第18話 ぎゅっと
「いつも娘がお世話になってます〜」
しばらくすると詩羽先輩のお母さんが駅に着いて僕らは車に乗り込んだ。
「帰ってきた日に雪なんてね〜
ホントついてるのかついてないのか……」
詩羽先輩のお母さんはとても綺麗で詩羽先輩によく似ていた。
助手席には詩羽先輩を3分の1サイズにした女の子が座っていて、興味深そうに僕の顔を眺めている。
「お兄ちゃん、だーれ?」
4、5歳だろうか……
たどたどしい言葉で疑問をぶつけると小さな水鉄砲を取り出して僕の方に向けた。
「コラッ!晴空、やめなさい!」
どうやら敵と認識されたらしくシートベルトを伸ばして僕の方を無理やり見ている。
つかさず止めに入る詩羽先輩。
見たこともない、怒った顔。
また僕の知らない一面を見せる。
どこまでも見ていたいな……
「ごめんね!彗悟くん……」
「いえ、こちらこそ自己紹介もしないで……
晴空ちゃんって言うの?僕は詩羽お姉ちゃんお友達で正木彗悟といいます。
仲良くしてね!」
大きな目を見開かせて姉が連れてきた友達という男をマジマジと見つめる晴空ちゃん。
「けいご?」
「うん、彗悟」
「彗悟、遊んでくれる?」
「うん!後でたっくさん遊ぼうか!」
かわいい。
まるでミニチュア詩羽先輩が話してるみたい……
「晴空ちゃんは何歳?」
「4歳!」
「そっか〜お姉ちゃんは好き?」
「だーいすき!」
「うん。お兄ちゃんも詩羽お姉ちゃんのことだーいすき!一緒だね!」
クスクスとあがる笑い声。
そのせいで詩羽先輩の頬はどんどん赤くなっていった。
「彗悟くんのバカ……」
今からお墓に向かうとは思えないほど暖かい会話。
でもそのお陰で気持ちがだいぶ楽になった。
「まさかこんな夜に墓地に行くことになるなんてね……こわくないの?」
「それは……言わないで欲しかったです(笑)」
携帯を開いて確認した時間は午後の6時半。
正直、計画もなしにやってきた事を後悔した。
「どうせ詩羽のことだから何も考えずに帰ったきたんでしょ?
彗悟くんも今日はうちに泊まっていきなさい」
幸い明日は土曜日。
泊まることはできるけど……
「そんなっ!お邪魔するわけには……」
「大丈夫よ、今日お父さん出張でいないからちょうど部屋が空いてるの。
雪も降ってるし心配だから」
隣に座る詩羽先輩がぎゅっと僕の手を握りしめる。
『今日はずっと一緒にいたい』
そう言っているような気がした。
「じゃあ……お言葉に甘えてお邪魔させていただきます」
急展開。
まさか付き合いたてのカップルが即お泊まりなんて……
なんて美味しい話……
「そろそろ着くわよ〜」
このまま行こう。
幸せな笑顔のまま翠乃に会いに行こう。
喜ぶかな?
それとも羨ましがるかな?
化けて出てきちゃったりして……
そして笑顔のままお別れしよう。
涙が出るかもしれない。でも、それでも僕は笑い続けていよう。
翠乃が望むように……




