プロローグ~side詩羽~
どど、どうしましょう!
私、とうとう話しかけてしまったわ。
しかもあんな恥ずかしい言葉を自分からだなんて……
人に話しかけるのなんていつぶりかな……。
暗い、私の世界に光を与えてくれる先生。
その先生が今目の前にいる。
なのに、私と来たら……。
立つ足がプルプルと震え出してはやく、はやくここから逃げ出したいと思うのだけど、心に反した自分の言動がそうさせてはくれない。
「あの…どちらでその、僕が作家だと知ったんでしょうか?」
「あ、わ、私!!先生の大ファンでっ!!!!
その…サイン会も1度も欠かさずに行ってますっ!」
「え?そうなんですか?!それは、ありがとうございます。」
不審そうに私を見ていた目が一瞬にして優しく暖かい目に変わった。
あぁ、先生はやっぱりとてもあの小説を書いているようには思えません。
それほどまでに整った甘い容姿…。
私はもうずっと先生に恋をしているのですよ…。
「あ、でもそんなにサイン会に来てくれているのに、サインいりますか?」
「もちろんですっ!!!!
保存用、鑑賞用、ファン友との共有用と持ち歩く用…。」
「持ち歩く…用?」
「……。」
自分の発言のおかしさに今になって気がついた。
どうしましょう、先生完璧に引いていらっしゃる…
でも嘘じゃないのに言い訳なんか見つからないよ~
「…ごめんなさい。」
「え?」
「気持ち悪くてすみませんっ!」
あ〜もう涙が出そう。こんなことになるならいっそ、話なんかかけなければよかった…。
「いや、謝らないで下さい!
その、ただ嬉しかっただけなんです。」
「え?うれしい?」
「はい!だってこんな…僕なんかの作品を好きでいてくれるなんて…」
先生のサイン会は全国各地で行われる。だから先生もバレないと思っていたんだろうし、普通のファンはきっとそこまではしない。
「しかも驚いて…。まさかあの両堂先輩がラノベなんか読むと思ってなかったから。」
…やっぱり。
この学校にいれば誰だって。
「私のことも知っているんですね?」
「そりゃもちろん。この学校の人なら誰だって。」
冷徹女。
だったかな、最近の私のあだ名。
本当はそんなつもりなんかないのにどうしても言葉では嘘を並べてしまう。
だから私は人と接せられない。
「先生…。臼杵陸翔先生。」
「ちょっと、そのなまえ…」
「私に先生の世界を教えてください。」
本当に暮らしたかった世界、私が願う未来…。
きっと先生なら叶えてくれる…。