたくさんの墓石が並んでいる。


 この墓石の数だけこの世界に人は生まれ、死んだ。


 そのサイクルの中の一部でしかない小さな僕が何故こんなに馬鹿みたいに悩んでいるのだろう……


 僕が翠乃のことで悩んでいても、もう何もしてあげることは出来ないのに……


「ここです」


 僕を先導しながら前で歩いていた詩羽先輩がその足を一つの石の前で止めた。


 それは他の墓石と代わり映えのしないごく普通のもの。




 本当はわかっていた。


「詩羽先輩……?」


「ん?」


「ここに本当に翠乃はいるんですか?」


「うん、いるよ

 私が間違いなく翠乃ちゃんのことをこの手でそこに埋めたの」


 詩羽先輩は指で墓石の下の方を指さした。


 でもそこは雪が積もってしまって今は何も見えなかった。


「なんか……よくわからないです

 どうしたらいいのかも、わかりません……

 僕は翠乃になんて声をかければいいんでしょう?」


「……」


 すると詩羽先輩はおもむろに雪を払い始めそして僕しかいないそこで話し始めた。


「翠乃ちゃん、先生が来てくれましたよ〜」


「……」


「よかったね、ホントに

 あんなに会いたがってたもんね

 ……会わせてあげたかったな」


「先輩?」


 積もった雪の上に暖かな詩羽先輩の涙が落ちていく……


「私はっ!

 いつもここに来ると泣きながらこうやって翠乃ちゃんに話しかけるの!

 だから私は泣いてもいいの、泣いてもここにいる翠乃ちゃんと話していたいの……」


 鼻をすすりながら黙々と雪を払い続ける詩羽先輩はまるでそこに誰かがいるかのように語りかけていた。



 それでいいんだ……


 それがいいんだ……


 例えその姿が僕に見えないとしても、いないとわかっていても、

 信じる


 そこで翠乃が笑っていてくれる事を……


「やあ、久しぶりだね……翠乃」


「何年ぶりですか?」


「んー、3年ぶりですかね?

 ね?」


「私は先月ぶりですけどね」


「うわ、それ酷くないですか?(笑)

 僕だって会いたかったですよ!」


「さいてー

 彼女の目の前で他の女の子に会いたいなんてっ(笑)」


 笑った。

 ここ最近で1番笑った。



 夜の墓地、僕らの声は響いて消えて、まるでこの世界に僕らしかいないようだった。


 ねえ翠乃、君も笑ってくれてるかな?

 ちゃんと届いてるかな?


「ごめんね、翠乃

 会いに来てあげられなくて……

 君のこと何も知らなかった」


「いいんですよ、これから知っていけば

 先生が知らない翠乃ちゃんはまだまだたくさんいるんですから


 翠乃ちゃんが見てきた景色をこれからまた二人で見ていきましょう?」


「はい……」


「そして二人で翠乃ちゃんの願いを叶えるんです」


 それは唐突だった。


「願い?」


 詩羽先輩は僕にあった。

 そうして僕らは恋人になった。


 これが翠乃が望んでいたことじゃないの?


「先生、私と物語を作りましょ?

 誰も知らない、これからの私たちの物語」


 翠乃に会えたことは僕と詩羽先輩のスタートダッシュでしかない。


「そういうことでしたら……喜んでっ!」


 そうだよね、翠乃

 君は僕と一緒物語を作ることが好きだったんだよね?


 だから僕らのこれからには物語はなくちゃいけない。


 また僕らが創り出していくんだ。




 新しい物語をっ!

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