第16話 本当のお話
詩羽の語り回です!
詩羽が彗悟に話していることを鍵カッコなしで表示してると思ってください!
ではではお楽しみください〜
私が生まれたのはここからずっと離れた茨城県の北の方で、今も両親と妹はあっちで生活してます。
東京に出てきたのは高校に上がると同時で、漫画の事もあったけど、一番の理由になったのは正木彗悟、先生の存在があったからです。
この理由を持つには私の中学校時代まで遡らなきゃいけないんで少し長いですけど、我慢して聞いてくださいね?
中学校の頃の私は、どちらかと言えば明るい性格で今高校で私が置かれている状況とは正反対の立場でした。
学級委員をしたり、生徒会に入ったり先生からの信頼も厚かったですし、何より友達がたくさんいたんです。
今と変わらないことと言えば、その時も仲がいい子はいても親友と呼べるほど心を許せる人は一人もいませんでした。
結局、心の中では私が一番周りの人を信用できていなかったんです……
私は運動が苦手で、かといって美術部に入るほど芸術センスもなかったんで漫画研究部っていう部に入ったんです。
そこは部活に入りたくない子達が名前だけ置いて形としては部と言いながら20人いた部員は私以外全て幽霊部員でした。
それでも私は小さい頃から漫画が好きだったのできちんと活動しようと、自分なりに研究して漫画を描いたりしてました。
でも私が中学3年になった時、新入部員が入りました。
一つ年下で、親の事情で最近転校してきた女の子です。
その子は素直で優しくてとても可愛らしくて、私はすぐに彼女と仲良くなりました。
今まで親友を作れなかった私が初めて心から信頼出来た、親友と呼べる存在でした。
私と彼女は、2人でタッグを組んで漫画を描くようになりました。
絵は描けてもストーリーがぱっとしなかった私と、物語の創作がとっても上手な彼女と、初心者ながら結構ちゃんとした作品を描いてたと思うんです。
3年前のクリスマス、彼女と出会って8ヵ月が経った時、漫画の新人賞に応募しました。
いい経験になるからって、初めて締切に追われて、初めて長編を二人で書き上げることが出来ました。
その作品が歌詩のデビュー作です。
審査員の目にとまり、応募者の中で最年少だった私たちが最優秀賞。
もうみんな大騒ぎで……
私たちもすごく喜んだのを覚えています。
きっと2人なら、歌詩ならいろんな人に感動を与えられるって思ってました。
でもある日、彼女が部室で倒れました。
私もうパニックで、携帯も持ってないし職員室にまるで突進するみたいに入って行きました。
彼女はすぐに病院に運ばれて、そのまま入院。
末期の小児ガンでした。
もう手の施しようがないほど全身に転移してて、これだけ転移してたら痛みもだいぶあったはずなのにって。
私その時、彼女のお姉ちゃんに間違えられて!
病院から連絡がいったはずなのにいつまで経っても彼女のご両親はきませんでした。
だから私が姉として彼女の病状を全部聞いたんです。
もって3ヶ月、早ければ今月中もありえるだろうって。
そんなの信じられますか?
今まで当たり前に隣で笑ってた人が死んでしまうって考えられますか?
やっと出会えた親友だったのに……
世界で一番、大切な人なのに……
その夜、私は病室に隠れて彼女と1晩一緒にいました。
離れたくなくて、ずっと一緒にいたかった……
彼女は今まで教えてくれなかった転校する前の話をしてくれました。
包み隠さず何から何まで……
彼女は東京から引っ越してきました。
元々は一軒家に住んでいて、父親は大手企業の社員だったみたいで結構いい生活をしてたみたいです。
でも父親がリストラされて、母親がうつ病に、借金を抱えてどうしようもなくなった彼女の家族は、父方の実家がある茨城に引っ越してきたそうです。
夜逃げ、ですよね。
だから彼女のご両親は仕事で忙しくて病院には来れない。
きっとこれからも来ることはないだろうって。
もう先生も察してますよね?
彼女の名前は式部翠乃。
先生の幼なじみです。
翠乃ちゃん、めっちゃ会いたがってたんですよ?
悪いことしたから謝らなくちゃって、大好きだから早く会いたいって……
そもそも漫画の原作を書いてくれるようになったのも、先生に少しでも近づきたかったかららしいですよ(笑)
でもきっともうそれは出来ないから。
私はその代役を任されたれたんです。
翠乃ちゃんの代わりにあなたに会いに東京まで来ました。
高校も先生の入りそうなところを翠乃ちゃんはピックアップしてて、間違ったら編入すればいいって……
もしも私と先生が出会えたら共作もしなくちゃねって……
やることが大きいですよね(笑)
楽しかったんです、私も。
彼女が死んでしまうことから逃げるように、東京でアパート探して、受験勉強も必死でやりました。
それくらい彼女は命をかけてたんです。
だから私も命をかけました。
受験が終わって、入学して……
転校する可能性もあるから、静かになるべくひととかかわらないように生活しました。
翠乃ちゃんも病気という見えない敵と戦って、余命宣告を受けてから1年が経っても生き続けていました。
先生に会いたい、会いたいって
きっとそれだけで翠乃ちゃんは頑張れたんです……
1年が経って、また受験の季節がやってきて私のいる高校を先生が受験することが分かりました。
まだ出会えたわけでもないのに、私は飛び跳ねて喜んで……
でもその報告をする前に翠乃ちゃんはこの世からいなくなりました。
あまりに突然で、私は死を受け入れられなかった。
だってそれくらいまだ元気だったから。
いや、勝手に元気だって決めつけていたんですよね……
先生が入学しました。
翠乃ちゃんからの話で何もかも知り尽くしている存在なのに、どうしても遠かった。
翠乃ちゃんがこの世にいないのに、私だけが先生と会っていいわけがない。
翠乃ちゃんが望んでいたことをなかなか果たせなくて、そのまま月日だけが経ちました。
もうこのまま、話すこともしないで卒業するんだって思ってた。思ってたけど……
10月に死んだはずの翠乃ちゃんから手紙が届きました。
どうやらナースさんに頼んでいたらしくて、分厚い書類用の袋に入ったたくさんの言葉が私を包んでくれました。
歌が死んだ今、歌詩としての活動はもう出来ない。
ショボイストーリーしか思いつかない私に歌詩なんて名乗る資格はないのに……
そんな思いをかき消すかのように手紙にはこんな言葉が書かれていたんです。
『歌詩の歌はきっと彗悟が引き受けてくれる。
詩羽と彗悟が描くストーリーならきっとたくさんの人に感動を与えられるね』
涙が止まらなくなりました。
まるで全てを見透かしていたみたい。
行動に移す勇気はまだなかったけど、絶対話しかけてみせるってその時覚悟を決めました。
ずっと描いていなかった漫画も少しずつ感覚を戻していって、翠乃ちゃんに笑われないようにしようってたくさん練習しました。
そして私は大きな賭けに出ました。
『私に小説を教えてください』
優しい先生なら絶対に拒否したりしないって確信があって、少しずるいけど翠乃ちゃんとの約束を果たすためなら……と無理やり話をまとめました。
秘密ばっかり、演技がヘタクソで先生も呆れて私のことなんか相手にしてくれないかもしれないって考えたりもしましたけど、そんな考えとは裏腹に先生は快く私を受け入れてくれました。
その時だったと思います。
翠乃ちゃんとの約束を果たすためじゃない、ただ純粋に正木彗悟という存在に惹かれていきました。
唐突に共作が決まった時は、突然過ぎて頭がパニックを起こしてしまいました。
翠乃ちゃんの願いを叶えられる。
でも私が隠してきた全てを先生に打ち明けなければいけない。
ありのままの自分を大好きな先生の前にさらけ出すのがすごく怖かった。
でも先生が私の教室に来てくれた時、あぁこの人にもう隠し事をしていたくない、全てを話したいって思えたんです。
その時はまだ勇気が出なかったけど、今こうやって話す勇気をまた先生に貰ったんです。
ありがとうございます。
ようやく、すべてをあなたに話すことが出来ました。




