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迷惑な僕の女王様  作者: 楓 那夏
第1章 青春SENSATION!!!!
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第15話 君のために僕ができる全てを

 「先生っ」


 夕日を見ながら自分のなかで暴れる感情を整理できないまま、力なくベンチに持たれかかっていた僕の前に息を切らした詩羽先輩が走りよってきた。


 「ハァハァ、探したんッですよ……」


 時刻は4時52分。


 僕が部屋を退室して約20分が過ぎている。

 その間、ずっと僕を探して走っていたんだろうか……


 「お話したいことが、あります」


 今更なんだろう……

 僕に何の話があるんだろう……


 詩羽先輩を見上げる視線が自然と鋭くなる。


 「さんざん人に隠しごとしといて、僕は今先輩と話すことないです。

 消え……」


 はっ、と息を飲む音が聞こえた。


 でもなんで?

 怒っているのに、彼女に消えてなんて言えない。


 「……嘘です。

 なんですか?話って

 惨めな僕を笑いにきたんですか?」


 辛かったのに、苦しかったのに、彼女の前から消えることは出来ない。


 重症だな。


 ただ怒りをまき散らして、翠乃の事まで傷つけたあの頃の恋とは違うんだ。


 出会ってたった1ヶ月なのに僕はどうしようもなく詩羽先輩が好きだ。


 「先生……私やっぱりクリスマスじゃなくて、今全てを先生にお伝えしたいんです。

 私がなぜ先生に小説を教えてもらっていたか。

 なぜ歌詩の歌が今日、この場にいないのか」


 僕にゆっくりと近づき、そして彼女は僕の前に跪いた。


 「でもその前に……謝らせてください……


 ずっと黙ってて、隠したままでいてごめんなさい……」


 夕日の光に照らされた彼女の目には涙が浮かんでいて、その口元は苦しそうに震えていた。


 僕だけじゃなかった……


 偽物じゃなかった彼女の優しさは彼女自身をこんなにも苦しめていたんだ。


 「何も言わない私をそばでずっと支えてくれて……

 1人だった私に手を差し伸べてくれて、ありがとうございました……」


 次第に嗚咽が激しくなって、床についた膝がガクガクと震えだした彼女のその手をそっと握った。


 「なのにッ私……

 ずっと言えなくて……

 ごめんなさい、ごめんなさい……」


 泣かせているのは、僕なんだ。


 隠していたことをあっさりと僕の前にさらけ出す彼女を見て、戸惑いが怒りに変わった。


 でも違かった。

 僕の勘違いだった。


 彼女はずっとこうして1人で苦しみを抱えていたのに……


 自分の心の荒波が落ち着いて、穏やかな気持ちが押し寄せてきたことを感じた。


 ベンチから立ち上がりそのまま跪いている彼女を腕で包み込む。


 泣きじゃくる彼女はそれでも僕の腕の中でわなわなと震えていたけどその背中を僕は優しくさすった。


 「さすがに戸惑いましたし、怒りました。

 だけどもういいんです。

 詩羽先輩の気持ちはちゃんと僕に伝わりましたよ」


 「ッハァハァハァ」


 「だからもう泣かないでください。

 先輩のお話、聞かせてください」


 「ンック、ハァハァ」


 「ほーら、泣き止まないと日が暮れちゃいますよ」


 そう言うと詩羽先輩は僕の肩に顔を埋めて背中に手を回してギュと抱きついてきた。

 そして乱れた息を整えるように大きく深呼吸をした。


 今の光景、ほかの人に見られたらどうしよう……

 一応ここって会社なんだけどな。


 そんな考えが浮かぶほど僕の心にも余裕が出来てきた。


 ホントに僕はバカだ……


 「あのね、先生。

 たとえ私がひどい顔をしてたとしても笑わないでくださいね」


 「……笑いませんよ」


 もごもごと僕の胸の中で反響していた声が、すっと、広がって……


 僕の顔のすぐ下、少し動かしてしまえば触れることが出来るようなそんな距離に目をうるませて上目遣いをした詩羽先輩の顔があった。


 「嘘つき、どこがひどい顔なんですか?」


 「先生、お願いです。

 私を……嫌いにならないでください。

 お願い……」


 嫌いになんてなれる訳ない。


 散々怒ったけど、もういいやって諦めそうにもなったけど……

 こんな愛おしい人嫌いになれるわけない。


 そこからはもう無意識だった。


 涙を溜めたままのその目を指でそっと撫でたあと、その柔らかくて白い頬に手を添えた。


 「好きです」


 触ったか触らなかったか分からないくらい優しく、僕は詩羽先輩にキスをした。


 「んっ」


 驚いたように目を見開いている彼女のまぶたにもキスをして、恥ずかしくて赤くなった自分の頬を抱きしめることで隠した。


 「泣きやみましたか?

 僕は詩羽先輩を嫌いになったりしませんよ。

 ……大好きです」


 「……嘘……」


 抱きしめ続けている腕の中で、詩羽先輩は泣いていたことすら忘れて驚いているからヤッケになってもう一度言ってあげた。


 「大好きです」


 「もうーーー先生のバカぁ〜」


 するとなぜだか再び泣き出す詩羽先輩。


 「え?なんでまた泣くんですか?」


 「……嬉しすぎます〜」


 「え……?」


 「私も大好きです、慧悟くん」


 彼女が抱えてきた苦しみ全部にちゃんと向き合おう。


 僕ができる全てのことを詩羽先輩のためにやってみせよう。


 それが僕に選べる唯一の道だ。

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