13話 眠れない夜
ブーブーブー
眠れない夜を見計らってか、偶然か、深夜に携帯を鳴らしたのは巴衛さんだった。
「はい、もしもし」
眠っていて起こされたわけでもないのに、不機嫌そうに電話に出てしまったのはきっと本当に僕が不機嫌だったから。
詩羽先輩のあの冷たい目が、目を閉じると頭に浮かんで離れなかった。
「夜分遅くにすみません。
実は歌詩さんとのPrimulaの漫画連載の日程が正 式に決まりましたので近いうちに顔合わせと話の内容の確認として打ち合わせをしたいのですが、3日 後の放課後のご予定は……」
「特にはなにもないよ」
「了解です。」
「でもなんで放課後?別に学校抜けてもいいよ?」
過去に上との大事な打ち合わせや販売の話についての会議とかに参加する時は、大抵大人の事情にあわせてたから学校を抜け出していた。
むしろ放課後に打ち合わせなんか初めてだな……
「自分もまだお会い出来てなくて聞いた話なんです が、どうやら歌詩さんも高校生らしいんですよね……
しかも2人組の」
「へー……マジか」
初耳だった。
あれほど尊敬してやまなかった歌詩さんがまさか高校生だなんて……
「反応薄いっすね(笑)」
「ごめん、寝れてなくて……」
「だ、大丈夫ですかそれ?!
俺、今からそっち」
「こなくていいから。
んじゃ、3日後ね」
「はい、よろしくお願いします。
よく寝てくださいっ!」
「わかったよ……」
中学の頃から寝られない夜は巴衛さんの声を聞いてた。
今日とは逆に巴衛さんの方が先に眠りについていたとしても、必ず電話をとってくれた。
僕の何も聞かない。
ただ他愛もない話をして、少ししたら電話をきる。
それだけで何故かあったかくなるんだ。
明日、詩羽先輩は図書室に来ない。
きっと明日も明後日も……
さすがにもうわかる。
僕は詩羽先輩のまだ触れてはいけない部分に触ってしまった。
怒ったとかそういう感じじゃない。
聞いて欲しくないことを聞いてしまったようなそんな感じ。
でも仕方ないよ。
知りたいだから。
「好きだから……」
真っ黒な天井に詩羽先輩の笑顔が見えた。
閉じた瞼に詩羽先輩の後ろ姿が見えた。
今はただ待とう。
詩羽先輩が話したくなるのを……
そのまま僕は眠りに落ちた。




