SIDE STORY〜コイスルオトメ〜
「もうホントに、男って何なのー?」
メロンパンを大きな口で噛みちぎったその女の子は、制服姿のまま自宅のソファーであぐらを組んでいた。
「おー、花恋もそう思うぞー」
その隣でどこか顔の似た女の子が同じくメロンパンをかじりながら(サイズや食べ方に大きな違いはあるが)可愛らしくソファーに腰をかけている。
「まったく、隣にこんなに可愛い女の子がいるのにまるで私たちのことなんか無視じゃない」
「花恋たちががんばったって、いっつも気づいてくれないもんっ」
下校後、自宅での花恋と空恋だ。
テスト休みに入り、空恋の部活も無くなったため今日は久しぶりに2人っきりで帰ったが話し出すと尽きない恋の話。
2人だって高校生だ。
恋くらいする……
「わざわざ朝合わせて早起きしてるのに、今日なんか『先輩と約束があるから』って何よっ!
幼なじみよりつい最近出会った先輩の方が大事なんですかー?」
「花恋は今日お顔も見られなかった……」
いつもは元気な2人も今日は少しだけ顔が暗かった。
ずっと一緒の幼なじみに恋した時点で、きっと恋人にはなれないとお互いわかってはいたけど……
「嫌いになれたら楽なのにね」
「楽なのにね」
お母さんがこっそり置いてくれたマグカップに入ったココアの湯気が儚く消えていく。
「由宇……」
花恋にとって由宇は出会った当初は世話焼きのお兄ちゃんだった。人より何をやるにしてもワンテンポ遅い花恋のことをいつも気遣ってくれる優しい人。好きだと気がついたのは空恋よりも早い、小学校4年生の時だ。
それでも関係はずっと変わらないまま平行線。
このままじゃきっと一生妹のまま……
「彗悟……」
空恋にとって彗悟はずっと前から隣にいて当たり前の存在だった。だからそばにいないと変な感じがするし落ち着かない。その特別な感情を恋だと知ったのはつい最近のこと。由宇に対しては抱かない思いをいつも彗悟は置いていく。
胸が苦しくなるほどの優しさで接してくれる。
「もうすぐ……」
「クリスマスか……」
「花恋は告白……とかしないの?」
「花恋は……どうでしょうか……
空恋ちゃんはしたいと思ってるの?」
「あの両堂詩羽に取られるくらいなら、取られる前に私だって女だって意識させてやりたいっ」
「両堂……詩羽」
二人とも薄々、最近の彗悟のおかしさに気が付き始めていた。
あれはまるで小学校の頃の翠乃と接する時とまるで同じ……
「最近のけい、なんか変」
「やっぱり花恋もそう思う?」
「うん……両堂詩羽にあってから少し変になった。
でも……」
「ん?でも?」
花恋はテーブルに置いてあったマグカップを両手でもち、もう大して熱くもないはずなのに、ふぅーふぅーと息をかけて冷ます素振りをした。
「空恋ちゃんは何もしなくていいよ。
花恋がどうにかしてあげる?」
そこにはいつもの花恋の面影はない。
その目には少し不気味に部屋の明かりが映っていて、空恋は自分の体温が下がっていくのを感じた。
天然の花恋が本気になる時、目からは光がなくなる。
空恋にとっていつもは妹のような花恋が、自分のお姉ちゃんなんだと思い知る時。
たとえどんなに月日が経っても、花恋のこの目に、私が勝てる日はこない。
空恋には花恋が何を考えているのかわからなかったけど、その時は空恋は何かが変わると確信を持つことが出来た。